精神科Q&A
【0573】嫉妬心が異常に強い母は病気でしょうか
Q: 56歳の母について質問します。私は27歳の長女で、結婚して独立しています。父は60歳です。
今から思えば、3年位前から母の様子がおかしくなってきたように思います。
父宛に届いた若い女性からの年賀状を見て、突然「これは絶対に浮気相手に違いない!」と言い出し、父を問い詰めたり、私に「この女のことを調べてきて!」と言ったりするようになりました。
その女性は父の会社の部下で、会社の方全員に年賀状を出していたそうです。父は元々寡黙で、特に怒った時や母が喚くような時には黙り込んでしまいます。その為に余計に母が疑ったのかもしれません。
その後、ことあるごとに「(父は)浮気している」と母は口にするようになりました。
「(別居している父方の)祖母からお金をもらって、何をしているかわからない。」とか、
「仕事と言ったって、会社から抜け出すことだってできるんだ。」と言うようになりました。
父は「バカバカしい。」と言って全く取り合いませんでした。
この話を聞いた私は、(今でも)父がそのようなことをする人ではないと思っているので、母に、「そんなにお父さんのことが信用出来ないなら、離婚すればいい。私はお父さんはそんな人ではないと思っている。」と怒りました。
私が家を離れたのが2年前なのですが、その後結婚を経て出産の際も、出産予定日に朝7時から1時間おきに(全く陣痛も起きていないにも拘らず)、
「陣痛は?子供は生まれたか?」と電話をかけてきました。
「予定日に必ず出産するものではないし、陣痛もない。何かあったら連絡する。」と何度説明しても電話は止まらず、6回目の電話がかかってきたときに、やむを得ず父に連絡し止めるように説得してもらい、ようやく電話は止まりました。
妊娠中は他にも色々な事をされたのですが、「更年期障害でも出てるのかもしれないが、単なる我侭だろう・・」という程度にしか考えませんでした。
ただ、1年ほど前から、ますますおかしいのではないかと思うようになりました。
父が携帯を持っていると「浮気相手と連絡を取るに違いない。」と怒り出し、明らかにダイヤルミスの「#」という発信履歴(?)を見て、「これは浮気相手との何かの暗号だ!」と言い出すようになりました。
父の浮気相手が、近所に住むある既婚の女性だと思っているようで、度々、この方のところに怒鳴り込んだりもしているようです。私はあるときその女性の方から、「浮気をしていると言いがかりをつけられて怒鳴り込まれたりして、私自身も精神的に限界なんです。病院に連れて行くなり、何とかして欲しい。」と、これまで2度にわたって話をされています。
母が何を言い出したりしでかすかわからないので、父は近所を散歩することも出来ない状態です。
先月には、朝8時に「そっちに行くから。」と我が家に電話があり、約束もなく突然(新幹線と在来線で6時間もかけて)上京してきました。
途中で連絡がつき、こちらの都合も関係なしでいきなり上京しようとする行為を責めると、「あなたまでお母さんを捨てるの?!もうどうなってもいい!」と電話の向こうで泣き出したので、やむなく上京してくるように言いました。
いきなり上京してきた理由は、「お父さんとお正月に上京しようと思っていたのに、お父さんに『交通費が高くなるから、正月は嫌だ』と言われたから」ということでした。
前もって連絡してこなかった(その上、父にも一言も言わずに家を出てきた)理由を尋ねると、「だって急だったから・・・。」との返事でした。
『自分で上京しようと決めたのが、当日の朝6時(=急)だった』ということのようです。
いい機会だと思い、心療内科や精神科でカウンセリングを受けるよう説得をしてみましたが、母は「あなたたち(私と息子)の顔が見られたから、それで十分。」と言って、聞く耳を持ちません。
一緒に住む父は携帯を取り上げられ、散歩ですら思うように出来ず、精神的にも参ってきているようです。
もう「我侭だから」という言葉では片付かないような気がします。主人は「精神分裂病では?」と言っており、私も先生のホームページを拝見してその可能性があるようにも感じています。ただ、おかしくなりはじめたのが53歳なので、精神分裂病にしては遅すぎる発症なのかなとも感じております。
病気であるならばご近所の方に迷惑を掛けていることもあるので、出来るだけ早く対処をしなければならないとも思っております。
林: 精神分裂病(統合失調症)か妄想性障害、または器質性精神障害(脳の細胞が徐々に異常をきたす、変性疾患など)の可能性が強いと思います。精神科の受診が必要です。
嫉妬妄想は、診断がなかなか難しいことがあります。嫉妬妄想の中心症状は言うまでもなく、配偶者(もしくはそれに相当する人)が浮気をしている、ということですが、浮気が事実であるとも十分ありえますので(もちろん、その人が浮気をしそうに見えるとか、到底しそうには見えないということとは無関係です)、そもそも妄想かどうかの判断に困ることがあるからです。
ですから、
私は、(今でも)父がそのようなことをする人ではないと思っているので、
というあなたの見解だけでは、これが妄想かどうかを判定する材料にはなりません。(怒らずに最後までお読みください。嫉妬妄想という症状についての考え方を、いま順を追って説明している途中です)
とここまでは一般論ですが、あなたのお母様のケースは、やはり妄想と診断して間違いないでしょう。
明らかにダイヤルミスの「#」という発信履歴(?)を見て、「これは浮気相手との何かの暗号だ!」と言い出すようになりました。
これはいかにも妄想的な反応ですし、(しかしまだこれだけでは妄想だと確信が持てませんが)
父の浮気相手が、近所に住むある既婚の女性だと思っているようで、度々、この方のところに怒鳴り込んだりもしているようです。
これが、一回だけでなく繰り返しているとなると、その他のことともあわせ、嫉妬妄想と考えてほぼ間違いないでしょう。
さらに、嫉妬妄想だけでなく、それ以外の異常な言動があることから、精神病性の障害であることが強く疑われます。妊娠中のあなたへの電話の繰り返しは、一種の強迫と解釈ですますし、非常識な時間の突然の上京は、何らかの思考障害が背景にあることが窺われます。
そうなりますと、次は診断ですが、
もう「我侭だから」という言葉では片付かないような気がします。主人は「精神分裂病では?」と言っており、私も先生のホームページを拝見してその可能性があるようにも感じています。
というあなたの意見はもっともです。お母様のこれまでの経過をみて、普通に考えられるのは精神分裂病(統合失調症)か妄想性障害です。発症が53歳だとすると、精神分裂病(統合失調症)としては確かに典型的な年齢ではありませんが、妄想を中心症状とする場合、それも特に女性では、中年以後の発症も例外というほどではありません。
もうひとつ考えられるのは、器質性精神障害です。これは、たとえば脳の神経細胞の変性などにより、精神症状が出てくるものです。脳腫瘍などの脳の病気による精神障害も、器質性精神障害に含まれます。
診断名がどれかはともかく、精神病性の障害であることは間違いないでしょう。現在では実際に近所の方にご迷惑をかけていることでもあり、このまま様子を見るという方針は適切でないでしょう。
病気であるならばご近所の方に迷惑を掛けていることもあるので、出来るだけ早く対処をしなければならない
という、あなたのご意見はもっともです。それを行動に移す時だと思います。