精神科Q&A
【0725】薬に対する日本人の体質、欧米人の体質
Q: 35歳女性です。北米大陸に住んでおります。
3日ほど前、初めてクリニックへ行き、うつ病と診断されました。
うつ病だと確信していたわけではありませんが、調子がおかしかったのは確かなところで1年ほど前からです。
医師から、「セレクサ Celexa」を投薬する旨、前もって情報をもらいました。この薬は、ネットで調べた限りでは日本では認可されていない薬のようですがいかがでしょうか。
現地の医療関係者によると10年ほど前から使われている薬と言うことで、新しい薬ではないながら日本で認可され使われていないので、例えば日本人の体には強すぎるなどということはないのだろうかと少々不安があります。
日本人と欧米人(いろいろな人種はいますが一般的に)の体質は違うという印象が、素人考えながらあります。
例えばアルコールのまわる速度が違うという印象をもっています。
いらぬ心配かとも思いますが、これまで健康面では比較的順調で病院に縁がなく、投薬自体に関して免疫のない体だけにもしかしてと考えます。
ちなみに、小さな街のため現地で日本人医師にかかることは不可能です。
また、もし経過がよければ、早くて1−2ヵ月後に日本に帰国することを検討中です。
その場合、将来的に同じ薬を続けて服用できなくなるかも知れませんが、薬を変えても問題ないのでしょうか。
現在の国での生活は5−6年になります。
日本に長期で戻るとしたら住まい、仕事探しなど基盤を一から立て直さねばならず、すぐには戻れません。
自分の状況を考えて近く戻ることを決めたものの、今の状態で数々の責任に耐えられるか不安があり、遅ればせながら現地の病院での検査を決めた次第です。
医者にかかりはじめた限りは、いましばらく移動を控え、日本帰国も先延ばしにした方がよいのかどうかも迷っております。
林: 日本では扱われていない薬で治療を受けている方にとって、帰国後の治療をどうされるかは当然ながら共通して持たれる不安で、【0687】にも例があります。あなたが処方されたCelexaという薬は、SSRIの一種で、一般名はCitalopramといいます。あなたがお調べになった通り、日本では認可されていない薬です。【0687】でも回答いたしましたが、やはり帰国後も同じ薬での治療が望ましく、したがって現地での治療も日本で認可されている薬を使っていただいたほうがいいと思います。もっとも、帰国と同時に薬を変えたからといって、必ずしも悪くなるわけではありませんので、今あなたがCelexaで治療を受けるのが絶対によくないということではありません。
なお、薬に対する人種差の多くは、チトクロームP450(CYPと略記されることが多いです。【0411】もお読みください)という、薬物代謝酵素の遺伝子の人種差によるもので、研究データもたくさんあります。その一部を参考文献としてご紹介しておきます。
それから、あなたが例として挙げておられるアルコールに対する体質は、これとは違うメカニズムで、アルコール代謝系の酵素のひとつであるアルデヒド脱水素酵素2型 (Aldehyde dehydrogenae 2; ALDH2) の遺伝子の違いによるものです。ごく簡単に言いますと、アルコールからできるアセトアルデヒドの分解能が低い遺伝子を持っている人がアジア系の人には多く、それがあなたのおっしゃるところの「アルコールの回る速度が違う」という現象として観察されるのです。アルコール依存症の医学部講堂も参考にしてください。
人種による薬の代謝の違いは、日本ではあまり話題になることはありませんが、アメリカ合衆国のような多人種国家では臨床上非常に重要な問題です。あなたの居住地の「北米大陸」が、カナダなのかアメリカなのか不明ですが、アメリカ合衆国であるとすれば、医師は人種差についての知識をかなり持っていると思いますので、直接ご質問してみるのもいいと思います。