精神科Q&A
【0667】てんかんかパニック障害か
Q: 私は39歳の主婦です。私はもとナースなのですが、自分が一体どんな状態なのか把握し切れていないのです。それで不安が募っています。
私は小6の頃、夜中に突然、呼吸困難に襲われました。
少し風邪気味でしたが、その夜は、心臓が激しく鼓動し、死の恐怖を味わいました。
頑張らなければ、死んでしまう、そう思って一所懸命呼吸しようとしますが、余計に苦しくなるばかり。その後収まりましたが、強烈な印象がありました。ただ、それから頻繁に発作があったわけではなく、忘れかけていました。
その後また似たような状態になったのは中学生になった頃だったと思います。決まって夜中でした。でもそんな死ぬほど苦しい発作でも翌朝には全く後遺症はありませんでした。
高校生の頃は遠距離通学でごくたまに電車の中で呼吸困難に陥ることもありましたが、途中下車してしばらくしたら収まりました。
短大に進学し、病院の夜勤のアルバイトを始めたころからまた、発作が頻繁に起こるようになりました。疲れのせいか、眩暈やふらつきなどもあり、しゃがみ込んだりも多くなり
ました。
この時初めて、近くの内科でその症状を話しました。その時は病名も薬の説明もなく、なんとなく、「気のせい」くらいの説明だったように思います。特に悪いところもないし、と。出された薬はおそらくは精神安定剤とか睡眠導入剤だったと思います。
ナースとして大学病院に就職しひとり暮らしを始めた頃から、眩暈がひどくなり、その頃は「メニエール」だと言われました。
意識を失うことはなかったものの、立っていられなくなったり、吐き気や欠伸、胃腸症状、さまざまな症状に苦しめられました。
一度大学病院の内科で精査を受け、
「どこも悪くないから、精神科に行きなさい」と言われました。
その後受診したもののその直後に倒れ(意識はありました)、休職して実家近くの小さい病院の内科に2ヶ月入院しました。21歳のときでした。この病院でのCTや脳波では異常なし、てんかんではないだろう、とのことでした。
その後結婚し、夜中にパニック様の発作はありましたが、その頃は、もう死なないだろうと思っていたし、病院に行っても薬を飲んでも特によくもならないので行きませんでした。生活は安定し、二人の子どもを出産しました。
それから発作のことは特に思い出さずにすごしていたのですが、31歳のある日、子どもを強く叱った時、急に発作が起き、そのままそこでCT,脳波を取りました。そこで、初めて「脳波に異常が見つかった」と言われました。CTは異常なしでした。
そこでテグレトールの内服が始まったのですが、2週間くらいから倦怠感、鬱状態になり調べたらGOT,GPTがいずれも500台になっていることがわかり、中止しました。
医師は漢方薬はどうか、と薦めてきましたが、そこの病院に通うのも私にとっては遠すぎるし、薬の副作用の怖さに、治療を断りました。
その時は、疲れやすいとかはあったものの、日常生活に特に不自由はなかったからです。
その後子どもの転校などいろいろな出来事があり、すべて一段落してホッと一安心したところからまた、今度は昼間に症状が現れるようになりました。
子どもの学校への送り迎えの時間になると必ず呼吸困難、心悸亢進、死の恐怖が襲ってくるようになったのです。それでも頑張って行くように努力していました。
1年ほどそれが続いた36歳のある日、歯科で治療中に突然苦しくなり、いつもの発作だからと自分に言い聞かせていたら、先生が「デンタルショックだ」とおっしゃり、その言葉にショックを受け、以後、歯科に行くと発作を起こし、ただ行くだけで治療が受けられなくなってしまいました。
そこで、近くにメンタルクリニックを受診しました。そこではソラナックスを頓服として処方されました。でもとても混んでいて待っていると眩暈がするのと子どものお迎えの時間に引っかかり2回通ってやめました。その頓服をどうしても辛いときにとお守り代わりに持っていて、ほとんど飲まずに、徐々に発作は減っていきました。歯科のほうはせいぜい数ヶ月で済むところを1年かけて少しずつ治療してもらいました。
現在の症状としては、パニック様の発作はほとんどありません。
