精神科Q&A
【0891】高校1年の娘のうつ病の治療
Q:
高校1年生の娘が、5か月ほど前から、眠れない、体がだるく気分が悪い、頭が痛い、体が動かない、食欲がない(1ヶ月で5kgの体重減)など体調不良(特に午前中)を訴え、不登校状態になってしまいました。生きていてもしょうがない、死にたいなどとの言動もあったので、1ヵ月後に心療内科を受診したところ、その場でうつ病と診断され、服薬と休養による治療が始まりました。原因は、本人によれば、学校での対人関係にかなり悩んでというものでした。親はまったく気づきませんでしたが、本人によれば5〜6年前から学校で仲間はずれに会い、本人としては、なんとかしようと努力したがどうにもならず、自分の性格のせいだと決め込んでいます。治療内容、病気の経過は、以下のとおりです。
(治療内容)
毎週1回受診(20分程度)
服薬
・当初:就寝前トリプタノール100r、マイスリー10mg、食後1日3回(当初は2回だったが、途中から増えた)トレドミン25r、デパス0.5r、ナウゼリン10r。(ナウゼリンは、吐き気止めとして途中から処方された)。
・治療開始後約2ヵ月半経過した時点で、リストカットなど自傷行為が頻繁化したため、薬の内容がかなり変更になった。
・変更後:就寝前トリプタノール50r、レンドルミン0.25mg、マイスリー5mg。朝夕2回デパケンR200r、コンスタン0.8r、ルボックス25mg、毎食後吐き気止めとしてナウゼリン10mg、ガスモスチン5mg。
カウンセリング
・1.5ヶ月ほど前からカウンセリングを受けたい(自分の性格を改善するため)と言い出し、週1回30分のカウンセリングに通い始める。
(改善した点)
@食欲がだいぶ戻った(朝、昼は、起きられないので、夕食および夜食の1.5食程度だが、量的には、かなり食べられるようになった)
A買い物や好きだったタレントには興味を示し、わりと長時間の買い物やビデオ編集ができるようになった。
B学校には行けないが、週に2〜3回は短時間の家庭学習ができるようになった。
(改善していない点)
@朝は依然全く起きられず、3時過ぎに親に言われてなんとか起きる。
A買い物や家庭学習などをした翌日は、疲れがひどいのか、特に、翌日の体調が悪い。
B週に何度か、かなり落ち込み、生きていたくないなどとの言動がみられる。
先日主治医と面談し、病状、治療方針について説明を求めたところ、学校を休み出した1〜2ヶ月はかなり改善し、70%程度回復しているが、最近は停滞している。おそらく学校に行くことができないという焦りが回復を遅らせているものだと思うとのことでした。また、その際、自分は10代のうつ病に対する治療経験が乏しく、経験のある医者を紹介することはできるが、最低でも半年程度は経たないと医師の治療に問題があるとはいえないので、もうしばらく様子をみたいとも言われました。
親としては、迷っています。
医師が、娘の年代の治療経験が少ないといっている以上、早めに、医師を変えるべきでしょうか(娘と主治医の関係はまずまず良好です)。
林: 今の医師の治療を続けるべきだと思います。
医師が、娘の年代の治療経験が少ないといっている
このように言われれば不安になられるのは自然ですが、それよりも現にこの医師の治療により改善してきているという事実を重視するべきだと思います。
また、この医師が、改善してきているからと言って決して楽観的になったり安易に良い見込みをあなたに告げたりせずに、
70%程度回復しているが、最近は停滞している。おそらく学校に行くことができないという焦りが回復を遅らせているものだと思う
最低でも半年程度は経たないと
というように、かなり冷静かつ妥当な判断をされていること、さらに、必要なら他の医師を紹介すると言っておられることなどから、少なくとも現時点ではこの医師を信頼して治療をお任せしていいと思います。
信頼できる医師かどうかの判断は非常に難しいものです。最近は「専門医」という制度もだんだん出来てきていますが、はっきり言えばその実情は頼りないものです(将来は「専門医」という資格は信頼できるものになると思われますが、今のところはまだまだ名前が先行していると言えます)。
そうなりますと、ひとつは医師の経験を重視するというのがある意味ではもっともな考え方ですが、治療経験が豊富でもそれは単に診た患者数が多いだけであって、治すことができた患者数が多いとは限りませんので、少なくともこの【0891】のケースでは、これまでの治療で改善してきているという事実を重視し、医師の言葉どおり最低でも半年は(最低でも、です)今の病院で治療を続けたほうがいいと思います。