精神科Q&A

【0481】階段から転落した父が思いやりを失い暴れている


Q: 一ヶ月前、父(63歳)が階段から転落し、外傷性クモ膜下出血および重度の脳挫傷 の重傷を負いました。現在は回復しているのですが、本人が脳挫傷を負っているという自覚が無く、タバコを吸いたいと暴れたり、無理矢理入院させられているといって 暴れたりしております。医師からは、「脳の腫れが若干あるが、病院での治療は必要なく、後はリハビリをするしかない」と言われております。事故前は、どちらかと言うと 無口だった父が同じようなことを何度も何度も止めど無く話しつづけたり、病人扱いすると怒鳴りつけたりしており、感情のコントロールができないようです。また、相手を思いやる気持ちを失っているようです。そこでご質問なのですが、こういった症状は一過性のものなのでしょうか?もしくはリハビリで克服できるのでしょうか? 

: 脳挫傷であれ、クモ膜下出血であれ、脳の外傷の際には、まず何らかの意識障害が見られます。意識障害というと、意識を失った状態を想像されるかもしれませんが、意識を失う(意識喪失)のは意識障害の一種にすぎず、なんとなくぼんやりした状態から完全な意識喪失まで、意識障害には様々なレベルがあります。どのレベルの意識障害が生じるかは、外傷の程度によって決まります。

 そして、時間が経過すると、意識障害は自然に回復し、今度は外傷の場所によって決まる症状が目立ってきます。運動や感覚の麻痺や、失語症などです。(これらはもちろん外傷直後にも存在した可能性は高いのですが、意識障害のほうが目立っていたということです)

 今いった「時間が経過すると」の「時間」の長さも、外傷の程度によって違ってきます。意識障害は、一日以内で回復することもあれば、一ヶ月以上続くこともあります。

 そこでお父様の症状ですが、脳に外傷を負われてから一ヶ月というのは、意識障害があっても不思議はなく、逆に意識障害が回復していても不思議はない時期です。つまり、時間的なことだけからいえば、いまのお父様に意識障害があるかないかは何ともいえないということになります。(メールに記載された文章からは、まだ意識障害が残っているようなニュアンスを私は感じますが)

 もし今の症状が意識障害によるものであれば、基本的には時間の経過とともに自然に回復するでしょう。意識障害のひとつとして、せん妄というものがあります。幻覚が出たり、興奮したりする症状です。お父様の現在の状態はこれに近いかもしれません。

 ただし、自然に回復するといっても、重度の脳挫傷を負われているとのことですので、何らかの後遺症は残るでしょう。その症状は、脳挫傷が脳のどこに起きたかによって違ってきます。

 また、今のお父様の症状そのものが、意識障害によるものではなく(つまりもう意識障害からは回復していて)、脳挫傷によるものである可能性もあります。
「何度も何度も止めど無く話しつづける」
「感情のコントロールができない」
「相手を思いやる気持ちを失っている」
という状態は、前頭葉、特に前頭葉の底面の損傷のときによく見られるものです。

 以上のように、今のお父様の症状は、意識障害によるもの、脳挫傷によるもの、のいずれもが考えられます。どちらかを判断するには、経過観察に加え、脳波や脳MRIなどの検査が必要です。主治医の先生が
「脳の腫れが若干ある」
とおっしゃったというのは、ふつうは脳浮腫のことをいっている(これはMRIで診断できます)と考えられますが、
「病院での治療は必要ない」
といわれたとなると、よくわかりません。脳浮腫は、今のお父様の症状を増悪させている可能性があり、だとすればそれは病院での治療の対象になるからです。

 いずれにせよ、
「この症状は一過性のものなのでしょうか」
というご質問にお答えするためには、検査所見を見る必要があります。したがって、主治医の先生以外がお答えするのは難しいということになります。


 


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