精神科Q&A

【0461】措置入院になった妻は解離? てんかん?


Q:43歳の男性です。私の妻(33歳)のことでご質問させていただきます

 現在私の妻は神経科に通院しております。妻と知り合ったのは職場で、五年前のことです。それ以来漠然とですが結婚を前提として交際しておりましたが、三年ほど前に、私が同じ職場の女性と関係があるのではないかと妻(今は妻、当時は同僚ですが)が疑い始めたことが、通院のきっかけでした。妻は、その女性が妻に対して色々な嫌がらせをするというのです。多少不安定な状態だったので暫く近くの大学病院の心療内科を受診しました。その時は安定剤をもらって飲んでいました。それから間もなく私たちは結婚しました。

 しかし妻は結婚後も私と上記の女性との関係に疑問を持ち続け(全くそのような事実はありませんでした)、事あるごとに私を責め続ける状態がつづき、あるときから私が仕事に行くのを泣いて引き止めるようになり(私がどこかへ行って帰ってこないのではないかという不安にかられてですが、本人は引き止めたことは記憶にないとの事)、全く仕事に行くことができない状態になり、今度は家の近くの精神科を受診して自律神経失調症からくる不安ではということで抗不安薬を処方してもらって飲んでいましたが一向に改善せず、妻の実家が近くだったのでそこで同居して通勤したりもしたのですが、ますますひどくなっていくばかりだったので、医者と相談して二年前に約一ヶ月半入院させました。

 その際は病名としてもはっきりしたものではなく、『ストレスから来る不安緊張状態』というとって付けたような病名でした。

 多少良くなったので退院しましたが、それ程以前と変わった感じはなく、1週間に2回くらいは私が仕事に出るのを泣いて引き止める状態でしたが、妻の両親の協力で何とか仕事には行けていました。薬はその当時はリスパダ−ル、アーテン、リボトリール、サイレースを服用していました

 状態が好転しないことに私も妻も疑問をもち、担当医に色々尋ねたりしましたが、あまりこちらの話を聞こうとしなかったので一年前に妻の兄が勤務している大学病院の精神神経科へ診察を受けるようになりました。しかしそちらでもはっきりしたことは結論として出ず、(心理テストで精神年齢が非常に幼い事はわかりました)薬の量だけが次第に増えていくといった具合であり、かなり自宅からは遠かったのと、半年前に倒れ意識が無くなったことがきっかけで結果的には元々通院していた精神科へ戻りました、その際に『てんかん』の疑いが強いと判断されたのでその時点から抗てんかん薬を服用するようになりました(テグレトール100ミリグラム×3)。

 その後経済的事情で名古屋に帰任することになり、家族ともども引っ越しました。
(本来なら妻の病状を考えてもう少し東京へ留まるべきかとは思いましたが)

 病院は自宅のそばの神経科に通院して治療を継続することになりました。

 名古屋に来てからは環境の変化になかなか馴染めず、外にもあまり出ず、体調のすぐれない状態は続いていましたが、何とか半年程度は生活できていました。

 ところが三ヶ月ほど前、子供の友達との関係がきっかけですごいショックを受けてからおかしくなり、ある日突然自宅の窓から飛び降りようとして大暴れし、それ以降無意識に物を投げたり、塀を乗り越えようとしたりして、かなり危険を感じたので病院を転院して(通院していたところでは一般病棟しかないので家内の状態では無理と言われたので)措置入院することにしました。

 子供の事もあり、お願いして妻の両親にわざわざ来て頂いて家内が退院するまで子供の面倒を見てもらうことにしました。

 入院中は閉鎖病棟で約2ヶ月間入院し、病院の診断では解離性障害(ヒステリー)の疑いが高いが、てんかんの症状もあるとのことで多少状態が好転したのと、妻が『退院したい』というので昨年の年末前に退院し、徐々に家庭復帰してから両親には帰ってもらおうと考えていました。

