精神科Q&A

【0692】マンション階上の住人からの心外な非難


Q 私は35歳の主婦です。
夫、5歳の娘と共に6年ほど前に購入した分譲マンションに住居を構えております。
ご相談させて頂きたいのは、越してきて以来6年間、一度もお話したことのなかった
上階に住む奥様(子供なし、30代後半)のことです。

ある日、マンションのエントランスで突然呼び止められ、思いもよらなかった話を聞くこととなりました。
「○○さん(私のこと)、うちの悪口言ってますよね?」
彼女の第一声が、この言葉でした。
私は時折見かけるその彼女(会釈する程度のお付き合い)が、直ぐ上の住人であることも知らなかったので、「失礼ですが、どちら様でしょう?」と尋ねました。
「上のXXですけど。うちの悪口言ってますよね?」と、明らかに怒りに満ちた口調で問い質すのです。
それを見て、私は 『この人、もしかして・・・』と思いました。
分裂症を発症した友人のことを、咄嗟に思い出したからです。
その友人には、明らかに有り得ない被害妄想の症状がありました。
この女性にも、そういった症状があるのかも知れない・・・と思った私はとりあえずお話を伺うことにしました。

彼女の話の詳細は以下の通りです。
・ 「煩い!」と階下から怒鳴られた。だから音をたてない様に、携帯や電話の音を消し、歩くことにも気を遣って生活している。電話が掛かってくると、外に出て折り返し掛けなおす生活をしている。それなのに何故そんなことを言うのか。 
・ 「臭い!」と階下から言われた。自分は現在体調が悪く、色んな薬を服用しているために、体臭がきつくなっているのも自覚している。     
・ 「ワンギリ(1コールで切られる電話)しか掛かってこないよ」と、階下で言っているのが聞こえた。携帯が鳴るとすぐに切って、外に出て折り返しているので、ワンギリに聞こえる。
・ 「年甲斐もなくおさげして」と、階下で言っているのが聞こえた。自分はバイクのヘルメットの大きさに合わせる為に、おさげをすることがある。 
・ 自分が帰宅すると必ず直ぐに、「帰ってきたよ」という声が聞こえる。子供の声(私の息子)で、「なんで帰ってきたの?」と言われることもあるが親が何時も言っているから、子供もそう言うのだろう。既に引越しが済み、殆どの家財道具と猫は運び出した。     部屋が売れ次第、残りの家財道具を運び出す予定。ストレスが溜まって家にいられないので、別のところに住んでいるが物件を見に来る人がいるなど、用事があって戻って来ると必ず「戻ってきたよ」と言われる。
・ 犬の匂いが臭くて、窓も開けられない。(彼女は猫を飼っていたそうですが、現在は猫も他の住居に引越し済みとのこと)
・ (以上の理由で) 現在、弁護士に相談中である。

というものでした。

まずここでお話しておきたいのは、彼女の言っている、階下から聞こえた声が真実だったことです。
私達が窓辺で話していた声が上階に漏れたものであることは、間違いありません。

我が家では、まだ娘が5歳の暴れ盛りということもあり、「煩い」という言葉は日常的に使っていました。
外出して戻った時など、室内犬の匂いが気になるので、「臭い」と言いながら、窓を開けることもあります。
ワンギリについても、具体的に何時のことであるか、ちゃんと記憶があります。
おさげのことについても、遊びに来た友人が、自分自身のことを言ったことと記憶があります。
「帰ってきたよ」という言葉は、恐らくどのご家庭でも普通になされる会話だと思います。
犬の匂いについては、我が家に原因があると考え、謝罪しました。
ですが彼女の家の隣の住人も犬を飼っていらっしゃるので、双方に原因があるとも思っています。

以上の様に、その対象は上階の住人ではなく、我が家の子供であり、我が家に犬がいるという状況でありたまたま遊びに来ていた友人の言葉だったのですが、私が一つ一つを誤解だと説明した後にも、「余りにも符合している点が多すぎて信用できない」と言われました。
「もし、自分が言っていることが被害妄想だと言うのであれば、自分が精神を病んでいるとでも言いたいのか」と。

