精神科Q&A
【0859】うつ病の原因となったストレスを抱えたままで完治する見込みはあるでしょうか?
Q:
私(48歳、男)は、医薬品関係の会社に研究員として働いています。
1年半程前、急に体調を崩して病院へ行くことになりました。最初は、胃潰瘍がまたできたのかと思い、別の病院で診察を受け、胃カメラも飲みました。(20年程前に胃潰瘍を発症し、再発が続くため、10年程前に除菌をして完治していたものです。)しかし、何らの異常もなく、近所の精神科へ行きました。そこでうつ病と診断されました。
家に帰ると治り、会社へ行くと具合が悪くなる。腹痛、全身倦怠感、なんとも言えない焦燥感が主な症状です。症状の出方から仕事に関連するストレスから出るものだと判断しました。
当時お役所絡みの面倒なプロジェクトを担当しており、約3年間に渡って進展が見られなかったというストレスが、最も大きな原因だと思われます。このプロジェクトは、自分でもどうしてもやり遂げたいと思っているので余計にストレスとなってしまったのかもしれません。内容は会社の秘密に属することであるため具体的にはお書きできませんが、やり遂げれば、ある病気に苦しむ多くの方々への大きな恩恵になるものです。そして、もし私が下りてしまうとプロジェクトそのものが消滅する可能性も大きいため、どうしてもやり遂げたいのです。
そこで、会社を休職し様子を見ることにしました。最初は1ヶ月の予定でしたが、結局1年程の休職期間を経て、復職しました。休職中は、妻と一緒にあちこち遊びに行ったり山に登ったりと楽しく過ごすことができました。休職期間が長くなったのは、復職して以前の業務を遂行する自信が持てなかったためです。しかし、復職後の業務内容は休職前と変わりませんでした。そして、ストレスからだと思うのですが、会社に長く居ると強い焦燥感に襲われるようになり、半日で帰宅させて貰うようになり現在に至ります。復職後の収入は、働いた時間の分だけで、非常に不安定です。
病院で処方して頂いている薬は、色々と変わりましたが、現在は以下の通りです。
アモキサンカプセル25mg 2T ×3
トレドミン錠 25mg 1T ×3
レキソタン錠 2mg 2T ×3
パキシル錠 20mg 2T ×1
今を踏ん張って、完全に復職することを目標にするか、退職して新たにやり直すか思案しています。当社は、医薬品関係の企業なので、うつ病に対して理解のある上司もいるのですが、そうでない上司もいます。
担当医師からは、頑張り過ぎないように言われています。退職にも反対はないようです。
そこで質問なのですが、うつ病の原因となるストレスを抱えたままで完治する見込みはあるでしょうか?
闘病期間が1年半と長いことも気になります。とは言っても、休職中は症状は殆どなかったので実際の期間はもっと短くはなりますが・・・治療をすればうつ病は数カ月で直るものだと思うのですが、ストレスを抱えたままではダメなのでしょうか? それとも私はうつ病ではないのでしょうか? 私には今の仕事を諦めるしか道はないのでしょうか? 先生のご意見をお聞かせ下さい。
林:
うつ病の原因となったストレスを抱えたままで完治する見込みはあるでしょうか?
その見込みは十分あります。
結論をひとことで言うとそうなるのですが、この回答に至るまではかなり複雑です。
それをあえて出来るだけ簡潔に説明いたしますと、ストレスはうつ病の原因ではなく、誘因にすぎないから、とまとめることが出来ます。
ストレスが原因でうつ病になる とよく簡単に言われますが、うつ病の場合はストレスが「原因」といっても、「花粉が原因で花粉症になる」「猛暑が原因で熱中症になる」というようなものとは質が違うのです。この二つのような例では、原因である花粉あるいは猛暑から逃れない限り、完治することはまずあり得ません。けれどもうつ病の場合は、「ストレスが原因でうつ病になる」といっても、そのストレスがあれば誰でもうつ病になるわけではありませんから、ストレスはある意味では単なるきっかけにすぎないのです。ですから、ストレスはうつ病の原因ではなく、誘因と言うべきなのです。
誘因であっても、ストレスから逃れたほうが治療上は望ましいことは確かです。しかしストレスから逃れることは完治の絶対条件ではありません。是非あきらめずに今の治療を続けてください。また、ストレスの受け止め方を変えることも勧められます。それは認知療法的アプローチと呼ばれるもので、これはある程度はご自分でもできます。うつ病の図書室に紹介してある本(『「うつ」を治す』、『いやな気分よ、さようなら』)もご参考になると思います。
やり遂げれば、ある病気に苦しむ多くの方々への大きな恩恵になるものです。そして、もし私が下りてしまうとプロジェクトそのものが消滅する可能性も大きいため、どうしてもやり遂げたいのです。
あなたのこの目的のためにも、うつ病を克服されることを願っています。