精神科Q&A

【0594】くも膜下出血で寝たきりになった父に抗けいれん薬は必要でしょうか


Q: 私は29歳の女性です。66歳の父は、一年半前にくも膜下出血で倒れました。
高血圧であったためか、同時に左脳のあちこちで出血を起こしていました。
急性期の病院に到着してから9時間後にクリッピング手術を受けました。
その後、水頭症になりシャント手術を受けました。
1ヶ月弱ICUにおりましが、なんとか一命を取り留め一般病棟で3ヶ月過ごしました。
主治医から、様態は安定したがもう意識が回復する見込みはなく、この先一生流動食のままでしょうと言い渡され、療養型病院へ移動しました。
現在も、その後移った療養型病院におります。

最初の病院で未来のないことを色々と言われましたが家族は絶対に諦めませんでした。
声掛け、ベッドサイドの他動的リハビリ、口腔ケア、音楽、つぼ押し・・・
母と2人で交代に朝晩病院へ通い詰めて家族にできることをやってきました。
その甲斐あって、寝たきりには変わりありませんが、最近では左半身は自分の思うように動かせるようになりましたし、こちらの言うように上げたり下げたりしてくれます。
声を掛けると顔を見て話を一生懸命聞こうとします。
いつもではありませんが、楽しい話題の時は笑うようにもなっています。
左手で名前の一部を書いたこともありました。
平日は5人がかりで車椅子に乗せてもらい30〜40分散歩しています。
喉は気管切開してカフつきカニューレを入れていて、痰も漸く少なくなりつつあります。
食べる事はなかなかうまくいかず、練習で氷を食べさせていますが誤嚥しているようです。
口腔リハビリを進めるため、今月25日には他の病院へ検査に出かける予定です。
ご飯は経管栄養食を鼻から入れています。
尿、便ともにオムツで受けています。

遅いペースですが順調に回復していたように思えたのですが、2週間前の朝、突然けいれんを起こしました。全身のけいれんで腕はだらんとし、目は一定方向を向いたままだったそうです。
家族が駆けつけた時にはもう応急処置は終ったということでした。
父は何度もつばを飲むような動きをし、目の焦点が合わずこちらの声にも無反応でしたが、けいれん時の血圧が220(上)程あったらしく、その処置のための投薬でもうろうとしているとのことでした。
その日の朝の血圧はいつもと変わらなかったとのことで、原因が分からずすぐにCT検査を受けました。
CTの結果、新たな脳内出血や水頭症の悪化などは発見されませんでした。
「脳内出血の患者さんには後遺症としてのけいれん、てんかんが起こることが多い。今後けいれんを繰り返さないように、けいれんを抑える(てんかんの)薬を出します。」
と主治医の説明を受け、次の日の昼から薬が入るようになりました。

父がけいれんを起こしたのは初めてです。
一時(昨年夏)、体を動かすたびにめまいと嘔吐が続いたことがありましたが近頃は治っていました。
その後、父の様子は改善してはいるものの、少しぼーっとして元気がありません。
気になるのは血圧と脈拍です。
血圧が、99(上)-65(下)だったり、147-75前後だったりと不安定な事。(今日)
脈拍は、以前70前後だったのに昨日は47〜50、今日は43〜57になっています。
この脈拍で大丈夫かと看護士に聞くと、薬のせいかなぁ〜とか、
糖尿病の人はそれくらいでも平気だから心配しなくてもよいとか言われましたが、
父は糖尿病ではないし状況が違うだけに納得もできないし不安でたまりません。
血圧の不安定と脈拍の低下の原因として薬は関係あるのでしょうか。
父にてんかんの薬は本当に必要なのでしょうか。

現在の投薬
・ニトロールRカプセル20mg(朝夕1錠)
・アスパラK散(朝昼夕1袋)
・アダラートL錠10mg(朝夕1錠)
・プロブレス錠4(朝0.5錠)
・センノサイド(夜2錠)
・ラキソベロン下剤(便秘中3日目に10滴)
・フェノバール10倍散1.2(朝昼夕)

どうか宜しくお願い致します。


: 献身的な介護にかかわらず、けいれんという思いがけない症状が出てしまい、困惑しておられることとお察し申し上げます。ここでは、事実のみを回答することをご了承ください。

お父様のくも膜下出血による脳のダメージは、客観的に見て、かなり重いことは否定できないと思います。メールの内容からは、主要なダメージは脳の左半球と思われますが、おそらく右半球や、場合によっては他の部分にもダメージがあるのかもしれません。
このように脳のかなり広い範囲にわたってダメージを受けると、けいれんが生じることはよくあります。さきほど、「けいれんという思いがけない症状」と書きましたが、実際には、脳に重いダメージを受けた場合、その後にけいれんが起こることは十分予測できることなのです。そして、このけいれんを止めるには、薬の力を借りないと無理でしょう。

父にてんかんの薬は本当に必要なのでしょうか。

というご質問に対しては、必要です が答えになります。
もっとも、お聞きになりたいことは、けいれんを止める必要があるかどうかということよりも、けいれんによって、さらに状態が悪化する可能性があるかということだと思います。それに対しては、その可能性は大きい といえます。

お父様のような状態の方がけいれんを起こされた場合、いちばん心配なのは、誤嚥(ごえん)です。けいれんの時には嘔吐がつきものですが、このとき嘔吐した食物が気管に入ってしまうのが誤嚥のパターンです。健康なら、気管に物が入りそうになると、自動的に反射で防がれるのですが、衰弱しているとこの反射が弱まっているため、誤嚥しやすくなるのです。誤嚥は、肺炎につながります。そして肺炎は、寝たきりの方が、生命を失う原因としては非常に多いものです。残念ながら、口から食べ物をとり続ける限り、誤嚥性肺炎の危険性は常にあります(だからこそ、ご飯は経管栄養食を鼻から入れておられるのでしょう)。そしてけいれんを起こすと、嘔吐物を誤嚥する可能性は非常に高いものになります。これを防止するためには、抗けいれん薬(抗てんかん薬といっても同じことです)が必要です。
おそらく、抗けいれん薬の副作用は出るでしょう。

その後、父の様子は改善してはいるものの、少しぼーっとして元気がありません。

これは、フェノバールの副作用の可能性は十分あります。けれども、お父様のケースでは、薬を飲まないことによるリスクのほうが大きいと思います。

なお、血圧と脈拍が不安定なことに関しては、副作用ではないと思います。原因は不明ですが、全体的な状態の悪化の可能性も否定しきれないと思います。


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