精神科Q&A

【0894】ある日突然行方不明になってしまった摂食障害の18歳女性


Q私は41歳の女性です。私の娘の友人(18歳女性、高校生)が、義父から性的虐待を受けていると相談を受けました。
彼女は、母子家庭で育ちましたが、中3の時、母親が自殺。即、叔父夫婦の養女としてひきとられました。そこで、その叔父、つまり義父から性的虐待を受けていたのです。

即彼女に会い、その後児童相談所に行き、彼女はその日から保護され、養護施設に入園しました。明るくて、勉強が出来て、とてもかわいい子でした。事実、相談所で受けた、カウンセリングや精神科の診察でも特に異常はなかったそうです。むしろ、情緒もとてもよく、それはおそらく幼少期、祖母と生活していたときの環境がよかったものと思われると、心理担当の方からお聞きしました。摂食障害があることをのぞいては。

当時まだ、彼女の摂食障害はそれほどひどいものではなかったそうです。しかしそれが長引くとリストカットなどの行為も出てくるから、施設に入ってからも精神科の通院をさせるとのことでした。

それから数ヶ月たった今年の夏。その頃娘と彼女は距離をおいていました。私は彼女の事を心配しながらも、元気でやっているものと思っていました。
ところが、相談所から電話があり、彼女が行方不明だと知らされました。突然いなくなってから1週間は経っていて、まもなく公開捜査になりました。うちの娘に連絡はなかったかという電話でした。もちろん娘には全く連絡はなく、娘も心配で必死で心当たりを探したり、留守電になったままの彼女の携帯に何度もメッセージを残したりしていました。その甲斐もあり、ようやく彼女から娘に連絡がありました。「何のために生きているのかわからなくなった」ということでした。
彼女はわが家に戻ってきました。

相談所にも許可を得て、彼女が落ち着くまで2,3日、わが家に泊まる事になりました。
施設を出て一体どこにいて何をしていたのか・・それはとても驚きの内容でした。
自転車で、200キロも300キロも離れた土地までふらふらと野宿しながら行っていたのです。途中、ホームレスの人に声をかけられダンボールを借りて寝たり、安い温泉でたまたま話をしたおばさんの家に泊めてもらったり。無人駅で寝たり。
そして私が一番不自然に思ったのは、彼女の様子です。落ち込んでいるものと思っていたのですが、まるで何事もなかったかのようにケロッっとしていました。うちに戻ってきた翌日には、勉強がしたいとまで言い出したほどです。また、さぞ施設には戻りたくないだろう、いや、戻りづらいだろうという心配をよそに、彼女は全く躊躇することなく、施設には戻る気満々だと元気よく言ったのです。不自然に思いながらも彼女は再び施設に戻っていきました。

それから約1ヶ月。また彼女が施設を出ました。
死のうと思い、さまよっているうちに倒れているところを通行人に発見されました。
彼女を心配し、探していた娘が彼女の携帯に電話したところ、通行人が電話に出てくれて、偶然近くにいた娘が駆けつけそのまま救急車でかかりつけの病院に。
私も駆けつけました。しかし彼女は、点滴を受けながら娘と話をしていて、廊下にまで聞こえるほどの大きな声で笑っていました。元気そうで良かったとは、とても思えませんでした。その夜はうちに泊まりたいという彼女の希望に、精神科の先生の慎重な判断で許可が出て、うちに泊まりました。
彼女は、ヒステリーパニックという症状で、過呼吸になり倒れたとのこと。

病室では面食らうほどハイテンションな彼女だったのが、病室から出てきたときは、人に支えられなければ歩けないほどの状態でした。ところが病院を離れた途端、ハイテンションな彼女に戻りました。そこでもとても不自然に思いました。翌日から彼女は、精神病院に入院。2週間後、退院しました。
入院は決して強制的なものではなく、自殺願望がとても強かったこともあり、いわば保護のような形での入院だと施設の方から聞きました。
娘からは、彼女が「施設での生活は、私にとってはいろんな面でキツイ。いっそのこと入院したほうが楽になれる」と言っていたと聞きました。

私は、施設の方とじっくり話をし、彼女が、施設内でも、私が不自然と思う行動を繰り返していたことを知りました。
一度、散歩に行くという彼女に、小学生の子供をあえて付き添わせたところ、徒歩でかなりの距離を歩き、山にまで登ったらしく、小学生はへとへとになって帰ってきたけれど、彼女はケロッとしていたということなども聞く事ができました。どこまででも歩いていくし、最初の家出のときのような長距離の自転車での移動も、彼女にとってはなんてことはない行動なのだと言う事も。正直「普通ではない」と言われました。
精神科の先生の話によると、こうすれば治るとかそういったことじゃなく、彼女の自殺願望や、ヒステリーパニックなどの症状は、今後もずっと繰り返されるだろうとのこと。
結果的には「正直どうすることもできない」ということのようでした。

