精神科Q&A
【0796】17歳からひきこもってゲームばかりしている息子は統合失調症でしょうか
Q: 22歳になる息子が統合失調症と診断されました。先日初めて精神科を受診し、15分ほどの問診の結果でした。 幻聴や妄想は一度もなく、引きこもり(それも完全な引きこもりではありません)の症状だけでもこの病気と診断されることは、普通なのでしょうか?
経過を少し整理して書きます
・17歳から登校拒否になり、まもなく退学しました。
・いわゆる引きこもり状態で、昼夜の逆転、ゲームへの過度な傾倒を続けました。
・家庭内暴力や部屋から出ないなどの激しい症状はなく、食事も普通にとっています。
・退学してすぐ自分から探して入ったゲーム(テレビゲームの一種です)の同好会の集まりには現在も積極的に出かけています。(月に2回程度)
・途中1年ほどコンビニの深夜アルバイトをしていたこともあります。
・昨年、アニメの専門学校に行きたいと言い出し、自分で学校を探し、4月より1.5年制の夜間部に通っていました。
・アルバイトなどはしようとはしません。
・この冬、風邪をひいたのが引き金になったのか、学校を休みがちになり、やめたいと言いだしました。理由は学校の雰囲気が苦痛だとのことでした。
今薬はリスパダール1ミリグラム1錠を2回服用しています。
薬のおかげか、今のところ睡眠のリズムが整っています。
これで少しでも楽になれるのなら、もっと早く受診させればよかったと思います。
引きこもりや、将来に対する設計ができない、団体の中にいることが苦痛、と言った状態が長引いているとき、妄想などの症状がないときでも統合失調の診断が出るのでしょうか。 本に出ている診断基準には合わないように思うのですが。
統合失調症と診断された病院は小規模なクリニックだったのですが、他の医療機関の意見を求めるべきでしょうか。
林: 統合失調症(精神分裂病)は、初期から幻聴や妄想がはっきり現れるケースもあれば、初期にははっきりした症状は目立たず、ただ引きこもりや抑うつ的な面だけが表面化するケースもあります。後者の場合、診断はなかなか難しいことも多いこともあり、医師としては統合失調症ではないかと考えても、それをご本人やご家族に告げるにあたっては慎重を期するのが普通です。しかしこのケースでは、初診の時点で統合失調症という病名を告げられたわけですから、医師からみれば診断はかなり確実だったと考えるべきでしょう。
引きこもりや、将来に対する設計ができない、団体の中にいることが苦痛、と言った状態が長引いているとき、妄想などの症状がないときでも統合失調の診断が出るのでしょうか。
そういうことは十分にありえます。理由は上に述べたとおりです。
引きこもり(それも完全な引きこもりではありません)の症状だけでもこの病気と診断されることは、普通なのでしょうか?
「普通」とはいえません。しかし、これも上に述べたとおりの理由で、それだけで診断されることは十分ありえます。ご家族から見れば単なる引きこもりに思えても、精神科医が見ればかなり確実に統合失調症を発症していると診断できることはしばしばあります。
本に出ている診断基準には合わないように思うのですが。
おそらくICD-10やDSM-Wのような診断基準のことを言っておられるのだと思います。いずれも国際的に認められている診断基準ですが、これらを完全に満たすことが必要なのは、統計や研究の場合だけです。実際の臨床では、診断基準を完全には満たさなくても診断を下し治療を開始するのはむしろ普通です。逆に、診断基準を満たさないからといって治療しなければ、単に悪化を見守ることになり不合理なのは明らかです。
他の医療機関の意見を求めるべきでしょうか。
求めるべきかどうかはともかく、求めてもいいと思います。
ただここで重要なことは、医療機関によって異なる見解が出た場合にどう判断するかということです。しばしばご家族やご本人が陥る重大な誤りは、ご自分の願望する診断名を告げられた医療機関を信頼してしまうということです。それはつまり軽い診断のほうを根拠なく信じ、重い診断のほうを根拠なく受け容れないということです。これでは適切な治療を受けられないことは明らかです。複数の医療機関の意見を求めるときはいつも、ご自分に現実を客観視できる余裕があるかどうかを問い直すことが必要です。