 しかし、性格的なものか調子のよい時は一生懸命全てをやってしまわないと気がすまないらしく、その反動が翌日に出て3〜4日は何も出来ず寝てばかりいるといった調子で一向に改善の兆しが見えないばかりか、様々な症状が出て(部屋の壁や窓を叩きまくる、ティッシュを何枚も出して飛ばす、夜中の徘徊、失声、呂律が回らない、イライラが強い、物を投げる、床に物をきれいに並べてからまたもとに戻す、舌を噛んでしまう、暴れる、両親や他人の言葉に過敏に反応してしまうetc)却って入院前より状態は悪くなっている様に感じられます。

 ちょっとしたことでも過敏に反応する性格も災いしており、妻の父親も精神的に弱い方で家内の状態が悪いと取り乱して家内にいってはいけない言葉を発してしまい。余計に状態が悪くなることも多々あります。

 最近は私自身も、妻の両親もどうすればいいのかわからず悩んでいます
(もっとも一番苦しんでいるのは妻自身ではありますが)

 病院へは2週間に1度通院しており、出来るだけ妻の状態を先生に正確に伝達するため文章に起こしてお渡しし、それに基づいて色々と薬の変更やアドバイスを受けていますが、大学病院のせいかどうにも薬の分量も多く、妻の状態を見ていると信頼しづらい部分もあります。

 私自身が色々調べた感じでは解離性障害より転換性障害の方が症状的に当てはまるような感じがしてなりません(無論素人である私が調べた事と病院の先生自身が診断されていることとどちらが正しいかなど比較すること自体がおかしいとは思いますが)。

 また妻は幼少時に自転車から転倒して、左の側頭部を打ち、その後痙攣を起こして倒れ、入院したことがあるそうです。

 また小学校低学年の時にも同様のことがあり、やはり短期間ではあるが入院しているそうです。

 私としては幼少時の頭部外傷が現在も影響している、つまり『外傷性てんかん』の可能性もあるのではと考えたりもします。

 今後妻が回復するためにはどういう風に対処すればよいのでしょうか。また薬の量が多いことについて林先生はどうお考えになりますか。

 現在の病院の先生は『解離性障害中心の投薬でやっている』との事なのですが、先生のHPの回答を拝見していると『薬は必要なこともそうでないこともあります』とお書きになられているのを見て、私としては正直副作用がでるのではないかと考えるほど多いと感じます。

(現在処方されている薬)
(朝・昼・夕)テグレトール 300mg デパケンR 200mg フェノバール 30mg セルシン 2mg 
(夕) 上記に加えて  ルボックス 25mg セルベックス 10mg ルーラン 4mg
(寝る前) リボトリール 1mg ルーラン 4mg ダルメート 15mg ベンザリン 10mg


: 診断は非常に難しいと思います。また、奥様のような経過と症状では、脳波と脳のMRIが、診断上きわめて重要な所見になります。したがいまして、結論を先に申し上げますと、脳波とMRIを見ない限り、本当は何も言えないと思います。ですから、これは回答すべきでない(つまり、回答することによってあなたをかえって混乱させる)かもしれませんが、あえてメールの情報のみからいえることを書いてみます。

 それからもうひとつ、検査所見以外にどうしても確認しておきたいこととして、名古屋に転居されてからは、あなたの同僚の女性についての奥様の嫉妬は目立たなくなっているのでしょうか。もし、転居されてからもあまり変わらなければ、つまり名古屋にまでその相手の女が来ているとか、場合によってはもっとありえないようなことを疑っておられるのでしたら、それは嫉妬妄想と判断し、精神分裂病などを考慮することになりますが、ここでは名古屋では嫉妬は目立たなくなっていると仮定して話を進めます。

 ご質問のタイトルに「解離? てんかん?」とありますので、まずこの二つについて検討してみましょう。

 解離を思わせる症状としては、奥様に関しては以下のものが挙げられます:

