精神科Q&A
【0780】実際に笑っている人を見ると、自分が笑われていると感じる
Q:
付き合っている男性（38歳）のことで質問があります。彼はかなり自意識過剰なところがあり他人が自分をどう見ているか非常に気にする人です。彼は169ｃｍの身長をずっと気にしており2年前に身長を伸ばす手術を外国で受けました。
回復期途中の足を引き擦っている時に二人で旅行した時は、近くで誰かが笑ったりすると（幻聴ではなく実際に笑っている人達のこと）「あの人達は自分の足のことを笑っている。」としきりに言っていました。私はまたいつもの自意識過剰だと思い、「そんなことはない、他のことで笑っているんだ。」といってきかせましたが、本人は半信半疑でした。
それからしばらくはこういうことを口には出さなくなり、私たちのお付き合いも順調に続いておりました。彼は足が完治する間に服飾産業に関しての本を書きたいと、知人の誰もいないところで大学の図書館に通い研究執筆しています。遠距離恋愛なので、私が彼の所に毎週末ごとに訪ねていました。
それが、今月2週間会わなかったときがあり、電話をしたら「もう会えない、本の執筆に思ったより時間がかかり、きみと結婚して幸せにすることはできない。」と消え入りそうな声で言ったかと思うと、突然「ところで、この間の夕食（私が作った）に何か普通でないものを入れたか？自分が寝ている間に背中に何かしたか？」と聞くのです。まったく身に覚えのないことなので否定しましたが信じてくれません。
直接顔を見て話そうと思い翌日会いに行きました。彼のアパートの合鍵をもらっていましたが、彼は錠を付け替えていました。私が夜中にこっそりやってきて危害を加えるのではないかと思うと夜も眠れなくなり付け替えた、とのことでした。ドアの前に立ちドアを開けてくれるようお願いしても、私がそこに立っていたら彼を襲うかもしれないから20 ｍほど後ろに下がれというのです。また２人きりの状況にはなりたくない、何かあって警察がくれば逮捕されるのは自分ともいうのです。
しかたないので喫茶店で会うことにしました。話を聞くと、私の夕食を食べた後ずっと勃起が続いてしまった、今までこんなことはなかった、背中も医者に見せたらレントゲンが必要だといわれた、というのです。驚いた私は、私にはまったく身に覚えのないことである、と必死で彼に説明しました｡
彼は私の言うことを聞いてはくれましたが、どうしても私に対する疑いが消えない、この疑いが消える可能性は薄いと思う、だからもうつきあえない、というのです。私にしてみればたった2週間の間にどうしてこんなに180度も変わってしまったのか見当がつきません。何も根拠がないことについての私への非難、私に対する怯えぶりを見ると悲しくてたまりません。彼は何か精神の病気になっているのかと心配になりご相談させていただきました。宜しくお願いいたします。
林: この男性は統合失調症(精神分裂病)の可能性が強いと思います。
近くで誰かが笑ったりすると（幻聴ではなく実際に笑っている人達のこと）「あの人達は自分の足のことを笑っている。」としきりに言っていました。
このように、実際には自分に関係ない周囲の人の言動や出来事を自分に関係づけるのは、関係念慮(あるいは、程度が強ければ関係妄想)といいます。もっとも、
私はまたいつもの自意識過剰だと思い、
とあなたがおっしゃるように、自意識過剰と関係念慮の区別は難しいこともあるのですが、この方の場合は、その後の経過とあわせて、やはり関係念慮と考えるべきでしょう。すなわち、
「ところで、この間の夕食（私が作った）に何か普通でないものを入れたか？自分が寝ている間に背中に何かしたか？」と聞くのです。
これは明らかに被害妄想です。
彼は錠を付け替えていました。私が夜中にこっそりやってきて危害を加えるのではないかと思うと夜も眠れなくなり付け替えた、とのことでした。ドアの前に立ちドアを開けてくれるようお願いしても、私がそこに立っていたら彼を襲うかもしれないから20 ｍほど後ろに下がれというのです。また２人きりの状況にはなりたくない、何かあって警察がくれば逮捕されるのは自分ともいうのです。
これも同様です。被害妄想です。
私の夕食を食べた後ずっと勃起が続いてしまった、
このように、妄想の一部が性的な色彩を帯びることも、統合失調症(精神分裂病)では少なからずあります。
私にしてみればたった2週間の間にどうしてこんなに180度も変わってしまったのか見当がつきません。何も根拠がないことについての私への非難、私に対する怯えぶりを見ると悲しくてたまりません。彼は何か精神の病気になっているのかと心配になりご相談させていただきました。
恋人から妄想を持たれてしまったあなたの悲しみはお察しします。しかし、悲しんでいるだけでは何も解決しません。統合失調症(精神分裂病)は、医学的な治療をしなければ改善しません。精神科を受診させてあげる方向へ努力なさってください。