精神科Q&A
【0482】薬を大量に服用して階段から落ちました。その直前の記憶がないのですが。
Q: 私は26歳の主婦です。一ヶ月前に、薬を大量に服用して階段から落ち意識を失い入院しました。
意識は数時間でさめたのですが、その前の記憶が全くないんです・・・知人などから聞くと薬の大量服用を何回もしてしまったりしていたらしく、その原因が知人の死や知人の家への泥棒騒動、そして知人から自分がしてない事をしたという冤罪をかけられたりしていたそうです。
病院に行き診断をしてもらったところさまざまなストレスによる心因反応と言われ、安定剤を2週間分もらっただけで終わってしまいました。今後の相談やどの位通ってくださいという話もなく終わってしまい不安です。それからの私は私はどーすればいいの?という不安で落ち着かず毎日ソワソワしてるばかりでインターネットでいい病院を一日中探してみたり心の電話相談に電話してみたりしてもいい病院は教えていただけませんでした。その不安から主人が一日分の薬を置いていってくれるのですが、朝のうちに全て飲んでしまいます。友人たちは「精神病じゃないんだから心療内科通ったほうがいい、精神科なんて行かなくていい」と言ってくれるのですが、うつ病の症状もあれば精神分裂症という症状もあります。私は一体なんですか?薬と心療内科に通っていれば記憶は戻るんですか?それともちゃんと調べていただける病院へ行ったほうがいいんですか?
林:
「その前の記憶が全くないんです」
の、「その前」とは、どのくらいの時間なのか。
「階段から落ち入院しました」
このとき、脳の検査の結果はどうだったのか。脳に損傷を受けたのか。
この二つの情報がないと、お答えできない質問です。それによって答は全く違ってきますので。
しかしここでは一応、脳挫傷などの脳の永続的な損傷はなかったものとしてお答えすることにします。
たとえそうした損傷がなくても、階段から落ちるなどして意識を失った場合(これは脳震盪ということになります)、直前の記憶がないのはむしろ普通のことです。脳に何らかの急性の侵襲が加わると、その原因にかかわらず、その直前の一定時間の記憶は失われます。これを逆向性健忘 (ぎゃっこうせいけんぼう) といいます。あなたのケースでは、階段からの転落に加え、大量に服用した薬もこの症状に影響していると思われます。
逆向性健忘が、どのくらいの期間におよぶかは、侵襲の程度によりますが、あなたのように数時間程度の意識障害では、長くても数日といったところでしょう。実際、あなたの「記憶がない」のが、どのくらいの時間なのかが不明ですが、たとえば階段から落ちる前に薬を飲んだところから後を覚えていないとすれば、よくある逆向性健忘の範囲です。そしてそれが仮に数日におよんでいても、やはり逆向性健忘と考えても矛盾はありません。
ただ、もし数日以上(はっきりと何日以上とはいえませんが)の記憶がないとなると、脳震盪の逆向健忘だけとは考えられません。メールの文面からは、何回もした大量服薬や、その原因としての人間関係の記憶も失っておられるように読めます。とするとそれは何週間にもわたって記憶がないということでしょうか。
そうだとすると、脳震盪によるものではないでしょう。むしろ心因性健忘が考えられます。「ストレスによる心因反応」といっても、大体同じことをさしています。
「安定剤を二週間分もらっただけ」
とお書きになっていますが、本当にそれだけで何の話もなかったのでしょうか。それはちょっと理解し難いことで、次の受診の際にもう一度よく話しをお聞きになったほうがいいと思います。
それから、付け加えますと、心療内科と精神科は事実上同じものですので、あなたにアドバイスをしてくれたお友達は、あまり事情がわかっておられない方だと思います。したがって、このお友達からのアドバイスはあまり意味がなく、あなたを混乱させるだけでしょう。
また、次に書かれている文章:
「うつ病の症状もあれば精神分裂症の症状もあります。私は一体なんですか?」
と質問されても、あなたのおっしゃる「うつ病の症状」「精神分裂症の症状」の具体的な内容が不明ですので、お答えのしようがありません。
「薬と心療内科に通っていれば記憶は戻るんですか?」
ということにかんしては、この回答の最初にお書きしたように、お答えするには情報が不足しています。
最後の、
「ちゃんと調べていただける病院へ行ったほうがいいんですか?」
ということにかんしては、当然イエスですが、ほかの病院の受診を考える前に、今の病院の先生の話をよく聞いたほうがいいと思います。つまり、これ以上調べる必要がないと診断されているかもしれないからです。だとすれば、別の病院にかかるのは無駄になるかもしれません。
全体を通して感じられることは、あなたが浮き足立っているということです。まず一人の先生にしっかり治療を受けることが第一です。いろいろ調べたり人に聞いたりされているようですが、あなたの状況を見ますと、お友達のアドバイスやインターネットの情報は今のところは無視したほうがあなたのためになると思います。