しかし、私はその時に初めて彼女が上階の住人であることを知ったので彼女がワンギリのごとく電話を取っていたことや、彼女が時々おさげをしていること、彼女が何時帰宅していたかなど知るところではありません。
ましてや彼女が投薬を受けているせいで、体臭がきつくなったことなど知る由もありませんし体臭を感じる程近くで接したことはありません。
その時お話した時も、彼女の体臭など全く感じませんでした。
上階に住む彼女とご主人が、既に大まかな引越しをしていたことも知りませんでした。

先にもお話させて頂いた通り、私には精神分裂症(統合失調症)を患った友人がいるのですが、その友人と明らかに違う点は、事実に基づいているという点です。
私から見れば、気のせい、偶然、または思い過ごしと考える程度のことだと思うのですが、こちらがいくら否定しても、同じ話を繰り返し、結局、話は2時間にも及びました。
それでも最後まで、「絶対に自分に言った。アナタ(私)の言うことは言い訳で、信用できない」と言って聞いてくれません。

これでは埒が明かないと思ったので、私達が日常言っている言葉が、思いがけず貴女の耳に届き、傷つけてしまったことについては申し訳ないと思い、謝罪したい。
でも、それは貴女に向けた言葉ではないので、貴女の言う意味での謝罪は出来ない。
今後もし煩いと感じることがあれば、階下から怒鳴ることはせず貴女に直接言うので、気兼ねなく生活して欲しい。
もし、自分のことを悪く言われていると感じる言葉が聞こえたら、遠慮なく直ぐに連絡して欲しい。
その場で状況を説明することができる。 という旨を伝えました。
その時は、「わかりました、そうさせてもらいます」との回答がありました。

そこでお伺いしたいのですが、この様に事実に基づいたことに起因する過度の反応は統合失調症に因るものなのでしょうか?
また、統合失調症である場合、こうしたケースは今後どの様に対応することが望ましいのでしょうか。

今のところ彼女からの連絡はありませんが、幼い娘がおりますこと、また、その娘に彼女の妄想の対象の一部が向けられていることが不安です。

ちなみに、「ご主人も交えてお話したい」と申し出ましたが、断られました。


: あなたのご推測通り、この方は統合失調症(精神分裂病)の可能性が高いと思います。
あなたはそのように推測する一方で、疑問として、

この様に事実に基づいたことに起因する過度の反応は統合失調症に因るものなのでしょうか?

と言っておられます。つまり、この方の言動は、確かに被害妄想ではあるものの、事実無根というのはやや異なり、何らかの事実に基づいている、ただその解釈が被害的である、という点に目を向けておられます。大変こまやかな観察眼をお持ちだと思います。

しかし、何らかの事実を被害的に解釈するという言動も、やはり統合失調症(精神分裂病)に特徴的な症状です。広い意味ではそれも被害妄想と言います。また、物事を自分に関係づけるという意味で、関係妄想と言うこともあります。そしてその物事は、普通なら気にもとめないような物事です。あなたが、

私から見れば、気のせい、偶然、または思い過ごしと考える程度のことだと思うのですが、

とおっしゃっている、まさにそのような物事です。
そしてこれは妄想ですから、

こちらがいくら否定しても、同じ話を繰り返し、結局、話は2時間にも及びました。

という結果になるのはむしろ普通です。

メールに書かれている具体例、たとえば

「臭い!」と階下から言われた。   
「ワンギリ(1コールで切られる電話)しか掛かってこないよ」と、階下で言っているのが聞こえた。携帯が鳴るとすぐに切って、外に出て折り返しているので、ワンギリに聞こえる。
「年甲斐もなくおさげして」と、階下で言っているのが聞こえた。


などは、いずれも関係妄想として典型的です。自分には無関係の、偶然聞こえた言葉を、自分に関係づけ、いくら関係ないと説明されても納得しないのが、関係妄想です。

統合失調症のひとつの典型的な経過は、ごく軽い関係妄想(妄想にまで至らない段階では、関係念慮といいます)で始まり、それがはっきりした被害妄想に移行していくというものです。

このケースでは、ご本人をいくら言葉で説得しても効果は期待できません。精神科での薬物治療が必要です。そのためにはご家族の協力が必要です。

ちなみに、「ご主人も交えてお話したい」と申し出ましたが、断られました。

とのことですが、ここはご主人に状況を早く伝えるのが最善の方策と言えるでしょう。


精神科Q&Aに戻る

ホームページに戻る