精神科Q&A
【0575】ただ変わっているだけと思っていた姉は、統合失調症でしょうか。そうだとすると発症から10年以上放置していたことになるのですが・・・
Q: 姉26歳のことで質問させていただきます。弟の私は24歳の男子学生です。家族は父、母、姉ですが、私は離れて暮らしております。
姉は精神科の受診が必要であると思うのですが、本人は拒否し、コミュニケーションをうまくとれないところがあります。両親もなかなか前向きになれないため、対応に困っております。
姉の様子がおかしくなってから10年もたってしまいました。自分もふくめ、問題から逃げつづけた事は事実ですが、今からでも何か出来ればと思っています。Q&Aをみてもこれほど長く家の中で放置されたものはなく、質問をしたいと思いました。長くなる事をお許し下さい。記憶の曖昧なところもありますが、思い出せる限りで書きます。
それ以前から何かあったのかもしれませんが、はっきりとしたのは中3のときです。理由はよく分からなかったのですがある日学校へ行かなくなり、毎日のように「こんな風になったのは親のせいだ」といって暴れるようになったことだったと思います。しかしそれまで自己主張することなく親の言う事に従う姉でしたので、今まで言えなかったこともあるだろうと思い様子を見ていました。両親は一度病院に相談に行ったらしいのですが「本人を連れてこないことには」といわれ、そのままになったようです。「たいした先生じゃなかった」と親は振り返っていました。
その後高校に入ったものの1ヶ月ほどで行かなくなり、親の意向で通信制の高校にうつり、4年で卒業しました。短大に入ったもののまた1ヶ月ほどで行かなくなり退学しました。勉強に関しては父が小学校の高学年の頃から短大まで姉に教えこんでいました。そこに姉の意思があったとは思いませんが、詰めこまれただけであってもそれだけの能力があったのです。その後アルバイトをしたこともありましたがうまくいかず、ここ数年は家にずっといます。一度保健所で紹介してもらった病院(精神療法で有名な病院だそうです)に通った事がありましたが、「人格に偏りがある」とのことでグループ療法(何人か集まって、いろいろな話をするらしい)を受けていたようです。薬は無かったようです。数ヵ月でやめてしまいました。
この10年の間、おかしな言動はさまざまあり、ずっと続くものもあれば、短期間のものもありました。あげてみると、
・ 基本的に無気力、だらだらして何かをやろうとしない、なにをやるにも集中力がなくなにかにとらわれている。自分の世界に閉じこもっているよう(両親の弁)
・時に興奮したり、突然怒ったり、目つきがキッときつくなる
・事実かもしれないが、学校をやめたときは誰かに悪口を言われた、裏切られたと言っていた。友達と連絡をとらなくなったときも裏切られたといっていた。(今は友達はいない)
・何年も前に教わって会っていないはずの学校の先生に色々吹き込まれると言った事があった。集団療法をやめるときも色々吹き込まれるからと言っていた。
・何もないように見えるのに目がおかしいと言う(一度眼科を受診し、精神科に紹介されたことがあった)。
・ある日突然いなくなり数日後他県(家から新幹線と在来線で6時間以上かかる遠方)でふらふらしているところを警察に保護される。残金はわずかだった。その数日をどう過ごしたのか、なぜそうしたかは不明。
・TVを見れない、人が見ていても勝手に消してしまう。TVに出ている全く関係ないことについてあれこれ言う(この人は〜だよね)、暴力団、売春について心配した様子で聞いてくる
・一日に何度も同じことを言う。なんだか抽象的な事を言い続け、説明をもとめても同じ言葉をくりかえすのみ。口を閉じる、と言い続ける。同じ手の動きを繰り返す。
・会話がスムーズにいかない。的外れな答を返す、迂遠して言いたい事が分からない、そうです・いいえなど型にはまった事しか言わない、無視する、電話の対応が出来ない。
・独り言をいいつづける(小さくて聞き取れない)。突然笑う事もある。特に面白くないと思われる記事やテレビで笑う事もある。なぜか聞いても答えはない。
・身だしなみに無頓着で、風呂には入るがちゃんと体を洗わず、髪はべたべたしていてとかさない、歯磨きも不充分、同じ服を着つづけ、穴が空いていても気にしない。
