精神科Q&A
【0913】霊視をしてもらい先祖供養をしてほしいと言う娘
Q:
現在28歳になる長女は10年間のひきこもりを経て、約2年前に統合失調症(精神分裂病)によるひきこもりとの診断で、薬を服用するようになり、現在は一人で通院、買い物、散歩等には出掛けられるようになりました。今も定期的に診察を受け薬も継続しています。
ただひきこもり中に、ある宗教家の書いた「精神病は病気ではない」という本を読んでからずっとその本にこだわりつづけていて、娘の一番の確信部分である悩みの「私は誰を見てもセックスに見える」という色んな性的な悩みは、本の中に書いてあるように霊視をして先祖供養をしなければ、病院や薬などでは絶対治らないと信じ続けています。
ひきこもっているときからずっとお世話になっているカウンセリングの先生からの助言もあり、4年ほど前に主人とともにその宗教家を2回訪ね、霊視もしてもらったのですが、どうしても不信感もあり、お金も大変かかるため、娘にもはっきり伝えたつもりだったのですが、又最近「性的な悩みさえなかったらもっと色んなことが出来るのに、先生、両親にまた霊視をしてもらうように言ってください」とカウンセリングの先生にいっているのです。その先生とは、現在、過去の抑圧された気持ちを解いていくことを話しあっているそうです。娘をもう一度その宗教家のところに連れて行くべきかどうかで悩んでいます。どうしたらよろしいのでしょうか。
林: もちろん統合失調症が霊視なるもので治るはずはなく、この宗教家の行為は詐欺です。このようなエセ治療によって高額な料金を取り、しかも患者さんを不幸に追いやるという行為は、どの時代にもどの国にもあることで、こうした詐欺師が有罪の宣告を受けたという事例が最近もありました。
「精神病は病気ではない」という見解も、昔から一部の人々によって主張され続けてきたことです。かつてはこれが「反精神医学」として、一定の勢力を獲得した時代もありました。
思想史という観点からは、「反精神医学」も興味深いものですが、患者さんの救済につながっているかどうかという観点から見れば、もはや現実の中で取り上げるレベルのものではなく、単なる歴史上の思想とみなすべきでしょう。
それでもカウンセラーの先生がこの霊視に同意されたのは、本人がそれを信じ、その結果気持ちの安定がある程度でも得られるのなら、やってみる価値はあるということだったのだと思います。私も基本的にはそれに同意します。娘さんがこの宗教家を信じてしまった以上、詐欺だからといってそれを否定して、ご家族との関係や治療そのものを崩壊させてしまうよりは、あくまでも本人の安定を少しでも得るという意味で、あえて詐欺にのるというのは現実世界での正しい行為といえると思います。
ただしそれには限度があります。
どうしても不信感もあり、お金も大変かかるため、
不信感の方は当然のこととして(本当は「不信感もあり」という言葉は軽すぎて不適です。この宗教家は詐欺師だということをはっきり認識したうえで行動すべきです)、金額のほうは際限なく受け入れるわけにはいきません。結局は、この宗教家にかかわることによって娘さんが得られる精神的安定と、かかる金額とのかねあいによって決めるしかないでしょう。