今、彼女は、児童相談所に保護されていて、今後、施設に戻るか、別の施設に移るかを検討されているそうです。今までの施設は4階建てということもあり、いつでも身を投げられるという心配と、環境を変えたほうがいいのかもという精神科の先生からの判断からだそうです。しかし、その自殺願望は、実際には死に至ることはないだろうとのこと。でも、絶対ではないので、細心の注意も必要だと。

彼女の摂食障害は施設に入ってから、悪化しました。過呼吸も以前にはなかったことです。
娘からは、昔から、小さな家出をしたことがあるらしいとは聞いていましたし、彼女本人から、小さなときから漠然と、生きていく事への不安はあったと聞いた事はあります。
しかし、学力の相当高い子で、勉強がとても好きで、国公立の大学にも無理なく受かる範囲で、将来の夢もしっかり持っていたので、摂食障害と向き合いながら、なんとか良くなっていくのではと思っていました。しかし今ではもう、社会生活はもちろんのこと、大学生活も難しいだろうと思われますし、今後彼女はどうなってしまうのだろうと心配します。精神科へも通い、薬の服用もし、私たちのような素人ではなく、ある程度知識のある方が揃った施設や、相談所で生活をしていてもなお、彼女はよくはならないのです。いや、ますますひどくなるばかり。

施設の方の話によると、彼女の行動への不信から、だんだん団体生活も難しくなってきているし、他の人間関係でも問題が生じてきているとのことでした。
今後、娘との付き合いが続く限り、施設や相談所のスタッフの方と連絡をとりあうことにはなっていますが、私も娘も、彼女にどういった対応をしていけばよいのでしょうか?
意識せず、普通につきあっていけばよいのでしょうか?
例えば私は大人として、時には厳しく言う事も必要なのか、あくまでも柔らかく接したほうがよいのかなど、迷います。

彼女の一連の行動は、一体どういったものなのでしょうか?そして、治療法は本当にないのでしょうか?
彼女が今後更に悪化していった場合、どういった症状が表に出てくるのでしょうか?

大変長くなり、申し訳ありません。御回答をよろしくお願いします。



林: 
ところが、相談所から電話があり、彼女が行方不明だと知らされました。突然いなくなってから1週間は経っていて・・・

自転車で、200キロも300キロも離れた土地までふらふらと野宿しながら行っていたのです。途中、ホームレスの人に声をかけられダンボールを借りて寝たり、安い温泉でたまたま話をしたおばさんの家に泊めてもらったり。無人駅で寝たり。

これは遁走(フーグ)という症状で、解離性障害の症状として時折みられるものです。発見されたときに、その期間の記憶がなかったり、時には自分が誰であるかという記憶がないというケースもあります。

解離性障害は、かつては「ヒステリー」と呼ばれていたものです。
上記の遁走も「ヒステリー性遁走」と呼ばれることもあります。(ただし「ヒステリーパニック」という言葉は存在しません)
そして、ヒステリー(つまり、解離性障害)では、自分の症状について、客観的には重大であるのにもかかわらず、深刻味に欠けるのが特徴の一つです。これは「満ち足りた無関心」と呼ばれています。下記はまさにこれにあたるといえるでしょう。

そして私が一番不自然に思ったのは、彼女の様子です。落ち込んでいるものと思っていたのですが、まるで何事もなかったかのようにケロッっとしていました。うちに戻ってきた翌日には、勉強がしたいとまで言い出したほどです。また、さぞ施設には戻りたくないだろう、いや、戻りづらいだろうという心配をよそに、彼女は全く躊躇することなく、施設には戻る気満々だと元気よく言ったのです。

つまり、これは確かに客観的にはあなたのおっしゃるように不自然に見えますが、解離性障害としてはむしろよくあることと言えます。

それから約1ヶ月。また彼女が施設を出ました。
死のうと思い、さまよっているうちに倒れているところを通行人に発見されました。
彼女を心配し、探していた娘が彼女の携帯に電話したところ、通行人が電話に出てくれて、偶然近くにいた娘が駆けつけそのまま救急車でかかりつけの病院に。
私も駆けつけました。しかし彼女は、点滴を受けながら娘と話をしていて、廊下にまで聞こえるほどの大きな声で笑っていました。


このように、自殺願望という深刻さにそぐわない明るさも、「満ち足りた無関心」と共通する色彩があると言えるでしょう。

彼女の一連の行動は、一体どういったものなのでしょうか?

ここまでご説明したように、ひとつは解離性障害の症状として理解できます。さらにこの方には摂食障害と過呼吸があります(先に述べたように、「ヒステリーパニック」という言葉は存在しません)。これらは全く別々に出ることもありますが、この方のように、小児期に虐待を受けた場合に、しばしば出る症状であることが知られています。ですから、この【0894】では、性的虐待と今の症状の関連が否定できないでしょう。

治療法は本当にないのでしょうか?

治療が難しいことは事実です。適切な治療をしても、症状は良くなったり悪くなったりを繰り返すことが予想されます。しかし、治療法がないわけではありません。
治療法として望みがあるのは精神療法です。このようなケースを専門にしている精神療法家 (精神科医、またはカウンセラー)による治療を、できれば受けたいところです。ケースによっては集団療法のほうが効果が期待できる場合もあります。



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