・家事をやるが、いつも同じやり方で、改善を求めても変えない。同時に2つの事を頼むと忘れてしまう。買い物がうまく出来ない(物を選べない、小銭をうまく使えない)。
等です。日常にまぎれてしまえば事の重大さはわからないもので、こう並べてみると大変な事だと改めて感じます。波はありますが少しずつ少しずつ悪化しているようです。
先日実家に帰ったときは興奮するような事は無く、姉なりに決められた家事(掃除、洗濯)をこなし、後の時間は特になにをするわけでもなく、時折CDをかけて踊ったりしていていました。一人笑いがやや目立ち、話しかけても型にはまった答しか返さないことが多いようにおもいました。
統合失調症(精神分裂病)を知り、「何もしないで自分の世界にいる、ちょっと変わったところのある姉」ととらえていたことが、ただそれだけではないと思うようになりました。本当にそうかは私には判断できません。しかし無知である事はなんと怖い事かとおもいます。ここ一年ほど両親と話をしたり、本を読んでもらったりし精神科でちゃんと見てもらわなければならないと説得してきました。本人は病院に行く事は拒否しています。「一生出て来れなくなる」などと言っていた事もあります。両親としては、他人に迷惑をかけるようなことをせず、暴れたり大きな声を出してしててこずるようなことが無く、とりあえずおとなしくしていれば自分たちが面倒をみれば十分と考えているようです。その裏には精神の病気に対する偏見や、これまでの病院での対応に対する不信感などがあるように思います。また、ちょっと誇張して言えば、なんでも口出ししてそれに従う事を求め、小さな頃から姉の主張や考えは無視したり否定したりしてきたため、自分の意思を持たず無気力や無為であることを深刻にとらえることが出来ないようです。一方行動から推測はできても、姉の口から幻聴や妄想をはっきりと訴えた事は無く(あるいは気付かず)確証がもてないということもあります。
先日ようやく両親が病院へ相談に行きました。相談室があり医師ではない人だったそうですが、もう少し様子をみてみましょうということになったそうです。どんな相談をしたのかは知りません。そして「病院に行くのはもっと重症の人なのだ」と思ったとの事です。また保健所にも相談したところ、受診させたければ説得するのを助けますといわれて終わったそうです。
長くなって申し訳ありません。少し好転したと思ったら次の問題が起きて少しまいっています。メールを書く事で少し頭が整理されてきました。
私に出来る事は何でしょうか。姉、両親にはどう接すればいいのでしょう。そもそも姉は統合失調症でしょうか。このような状態で病院に連れていくことが姉にとって良い事なのでしょうか。
林: お姉さまは統合失調症(精神分裂病)だと思います。あなたのお考えのとおり、発症から約10年が経過しています。この段階での受診に躊躇される気持ちはわかります。治療を受けたとして、どこまで改善が期待できるかは未知数です。しかし、やはり受診はすべきだと思います。そうすれば、今後の悪化の程度を和らげることができると思います。
お姉さまは、中3、つまり15歳のときに不登校になり、同時に人格変化の兆候が見られています。この時点で十分統合失調症(精神分裂病)の可能性を考えてよかったと思います。このような形での発症はまれではありません。
もっとも、これだけでは「可能性」にすぎませんが、その後の経過をみますと、やはり診断は統合失調症(精神分裂病)で、発症は15歳と判断できます。あなたが箇条書きにされている項目は、どれも統合失調症(精神分裂病)の症状です。
まず、
・基本的に無気力、だらだらして何かをやろうとしない、なにをやるにも集中力がなくなにかにとらわれている。自分の世界に閉じこもっているよう(両親の弁)
というのは、慢性化した統合失調症(精神分裂病)の方によくみられる状態です。これは陰性症状と解釈することもできますし、幻覚や妄想などの陽性症状にとらわれていて、外見的には閉じこもっているようにみえていることもあります。
・事実かもしれないが、学校をやめたときは誰かに悪口を言われた、裏切られたと言っていた。友達と連絡をとらなくなったときも裏切られたといっていた。(今は友達はいない)