「妻は結婚後も私と上記の女性との関係に疑問を持ち続け(全くそのような事実はありませんでした)、事あるごとに私を責め続ける状態がつづき、あるときから私が仕事に行くのを泣いて引き止めるようになり(私がどこかへ行って帰ってこないのではないかという不安にかられてですが、本人は引き止めたことは記憶にないとの事)」

ここで、「引き止めたことは記憶にない」というのが本当だとすれば、これは解離でしょう。てんかんはほとんど考えられません。また、嫉妬深い性格であると判断するとすれば、あとから施行された心理テストで精神年齢が幼いと診断されたこととあわせると、解離性障害になりやすい性格といえるでしょう。

また、

「子供の友達との関係がきっかけですごいショックを受けてからおかしくなり、ある日突然自宅の窓から飛び降りようとして大暴れし、それ以降無意識に物を投げたり、塀を乗り越えようとしたりして、かなり危険を感じた」

この「きっかけ」の具体的内容が不明ですが、何らかの精神的なストレスがあったと仮定しますと、この症状は解離性障害の可能性がもっとも高いです。したがって措置入院の直接の原因となった病名は、解離性障害ということになると思います。

 さらに、退院後の症状の、

「部屋の壁や窓を叩きまくる、ティッシュを何枚も出して飛ばす、夜中の徘徊、失声、呂律が回らない、イライラが強い、物を投げる、床に物をきれいに並べてからまたもとに戻す、舌を噛んでしまう、暴れる、両親や他人の言葉に過敏に反応してしまうetc」

は、少なくともてんかんよりは解離らしい症状です。

 なお、解離転換は基本的には大きな違いはありません。主治医の先生が「解離」とおっしゃり、あなたが「転換」と考えられても、そこに矛盾はありません。どちらとも言い難い症状や、一人の患者さんに両方の症状が出ることはそう珍しいことではありません。

 次に、奥様がてんかんかどうかということです。(なお、蛇足ながら付け加えますと、「てんかん」と「転換」は全く別のものです。質問者の方はもちろんわかっておられると思いますが)

今回の一連の経過の中でてんかんと診断されたのは、半年前の、

「倒れ意識が無くなったことがきっかけで結果的には元々通院していた精神科へ戻りました、その際に『てんかん』の疑いが強いと判断されたのでその時点から抗てんかん薬を服用するようになりました(テグレトール100ミリグラム×3)」

このときの様子を詳しくお聞きしたいところです。「倒れて意識が無くなった」というのは、どういう状況だったのか、時間はどのくらいか、けいれんはあったのか、などが、てんかん発作であったかどうかを判断するうえで重要な情報です。それと同じように、あるいはもっと重要なのは、脳波の所見です。「『てんかん』の疑いが強いと判断された」というのは、脳波で発作波が認められたということだと思われますが、実際はどうだったのでしょうか。抗てんかん薬の服用を開始されたということは、「『てんかん』の疑いが強い」というよりも、てんかんと診断されたと通常は考えるところです。(その場合でも患者さんやご家族には「疑いが強い」と説明することは十分ありうることです)

 そして現在の処方を拝見しますと、抗けいれん薬が一日量として、テグレトール900mg、デパケンR 600mg、フェノバール90mg になっており、これは解離性障害の処方というより、てんかんの処方です。

それから、幼少時の、

「自転車から転倒して、左の側頭部を打ち、その後痙攣を起こして倒れ、入院したことがある」

これは確実な外傷性てんかんの既往です。

「また小学校低学年の時にも同様のことがあり、やはり短期間ではあるが入院している」

ということは、転倒時の傷が脳に残っていることを示唆しています。おそらく脳挫傷で、それがてんかん原性焦点(その脳挫傷の部位からてんかんの発作波が出る)になっていたのでしょう。今でもその脳挫傷は残っているはずです。(小学生で入院されたときに、手術は受けておられないことを前提としてお答えしています)

