精神科Q&A

 【0571】うつ病の父の奇行


Q 私は30歳の主婦です。十年ほど前にうつ病と診断された62歳の父の事で、ご相談したい事があります。

 父は長年、抗うつ薬や眠剤を服用しています。入院もしました。しかし、いっこうに良くなりません。というか、躁の状態のような気がします。一時はクレジットカードをドンドン使ってしまいました。担当の先生に相談して、薬を変えてもらいました。カードは取り上げました。今一番困っているのは、車の運転です。どんなに言っても、物凄いスピードを出して暴走します。先日はとうとう事故を起こしました。本人はスピードは出ていなかったと言いますが、車が全損になるほどの事故ですから、出ていなかったはずはありません。

 他にも奇行が目立ちます。時計が一分でも狂っていると家中の時計を直して歩いたり、一杯飲む度に電気ポットのお湯を沸かしたりします。この程度ならまだいいのですが、他人に迷惑をかける事が一番困ります。今回の事故は自爆だったのですが、いつ人身事故を起こすのかと思うとたまりません。娘の私が言っても「はい、はい」と言うだけですし、母が意見したりすると鍵をしめて締め出したりします。前から、外面だけが良くて、マジメで気が小さいうつ病になる典型のような人ですが、今は父の性格の中の一番悪い所だけが増強されて、残っているようです。

 同じ話を何度もします。脳の検査では、異常はなかったそうです。主治医の先生は、「本人が薬を変えたくないと言ってるのに、変えられない」と特に説得もしてくれません。家族としてもまた「うつ」状態にはまるのも困ります。でも、自分の思った通りにならないと、意地悪をしたり、スーパーで大きな声で「これ買って〜〜買って〜〜」と、叫んでみたりと、一緒に住んでる母が本当に苦労しています。誰の意見も聞きませんし、意見しても意固地になるだけです。このままでは、母の方が心の病気になってしまうのではないかと、心配です。

 違う病院に診てもらった方がいいのでしょうか。抗うつ薬もこのまま飲み続けていいものなんでしょうか。どうしたらいいのか、本当に困っています。


: お父様の症状は、うつ病らしくありません。おそらく、うつ病ではないでしょう。あなたの書かれている「躁状態」も、躁うつ病の躁状態とは違うようです。もっとも考えられるのは、器質性精神障害だと思います。脳の精密検査が必要です。

まず、うつ病という診断については、
十年ほど前にうつ病と診断された
という記載しかありませんので、一体当時どういう症状があってうつ病と診断されたのかが不明です。したがって、最初の診断が適切であったかどうかについては何もコメントできませんが、それから十年後の今の状態から考えて、器質性精神障害の初発症状が漠然としたうつ状態だったと推定できます。

 最近の状態として書かれているもののうち、クレジットカードによる浪費や車の無謀な運転だけを見れば、躁状態とも解釈できますが、それ以外の奇行を見ますと、躁うつ病の躁状態とは色彩が違うことが感じられます。
つまり、
時計が一分でも狂っていると家中の時計を直して歩いたり、一杯飲む度に電気ポットのお湯を沸かしたり
というのは、躁状態の症状とは考えにくく、むしろ一種の強迫症状と解釈できます。
さらに、
自分の思った通りにならないと、意地悪をしたり、スーパーで大きな声で「これ買って〜〜買って〜〜」と、叫んでみたり
というのは、人格変化といえるでしょう。

 以上を総合すると、お父様は何らかの器質性精神障害(脳の変性疾患など)にかかっておられるのだと思います。これだけの症状があれば、脳の検査により何かの所見が出ることはほぼ確実だと思います。
脳の検査では、異常はなかったそうです。
とお書きになっていますが、十分な検査をされていないのではないでしょうか。(具体的にはいつごろどういう検査をしたのかをお書きいただければ、より正確な回答ができると思います)

 したがって、お父様のケースでは、単にこれまでの薬を継続するという方針では、何の変化もないか、むしろさらに悪化していくことが予想されます。主治医の先生が、
本人が薬を変えたくないと言ってるのに、変えられない
と言っておられるとのことですが、これでは精神科の治療にならないことは明らかです。この主治医の先生は、特殊な信念を持っておられるのか、あるいはあまりやる気がないかのどちらかだと思います。

 治療と検査のために、病院を変えるべきだと思います。


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