これはもちろん少なくとも一部は事実かもしれませんが、総合的に判断しますと、やはり被害妄想でしょう。このようなことを本人がおっしゃって学校や会社を辞めるのは、統合失調症(精神分裂病)ではよくあることです。
・何年も前に教わって会っていないはずの学校の先生に色々吹き込まれると言った事があった。集団療法をやめるときも色々吹き込まれるからと言っていた。
思考吹入(しこうすいにゅう)と呼ばれる症状です。
・独り言をいいつづける(小さくて聞き取れない)。突然笑う事もある。特に面白くないと思われる記事やテレビで笑う事もある。なぜか聞いても答えはない。
これは、幻聴があると思われます。
・一日に何度も同じことを言う。なんだか抽象的な事を言い続け、説明をもとめても同じ言葉をくりかえすのみ。口を閉じる、と言い続ける。同じ手の動きを繰り返す。
思考にも行動にも同じことの繰り返しがみられる。これを常同行為といいます。慢性化した統合失調症(精神分裂病)の症状です。
話しかけても型にはまった答しか返さない
のも同じ症状のあらられです。
・家事をやるが、いつも同じやり方で、改善を求めても変えない。同時に2つの事を頼むと忘れてしまう。買い物がうまく出来ない(物を選べない、小銭をうまく使えない)。
これも常同行為と解釈できます。
・何もないように見えるのに目がおかしいと言う(一度眼科を受診し、精神科に紹介されたことがあった)。
このように、周囲からみると奇妙な体の症状にこだわるのも、統合失調症(精神分裂病)の方にまれならず見られます。背景に体感幻覚があることもあります。
・ある日突然いなくなり数日後他県(家から新幹線と在来線で6時間以上かかる遠方)でふらふらしているところを警察に保護される。残金はわずかだった。その数日をどう過ごしたのか、なぜそうしたかは不明。
統合失調症(精神分裂病)の方にはしばしばこのような奇行が認められ、思考障害に基づいていることがほとんどです。
・TVを見れない、人が見ていても勝手に消してしまう。TVに出ている全く関係ないことについてあれこれ言う(この人は〜だよね)、暴力団、売春について心配した様子で聞いてくる
何らかの妄想があるのだと思います。
・身だしなみに無頓着で、風呂には入るがちゃんと体を洗わず、髪はべたべたしていてとかさない、歯磨きも不充分、同じ服を着つづけ、穴が空いていても気にしない。
陰性症状、あるいは人格水準の低下です。残念ながら、慢性化を裏付ける症状といわざるをえません。
以上のように、お姉さまが統合失調症(精神分裂病)で、しかも慢性化していることは間違いないと思います。ふりかえってみると、初期の対応が適切でなかったと言わざるをえません。
一度保健所で紹介してもらった病院(精神療法で有名な病院だそうです)に通った事がありましたが、「人格に偏りがある」とのことでグループ療法(何人か集まって、いろいろな話をするらしい)を受けていたようです。薬は無かったようです。数ヵ月でやめてしまいました。
結果論になるかもしれませんが、不適切な治療でした。統合失調症(精神分裂病)を、単なる性格の問題であるかのように誤診して、(薬を飲まずに)グループ療法などの精神療法を行うと、病状を悪化させるのはよくあることです。「精神療法で有名な病院」であれば、当然そのようなことは承知しているはずで、統合失調症(精神分裂病)の疑いのある方への精神療法の施行は慎重のうえにも慎重を期すのは常識です。ただし、当時のお姉さまの症状が、どの程度まで統合失調症(精神分裂病)を疑わせるものであったかが今となっては不明ですので、結果論というしかないかもしれません。なお、同じように、最近ときおり見かける自己啓発セミナーの類のものも、統合失調症(精神分裂病)の方では悪化させるのが常です。
これまでの経過はともかく、お姉さまに関しては、今なにをするのが最善かということになりますが、最初に述べたとおり、やはり病院を受診すべきと思います。そうすれば薬を処方されるでしょう。そして薬を飲むと、少なくとも本人にとっては、副作用だけが自覚され、良くなったという感じは得られないかもしれません。けれども、症状や生活水準の全般的な改善や、将来の悪化の抑制が、ある程度までは期待できます。ご両親にこの病気のことをよく説明していただき、受診させていただくのが最善だと思います。