したがいまして、

「私としては幼少時の頭部外傷が現在も影響している、つまり『外傷性てんかん』の可能性もあるのではと考えたりもします」

というのは、まったくおっしゃるとおりです。というより、現在の奥様の脳波に異常があるとすれば、それは外傷性てんかんの可能性が最も高いでしょう。

 以上をいったんまとめますと、

・症状的には解離の可能性が高い
・しかし治療内容や既往歴からは、てんかんの可能性が高い


ということになります。

 そして、これから先の判断は、最初に申し上げたとおり、脳波とMRIの所見を見なければなんともいえません。MRIで脳挫傷の所見があり、脳波でその脳挫傷の部位を焦点とするてんかん発作の所見があれば、外傷性てんかんの診断は確実です。

 仮に脳波とMRIにそのようなはっきりした所見があったとして、では解離の症状はどう考えるかということになりますが、臨床的な経験則として、非常に典型的な解離の症状は、脳に何らかの障害がある場合に出やすいということがありますので、奥様のように、脳に損傷がある方に、てんかんとは別に解離の症状が出ても矛盾はありません。

 また、解離かてんかんか区別しにくいケースがあるというのも事実です。これは古典的にはヒステロエピレプシーhysteroepilepsyと呼ばれていたものです。現代の診断の体系からは、このような曖昧な診断名は除かれていますが、だからといってこうした病態が存在しなくなったということではありません。もしかすると奥様はこのヒステロエピレプシーがもっともあてはまるかもしれません(繰り返しますが、脳波所見を見て、さらには臨床症状を直接見ないことにはなんとも言えませんが)。

 最後に、もっとも重要な治療のことです。

 何度も同じことを繰り返して恐縮ですが、治療方針を立てるにあたっても、脳波とMRIの所見がきわめて重要です。それを見なければ、適切な治療法を示唆することはできません。

 ここでは処方のことについてのみお答えします。

「私としては正直副作用がでるのではないかと考えるほど多いと感じます」

とおっしゃっていますが、確かにこの量なら副作用は出るでしょう。しかしそんなことは百も承知でこの処方がなされているのだと思います。奥様の症状からすると、副作用が出るからといって薬を少な目にしていたら、悪化してとりかえしのつかないことになる率のほうが高いと思います。また、抗けいれん薬の量は、臨床症状だけでなく、脳波所見の変化や薬の血中濃度によって決めるものですので、処方だけを見て多いとか少ないとか意見を言うことはナンセンスです。症状・脳波・血中濃度を総合的にみて、必要最小量を処方するのが正しい方法です。そして奥様の場合には、この処方が必要最小量なのだと思います。副作用のことをご心配されていますが、薬の量は効果と副作用のバランスによって決めるもので、症状が激しければ多少の副作用はリスクとして受け入れる以外にありません。

 もっとも、量が多いかどうかはともかく、薬の種類は多いと私は感じました。

 メールで頂いた情報から判断する限りでは、なんとか抗てんかん薬と抗不安薬・睡眠薬だけでいきたいところです。つまりルボックスやルーランは切りたいところです。しかしそれは理論だけの机上の空論かもしれません。症状が激しい場合(特に奥様の場合、措置入院にしなければならないほど激しかったわけですから)、理屈はともかくとにかく症状を抑えなければ何も始まらないということがよくあるからです。そしてそのためにはたくさんの種類の薬を使わなければならないことが多いのです。(それでも奥様の処方から、私ならルボックスを取り除きたいとは思いますが。25mgだけのルボックスをこの処方に加える意味が私にはわかりません。もっともここまでくると医師個人の判断ということだと思いますが)

 長くなりました。まとめます。

1. 奥様の診断は、解離性障害、てんかんの両方が考えられます。
2. 診断のためには脳波とMRIの所見を詳細に検討する必要があります。したがいまして、ここでの私の回答は、その重要な情報ぬきで行っていますので、全く違っているかもしれないということをご理解ください。つまり奥様のような複雑な症状のケースでは、主治医以外には本当のことはわからないということになります。
3. 奥様の処方は、量が多すぎるということはないと思います。ただ個人的には薬の種類はもう少し減らしたいと思います。

 


精神科Q&Aに戻る

ホームページに戻る