精神科Q&A
【0857】病院に行こうとしない統合失調症の息子
Q:
統合失調症と診断された23歳の息子を持つ父(54歳)です。
昨年息子は、記憶障害を起こしたため、大学病院の精神科に連れて行って検査入院させました。10日ほどの入院期間中に様々な検査を受け、統合失調症の可能性が一番高いとの診断結果を受けました。しかし担当医の方が、それほど症状が悪化していないと思われたためか、2週間に1度通院するだけで良いという判断を下され、退院して自宅療養することになりました。
しかし、自宅に帰ってくると、「テレビの報道が自分だけに分かる信号を送っている」とか、「自室に盗聴器が仕掛けられているため疲れる」などと言うようになり、挙句の果てに、「東京にいるとどこでも盗聴や尾行があるので、東京にいたくない。静かな地方に行って一人で暮らす」と言い始めました。さらに「テレビの報道が自分だけにメッセージを送っているとか、盗聴されていると感じたのは入院する以前からあり、そのことを精神科の先生に言っても、先生は盗聴器まで取り除いてくれないので打ち明けなかった」というのです。
思い余って、その旨を病院の担当の先生に手紙を書き、本人には内密で両親だけで相談させていただきました。その結果、「本人に一人暮らしをさせるのは良くない」というご判断をいただき、再入院させるという取り決めを行いました。
そして本人の診察日に家内が同行し、その場で入院することが決まったのですが、本人がそれに激しく反発を感じ、逃げ出そうとしたというのです。そのときに看護士の方に取り押さえられる様子を見て、家内が情緒的な反応を示し、結局入院は見送られることになりました。
その後、本人は病院と家族に強い不信の念を抱くようになり、「二度と病院には行かないし、薬も飲まない」と言い張り、症状を見破られるのを恐れるためか、口さえきかないようになりました。それまでは、私にだけは心を許して症状を訴えることもあったのですが、以降顔さえ合わせることも拒否する次第です。病院の先生に手紙を書いたことは本人には内密にしていたのですが、どこからかそれを察知したらしく、自分の内面を書き綴っていたようなノートさえライターで燃やしてしまいました。
意を決して本人と向かい合い、「同じ病院にはもう行かなくてよいから、どこか別の病院で、せめて再検査だけ受けてもらえないだろうか」と懇願したのですが、本人はかたくなに「自分は病気でない」と言い張り、「仮に病気であっても、周囲の環境が非常に鮮明に感じられるので、それは悪いことではないと思う。だから病気であったとしても治すつもりはない」とまで開き直ってしまいました。
現在本人は、家内の実家のあった空家にこもって一人暮らしをしております。私が仕事に出かけている時などを見計らい、時々は帰宅するようですが、家内の作った料理なども、品目によっては「薬が入っているかもしれないから食べない」などと言うそうです。
ご相談させていただきたいのは、そのように本人がかたくなな態度をとり続けている場合、家族はどのような対応をしたら良いのかということです。あきらめずに、本人が心を開くまで、辛抱強く説得するしかないとは分かっているのですが、現在は言えば言うほど態度が硬化するため、しばらく放っておくしかないような状況です。何かよい対処方法があるのなら教えてくださると幸いです。
林: 統合失調症(精神分裂病)が悪化し病識のない状態で、ご家族として非常にお困りということはよくわかります。
何かよい対処方法があるのなら教えてくださると幸いです。
方法は、入院以外にありません。
まずその現実を、ご家族がはっきりと受け入れることが必要です。
というより、その受け入れがなければ、息子さんの病状改善は期待できません。悪化する一方になるでしょう。ですから、
現在は言えば言うほど態度が硬化するため、しばらく放っておくしかないような状況です。
これには賛成いたしかねます。放っておいて病状が自然に改善することはまず考えられません。息子さんのためには、一刻も早く何とかして入院させる方向に努力されたほうがいいかもしれません。そしてそれが出来るのはご家族しかありません。
今さら言っても仕方ないことですが、以前に入院がいったんは決まった時、それが千載一遇のチャンスだったかもしれません。それを逃したのは息子さんにとってあまりに不幸なことでした。
本人の診察日に家内が同行し、その場で入院することが決まったのですが、本人がそれに激しく反発を感じ、逃げ出そうとしたというのです。そのときに看護士の方に取り押さえられる様子を見て、家内が情緒的な反応を示し、結局入院は見送られることになりました。
この文章からは、おそらく奥様が入院への同意を撤回されたのだと読み取れます。非常にまずかったと思います。この時の情景を想像してみれば、取り押さえられる息子さんの姿を見てかわいそうになったというのはよくわかりますが、病状の悪い統合失調症(精神分裂病)のご家族としての自覚が甘かったと言わざるを得ません。ここで入院のチャンスを逃したことが、現在の八方塞がりの状況を招いたのは明らかです。
このようなことがあると、ご本人の態度が硬化するのは当然です。
その後、本人は病院と家族に強い不信の念を抱くようになり、「二度と病院には行かないし、薬も飲まない」と言い張り、症状を見破られるのを恐れるためか、口さえきかないようになりました。
これは当然予想された帰結です。
また、このようなことがあると、病院の側も、ご家族のスタンスが曖昧であると判断し、その後の治療も腰が引け勝ちになることもよくあることです。
何かよい対処方法があるのなら教えてくださると幸いです。
最初に申し上げたことを繰り返します。入院以外に方法はありません。その現実を受け入れなければ、悲観的な見通ししかありません。入院治療を受けさせてあげることが出来れば、明るい見通しも出てきます。そして、入院を実現することが出来るのは、この状況ではご家族だけです。