精神科Q&A

【0771】自傷行為、過食嘔吐を繰り返していますが、脳の器質疾患が疑われると言われました


Q: 21歳、女性、大学3年に在籍中です。

<今までの経過>
・小学校高学年より自傷行為(掌や腕をカッターで切る)をするようになる
・中学3年(14歳)より過食嘔吐をするようになる
・2年前の春より心療内科に通院する。
 以来(現在でも)トフラニール30r/dayを処方される。
・2年前の秋に自殺目的で風邪薬を120錠服用
・3ヵ月前、鬱状態で2週間程寝たきりで過ごす。これをきっかけに過食嘔吐をしなくなる。
・2ヵ月前、自殺目的で風邪薬350錠を服用
・先月、精神科医院に転院
・過食嘔吐を始めた中学3年生の頃より身長160cm、体重54〜58sで安定しています。
・中学3年生以来、過食嘔吐と自傷行為を両方しない時期、過食嘔吐と自傷行為のどちらかをする時期、という感じで2〜6ヶ月くらいの期間で症状が変わります。

<現在の状態・症状>
ここ2、3ヶ月程は自傷行為もしていません。過食嘔吐は、しなくなってもう少しで5ヶ月が経ちます。

1〜3ヶ月に1度、1週間から2週間の期間、鬱状態になります。
鬱状態になると、布団に包まり、学校に行けなくなります。生きているのさえも面倒で、「もうどうでも良い」「死にたい」と思います。布団に包まっている時間が多いせいか、過眠気味になります。
しかし、その状態の時に自宅に閉じ篭もって1週間くらいすると、また気力が沸いてきて、学校にも行けるようになるし、「死にたい」とも思わなくなります。苦労もなく、日常生活を送れるようになります。
普段は睡眠障害はありません。たまに、胸をギューっと締め付けられるような感覚が1時間から半日程持続する時がありますが。

たまに鬱状態が起こるのは高校2年の頃からです。
症状からくる辛さは、大学入学後からは徐々に軽くなっているような気がします。慣れの問題かもしれませんが。

2年前から通院していた心療内科では、診療時間が短く、医師とあまりじっくりと話をしたことはありません。診断名も聞いていませんが、医師は摂食障害とそれに伴う気分障害であると判断したのではないかと思っています。通院当初からトフラニール10r錠を1日3錠処方され、現在も転院先の医院で同じ処方をされています。

今年転院した精神科医院でこれまでの経過を話したところ
「クライン・レヴィン症候群、若しくは脳の器質的疾患が疑われるのではないか。」
と言われました。
その根拠として
「鬱状態からの回復、過食嘔吐からの回復が急速なこと」
「回復と悪化を何度か繰り返していること」
を医師は挙げていました。

自分でも、インターネットや本などから得た知識では、一般的な摂食障害や鬱病とは違うのではないかと感じていました。
その根拠は
・一般的な多くの摂食障害で指摘される「家族(親子)関係の問題」が自分には思い当たらないこと
・今の生活に不満やストレスを感じていないこと
・普通に生活を送れる期間が、症状が辛い時よりも長いことが挙げられます。

現在通っている医院では
「脳の器質的疾患であるなら、根治療法はない」
「治すことよりも、症状を何とかやり過ごすにはどうしたら良いか考えたほうが良い」
と言われています。

自分でも、
「症状が完全に無くならなくても、日常生活を普通に遅れれば十分」
と考えています。

また、大学在学中に1年間休学して海外に留学したい、という希望があります。

長くなりましたが以下が質問の内容です。

1 数ヶ月に一度、1〜2週間程鬱状態になるなどの自分の症状が、精神的問題から生じている可能性はないのか。もしそうだとしたら、治療法にはどんなものがあるのか(薬物療法、カウンセリングなど)。
2 脳の器質的疾患の場合、どう対処したら良いか



