精神科Q&A
【0552】妊娠して薬を禁止されパニック状態になりました
Q: 25歳(女性)です。3年程前からパニック障害になり、現在投薬治療を受けています。
今年結婚したこともあり、今妊娠した可能性があります。
先日、主治医の先生に妊娠の話をしたら、即刻薬をやめるように言われました。
それまでは薬(ソラナックス0.4mg:2錠・レキソタン5mg:1錠・トレドミン15mg:1錠)を飲んでいたせいもありますが、2ヶ月ほど前からは随分体調もよく、薬を忘れてもパニック状態になることもなかったのですが、主治医に言われてから、薬を飲んではいけない・・の言葉が頭から離れず、病院から帰ってから何度も何度もパニック状態に陥り、仕事も手につかない状態になってしまいました。
このままではどうする事も出来ないと、主治医の先生に何か飲んでもいい薬はないのですか?と聞いたところ、薬を飲むのなら妊娠が分かっても堕ろす覚悟で飲んでください・・と言われてしまいました。薬を飲んではいけない・・という言葉が精神的に重く感じているからだとは思うのですが、パニック状態になったとき、薬を飲まなければならないような状態でも我慢しなければならないのでしょうか?このままでは外出も怖くて、仕事も手につきません。
林: それまで薬を飲んで症状が安定していた人が妊娠したとき、薬をどうするべきか。この問いに対する答えは、「副作用による危険性より、薬を飲むことによって得られる効果が上回ると思われる場合は飲む。そうでなければ飲まない」ということに尽きます。これは、どんな薬についても同じことです。薬にしても、他のどんな治療にしても、プラスの面とマイナスの面がありますから、その両者のバランスによって決めるということです。
あなたのケースでは、このまま薬を飲まずにいれば、パニックの症状が悪化し、その症状そのものによって、妊娠・出産が不可能になる確率がかなり高いと思います。その一方で、妊娠初期(3ヶ月まで)は、できれば薬を飲まないほうが望ましいことも事実です。ただし、薬を飲んだら絶対に胎児に悪影響があるかというと、そんなことは決してなく、確率の問題にすぎません。また、あなたの飲んでおられた薬が、特に胎児に悪い種類の薬ということもありません。
ですから、こうしたことを理解したうえで、いま薬を飲むか飲まないかを決めるのが正しいということになります。
薬を飲むのなら妊娠が分かっても堕ろす覚悟で飲んでください
という、あなたの主治医の言葉は、私には正しいとは思えません。
万が一、薬によって胎児に悪影響が出た場合(もっとも、それを証明するのはきわめて難しい、というよりほとんど不可能です。薬を飲んでいなくても、一定の確率で先天的な障害は出るものですから、結果をみてその原因が薬かどうかということは誰にも言い切れないのです)、処方した医師が責任を問われる可能性がありますので、それをなんとしてでも回避しようとすれば、「妊娠したら薬は絶対に飲んではいけない」と指示することになります。しかし、たとえばあなたのケースのように、薬をやめたら妊娠・出産そのものが困難または不可能になる方もたくさんいらっしゃるのです。「妊娠中は薬は避ける」というのは常識ですが、それが通用しない場合も多々あるわけで、そうしたケースにも単に責任の回避を目指すのではなく、現実的に対応するのが治療のプロである医師の責務であると私は考えます。それは、薬のプラス・マイナスを説明したうえで、飲むか飲まないかを決める相談にのることだと思います。
なお、妊娠と薬については、うつ病の相談室の101ページからの項目にわりとくわしく解説しましたのでよろしければお読みください。