精神科Q&A
【0597】恋人の妄想
Q:
私は20代前半の女性です。先日、恋人(20代後半、男性)が妄想症だと診断されました。私が浮気しているのではという嫉妬妄想がひどく、幻聴もあるようなのです。本人と私の携帯電話以外にも音が聞こえることがあるらしく、私がもう一つ携帯を持っていると決めつけます。また、ある時期、彼に盗聴されていたのですが、そのテープに私が浮気している音が入っていると言うのです。初めは嘘をついているのだと思いましたが、「私にもテープを聞かせて。」と聞くと、自信を持って聞かせてくれたので、嘘ではないと思います。しかし、当然そんな音が入っているはずはなく、二人でテープを聞いている間、彼は、「あれ？おかしいな。」と言いながら、一生懸命該当の個所を探しているのです。それを見て、私は涙が出てきました。そして精神科へ連れて行ったのです。（もちろん、これら以外にもいくつも症状はありましたが…）ただ、本人が妄想だと思っていないので、「カップルセラピー」に行くと言って連れて行きました。当時一緒に住んでいたのですが、離れて暮らした方が良いというドクターのアドバイスで、今は別々に暮らしています。それからは、時々メールで連絡を取る程度です。今のところ、妄想は落ち着いているようですが、ドクターからは、完全に治るとは言い切れないとの事で、結婚するなら相当の覚悟が必要だと言われました。以前、林先生のＱ＆Ａで、薬を飲むことで妄想はほとんど消えると読みましたが、本人に自覚がないので薬を飲ませるのは困難なのです。彼の為にも自分の為にも別れたほうがいいのかとも思いますが、彼の今後が心配です。林先生にお聞きしたいのは、
(1) やはり、一般的に言って妄想症は完治することはないのでしょうか？
(2) もし、私と別れたとして、その後別の女性と出会った時、妄想する可能性は確率としては高いですか？低いですか？もし、他の女性でも妄想をする可能性が高いなら、私はこのまま彼とその妄想を引き受けて生きて行こうと思うのですが…
(3) 林先生の以前の患者さんなどで、妄想症の恋人、あるいは配偶者とその問題を乗り越えて幸せになっている方はいますか？
林: この男性の方は、統合失調症(精神分裂病)だと思います。「妄想症」という病名はありません。「妄想性障害」のことを「妄想症」といっておられるのかもしれませんが、この方には幻聴もあるということなので、かなり典型的な統合失調症(精神分裂病)だと思います。
そして、このような妄想の多くは、薬によって治療することができます。
(1) やはり、一般的に言って妄想症は完治することはないのでしょうか？
「完治」という言葉をどのような意味で使っておられるのかが不明ですが、妄想が完全に消えることはごく普通のことです。たとえば【0586】をお読みください。
この質問文で使われている「やはり」という表現はあなたの偏見からくるものだと思います。
(2) もし、私と別れたとして、その後別の女性と出会った時、妄想する可能性は確率としては高いですか？低いですか？もし、他の女性でも妄想をする可能性が高いなら、私はこのまま彼とその妄想を引き受けて生きて行こうと思うのですが…
あなたと別れても、妄想は治りません。治療しなければ治りません。「妄想を引き受けて生きて行く」のではなく、治療を受けさせてあげることを考えてください。
(3) 林先生の以前の患者さんなどで、妄想症の恋人、あるいは配偶者とその問題を乗り越えて幸せになっている方はいますか？
当然、そういう方はたくさんいらっしゃいます。どこにでもたくさんいらっしゃるはずです。ただし、薬による治療を受けることが条件です。それなしでは、妄想がなくなることはまず考えられません。