精神科Q&A
【0715】自分で妄想であると気づいているようですが、それでも統合失調症でしょうか
Q: 20代後半の妻が、「電話が盗聴されている」、「外に出ると皆が私を監視している」、「皆が私を病気じゃないかと疑い試している」と被害妄想のようなことをいうようになりました。
ただ、彼女は「そんな風に私が思うのはおかしいから、統合失調症だろうか。」と自分で言ったりもしますし、「ありえないことを思ってしまう。自分は頭がおかしい」などと言うので、被害妄想といっても、妄想しきってしまうわけではなく、自分がおかしいことに気づいているようです。つまり妻の場合、被害妄想といっても完全に妄想とは言えないと思いますが、それでも統合失調症ということはあるのでしょうか。
そのほかは「人が怖い。人と会いたくない」などとも言います。
「もしこのまま直らなかったらどうしよう」
「早く再就職したい」などとも話します。
原因として思い当たることは、極端な残業で心身ともに疲労困憊して体調を崩し退職したあとに、友人関係でトラブルがあり、絶縁状態になってしまったことです。
最近では家事以外にはほとんど何もせず家にいます。家事は食事作りなどきちんとできていますが、買い物に行くのは怖いようです。
何らかの精神疾患にかかったものと考えていますが、いかがなものでしょうか。
林: 統合失調症(精神分裂病)の可能性がもっとも高いと思います。
被害妄想といっても、妄想しきってしまうわけではなく、自分がおかしいことに気づいているようです。つまり妻の場合、被害妄想といっても完全に妄想とは言えないと思います
このあなたの疑問はもっともです。妄想の定義は「訂正不能の誤った確信」ですから、ご本人が「自分の考えは妄想だろうか」とお考えになった場合は、定義上はその時点で妄想ではないということになります。
しかし、実際には、妄想といってもあらゆる段階があります。「絶対に自分は間違っていない」と強く確信しているケースもあれば、「もしかしたら妄想だろうか」というケースもあり、さらには「また妄想が出てきてしまった」というように、かなりはっきりと妄想であると自覚しているケースもあります。
ただし最後の「はっきりと妄想であると自覚している」のは統合失調症(精神分裂病)では稀ですが、「もしかしたら妄想だろうか」というのは、発病の初期や、回復期にはむしろよくあることです。
奥様のケースは、統合失調症(精神分裂病)の初期という可能性が高いと思います。そして、このまま治療をしないでいると、妄想が進んで「絶対に自分は間違っていない」という確信が強まり、治療を受けていただくのが困難になります。できるだけ早く精神科を受診して治療を始めるべきです。
以上のような、自分が病気であることの理解のことを病識といいます。病識の有無の判断はなかなか単純にはいかないものです。【0364】もお読みください。
なお、このような妄想があれば必ず統合失調症(精神分裂病)かというと、そんなことはありません。発症率からいえば統合失調症(精神分裂病)の可能性かもっとも高いということです。また、統合失調症(精神分裂病)でなかったとしても、少なくとも、類似の現象が脳内に生じていると推定できますので、治療としてはやはり抗精神病薬を用いることになります。