: 結論を先に申しますと、あなたがクライン・レヴィン症候群ではないと思います。また、他の脳器質疾患である可能性はあまり高くないと思います。気分障害の色彩の強い摂食障害としての治療が適切でしょう。抗うつ薬、もしくはリチウムの効果が期待できると思います。

あなたのケースに限らず、どんな場合でも、脳器質疾患の可能性は、医師の側は最初の段階では常に考えるものです。もし脳器質疾患であった場合には、治療方法が全く違ってくるからです。
特に、非定型的な症状であった場合はなおさらです。ですからあなたのケースで、脳器質疾患を疑うところまでは私も異論はありません。その根拠は、ひとことでまとめれば、あなたの主治医の先生がおっしゃるように

「鬱状態からの回復、過食嘔吐からの回復が急速なこと」

この点です。あなたの回復の急速さは、普通の摂食障害にはあまり見られないことです。
ただし、もうひとつの根拠として主治医の先生があげておられる、

「回復と悪化を何度か繰り返していること」

これは根拠としては弱いものです。繰り返すこと自体は普通の摂食障害でもよくあります。しかしあなたの繰り返し方は異質であるとは言えるでしょう。

そして、脳器質疾患の疑いがあれば、次にすべきことは検査です。メールの記載を見る限りでは検査がなされていないようですが、そうだとすれば不可解なことです。まずMRIや脳波などの検査を受けるのが先決でしょう。
 検査をすることなしに主治医の先生が、

「脳の器質的疾患であるなら、根治療法はない」

とおっしゃったのだとすれば、奇妙なことです。治療法がある器質疾患もたくさんあるからです。

 それから、あなたがクライン・レヴィン症候群ということはまず考えられません。
 もっとも、摂食障害と診断されている方の中に、実はクライン・レヴィン症候群である方が含まれている、ということは言われており、それは事実だと思います。
 しかし、クライン・レヴィン症候群は、睡眠障害(極端な過眠)が主症状です。同時に気分の変化や性行動の変化(性欲亢進)を伴うこともよくあります。これらが数週間の周期で繰り返されるものです。
あなたのケースでは、睡眠障害は主とは言えず、あくまでも二次的なもののようですので、クライン・レヴィン症候群はまず考えられません。
それに、クライン・レヴィン症候群は、大部分が男性です。
女性のケースも文献には書かれていますが、その内容を見ても、やはり過眠が主症状です。
ですからあなたがクライン・レヴィン症候群ということはまずないでしょう。

 最初にお書きしたように、あなたの診断としてもっとも考えられるのは、気分障害の色彩の強い摂食障害だと思います。あなたの症状によく似た摂食障害の方は時々おられます。そのため、かつては、摂食障害と気分障害は本質的には同じ病気ではないかという議論が優勢になりそうになったこともあります。
さすがに「同じ病気」ということはなさそうですが、なんらかの共通点は確かにあり、そしてあなたのようにより気分障害の色彩の強いケースは確かにあります。そして、この場合は薬物療法の効果が期待できます。普通の摂食障害では、薬物療法はあくまでも補助ですが、あなたのケースでは、一度かなり徹底的に薬物療法を試みる価値があると思います。もし私があなたの主治医なら、まずは抗うつ薬による治療を試み(トフラニール30mgではあなたには弱すぎると思います)、十分な効果が得られなければリチウムを試みると思います。
したがいまして、あなたのご質問への回答は以下のようになります:

1 数ヶ月に一度、1〜2週間程鬱状態になるなどの自分の症状が、精神的問題から生じている可能性はないのか。もしそうだとしたら、治療法にはどんなものがあるのか(薬物療法、カウンセリングなど)。

上の文の「精神的問題」という言葉であなたが何を意味しておられるのか不明ですが、いずれにせよあなたに適した治療は薬物療法だと思います。

2 脳の器質的疾患の場合、どう対処したら良いか

先にご説明したとおり、器質的疾患かどうかをしっかり検査して確認することが第一です。それなしに対処法を考えることはできません。


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