精神科Q&A
【0929】「うつ病」と診断されている友人への疑問
Q:
私はうつ病を発症して5年、それから治療を始めて3年の40代女性です。
今日、ご相談したいのは友人のご主人についてです。ご主人は年齢30代後半、うつ病と診断されて1年半、心療内科で治療を受けていらっしゃいます。
以前は、かなり残業に追われる仕事をされていたようで、帰宅は午前2時3時が当たり前だったようです。そんな中、仕事仲間に物忘れが激しいと指摘され、毎朝の疲労感もひどいということで心療内科を受診されました。
診断は「うつ病」とのことで、当時仕事の能率もかなり下がっていたため2ヶ月の休職を勧められました。
ご主人が休んで家にいると「近所の人の目があるので家にいないで欲しい」と友人が言い、漫画喫茶に毎日通っていたようです。
友人はご主人の病気を一日でも早く治したいと、病気に関連するネットを検索したり、心療内科の診察にも毎回同行していました。
「私はこんなに一生懸命なのに、自分の病気を知ろうともしない主人に呆れるし腹がたつ」と頻繁に友人は言っていました。
2ヶ月の休職後、職場復帰されましたが、休職前は「会社を休むことなんてできない」と体調が悪くても休もうとしなかった人が、会社を辞めたいと言い出し、仕事も休みがちになりました。
会社の人間とは会いたくない、話したくないと、電話がかかってきても拒否するようになったそうです。
復帰から1ヶ月半後、心療内科の先生は6ヶ月の休職と診断書を出し、会社は病気に対して理解があり、すぐに休職させてくれたと言います。
うつ病の治療を始めて、数ヶ月で15キロも太ったご主人を友人が「漫画喫茶ばかり行かずに、ジムに通って痩せたほうがいい」と言えば、彼は日課のようにジムに出かけていました。
友人は彼の病気を治すことに必死で、うつ病が治ると言う自然食品を勧めたり、京都の寺に2泊3日の座禅の修行にも何度となく行かせています。
彼は彼女の勧めることなら、どれも嫌がらずに従っていました。
休職期間が終わりに近づいた頃、ご主人の会社の上司はどのように彼を仕事につかせるべきか、病院の先生と本人とを交え話し合ったそうです。
出勤形態は、朝定時に出社し、体や気持ちが慣れるまで午前中だけの勤務と、実に寛容な待遇をしてくれたようです。
休職が明け、ご主人は出社するようになりました。その頃から、睡眠に対する焦りがでてきました。
睡眠を邪魔するものに対して、怒る。
「今夜はちゃんと眠れるだろうか」と毎晩不安がる。
「○○のせいで全然眠れなかった」と愚痴を言うのですが、
就寝時間はいつも深夜で、寝る直前まで飲酒をしていたようです。
睡眠薬が効かず、朝がすごく眠いと医者に訴えましたが、「それは寝る時間が遅いからですよ」と言われ、彼はすぐに納得。それから睡眠への不安は口にしなくなりました。
彼はブログに日記を書いているのですが、毎日きちんと更新しています。
このあたり、同じうつ病の私は「すごいな」と感心してしまいます。
私は書くことが好きでも、それを継続することはできないし、読書、絵を描く、楽器を弾くなどの好きだったことはいまだにできずにいます。
しかし、彼は自分のやりたいことにはとても意欲的で、体力も気力もあるのが羨ましく思ってみていました。
会社に復帰して2ヶ月になりますが、まだまだ会社に行けない日が多いようです。
休職を取ったからと一度に病気が落ち着くことはないでしょうが、気になる点があります。
彼の日記はほとんどが、翌日会社に行くことに関する自分の気持ちを書いています。
その中で、
「明日こそ仕事に行かなくては」
「家族のためにがんばらなくては!」
「明日はかなりきついだろうな」
「明日、行けるかな?」
こんなことを書いたときは必ず会社に行けない。
休日明けはほとんど会社を休んでいる。
うつ病にも個人差があるでしょうが、私の場合、用事がある前日から翌日の心配をすることはありません。当日、用意する気持ちになれず行けないことはあります。不安感がないのは抗うつ剤のおかげだと思っています。
彼を不思議に思ってしまうのは、彼の不安が会社に出勤することのみに限定されていること。この1年半、その不安が改善されてるようには思えないこと。
会社以外の外出に関しては驚くほどのエネルギーを使えること。
例えば、ジムや漫画喫茶には朝早くから行ける。
月に3、4回楽しくキャンプに行けること。
子供の行事にも遊びにも欠かさず同行できる。
休日は食事の用意や後片付けもしているとのこと。
天候が悪くキャンプが一日でも伸びると子供のようにすごく落胆する。
夏のお休みには、夫婦それぞれの実家への帰省とキャンプというイベントを一週間続けて一気にこなし、車での走行距離1500キロということ。私にはとても考えられないハードスケジュールです。
この休みの最終日にも「明日から仕事。3日間はかなりきついだろう」と書いて、やはり3日間休んでしまいました。
未だに、自分に対してプレッシャーのかかることを言い続ける彼。
本当に自分の病気と向き合ってるのだろうかと心配です。
私のうつ病のように気分に波があるということも彼には見受けられません。
会社へ行けるだろうか?という不安だけが延々続いています。また、自虐的に考えて落ち込むこともないようです。
処方に関することは聞いたことがないのですが、お薬が症状に合っていないのか、うつ病ではなく、他の病気ではないのかとおせっかいとは思いつつ心配です。
「一度他の病院で診察してもらったら?」と言うのは出すぎたことなのでしょうか?
林: この30代後半の男性は、うつ病ではないでしょう。最初に休職を余儀なくされた時期は、うつ病だった可能性はわずかにあります。(しかし、おそらくそうではないでしょう。単なる過労だったのではないでしょうか)
少なくとも現在の状態は到底うつ病とは思えません。すなわち、
会社以外の外出に関しては驚くほどのエネルギーを使えること。
例えば、ジムや漫画喫茶には朝早くから行ける。
月に3、4回楽しくキャンプに行けること。
子供の行事にも遊びにも欠かさず同行できる。
休日は食事の用意や後片付けもしているとのこと。
天候が悪くキャンプが一日でも伸びると子供のようにすごく落胆する。
夏のお休みには、夫婦それぞれの実家への帰省とキャンプというイベントを一週間続けて一気にこなし、車での走行距離1500キロということ。私にはとても考えられないハードスケジュールです。
上記のようなことは、うつ病ではまずあり得ないことです。現在のこの方は、単に仕事を嫌がっているだけだと思います。(それが意識されているかされていないかはまた別の話ですが)
この方は擬態うつ病の一種でしょう。
そしてもう一つ、この方の奥様(つまりあなたの友人)の、うつ病についての知識は、かなり誤りが多いようです。一生懸命なのはよくわかるのですが、
うつ病が治ると言う自然食品を勧めたり、京都の寺に2泊3日の座禅の修行にも何度となく行かせています。
このようなことをしてうつ病が治るはずがありません。うつ病の相談室のp.187、質問32のご家族と同様の例であるといえます。
この奥様は、うつ病について世に流布している誤った情報に踊らされているように見えます。それゆえ、この方がうつ病ではないということも見えないのだと推測されます。
いずれにせよ、このままでは良い方向に進むことは期待できません。
「一度他の病院で診察してもらったら?」と言うのは出すぎたことなのでしょうか?
これが出すぎたことかどうかは、あなたとこのご夫婦の関係によるので私には判断できません。しかし、この奥様に、うつ病についての知識に誤りが多いことまではお伝えしていいと思います。こういう方にこそ、擬態うつ病を読んでいただきたいところです。