たまに動悸がしたり、予期不安があったりしますが、以前から比べたら無いのと同じです。
ただ、そろそろ歯科に行かないといけないのですが、怖くてなかなか予約が取れません。
あと、子どもについて心配しすぎると具合が悪くなるくらいでしょうか。
今のところ遠くでなければ電車などにも乗れます。
長々と書いてしまいましたが、不安なことは、自分の病気のことがよくわからないことと、今後起こり得ることです。
私としては症状からするとパニック障害かなと思うのですが、これはてんかんなのでしょうか?脳波を取ってくださった先生が、薬物が絶対必要と言ったわけでもないからそれほど重症ではないのだろうか?とも思うのですが。
治療が必要なのか、放置していていいものかどうか・・・。
子どものこともあり、治療が必要なのであればきちんと受けたいと思うのですが。
林: 症状からすると、あなたのおっしゃるように、パニック障害だと思います。そしてパニック障害だとすれば、あなたのケースのように発作がない状態が続いていれば特に治療の必要はありません。
頓服をどうしても辛いときにとお守り代わりに持っていて、ほとんど飲まずに、徐々に発作は減っていきました。
というあなたの経験は、パニック障害ではよくあることです。
ただ、歯科の治療の際に発作が出やすいのだけは困ったことですので、そのときだけ薬を飲むなどの対応が必要かもしれません。
ただし、以上の回答はあくまでも「症状からすると」ということです。症状だけからみれば、これはパニック障害で、てんかんということはあまり考えられません。しかし、
31歳のある日、子どもを強く叱った時、急に発作が起き、そのままそこでCT,脳波を取りました。そこで、初めて「脳波に異常が見つかった」と言われました。・・・そこでテグレトールの内服が始まったのです
この点が唯一気になるところです。あなたのご心配もこの点にあるのでしょう。
どんな病気にもあることですが、症状そのものは他の病気に非常によく似ていて、しかし検査をしてみてはじめて正確な診断がつくというのはありうることです。ですからあなたのケースも、いくら症状からはパニック障害だといっても、脳波にてんかん性の異常があれば、話は別になります。ここでのポイントは「てんかん性の異常」ということです。つまり、
脳波に異常が見つかった
というだけでは、それがてんかん性かどうかわかりません。この「異常」がてんかん性のものだったのかそうでなかったかということが、あなたの診断に大きく影響することになります。これを是非とも確認したいところです。
テグレトールを開始したということは、あなたの脳波異常はてんかん性であったと普通は考えるところです。そしてテグレトール服用の結果、GOT、GPTが500台という重度の肝障害になったという経過では、テグレトールを中止するところまでは当然です。けれども理解に苦しむのは、その後なぜ他の抗てんかん薬の服用をすすめられなかったのかということです。理由として考えられるのは、あなたの脳波の異常が、はっきりとしたてんかん性のものではなかったということでしょう。
質問者は元ナースとのことですのでご承知とは思いますが、脳波の判読というものは、はっきりした異常がある場合や完全に正常の場合は容易ですが、境界線上の場合は専門家でないと判定はなかなか難しいものです。(精神科医や神経内科医であっても脳波の専門家とは限りません)。ですからあなたのケースでもっとも考えられる可能性は、あなたの脳波異常はそれほどはっきりしたものではなく、それでもてんかんが否定しきれないため一応はテグレトールを開始したものの、副作用が出たために中止し、以後は様子を見ているうちに何となくそのままになっている、というものです。このように文章で書くとかなりいい加減な治療という感じもしますが、脳波の所見によっては現実的にはこうした経過は考えられます。
以上を総合しますと、発作の性質と経過からみて、あなたがてんかんである確率はかなり低そうです。けれども、繰り返しになりますが、脳波ではっきりしたてんかん性の異常所見があれば話はまったく別になります。信頼できる医療機関で、少なくとももう一度は脳波を再検されることをおすすめします。