精神科Q&A

【0436】25歳の友人が半年前から失語症になっている


Q: 25歳になる私の友人(女)は、もう半年以上失語症の状態が続いています。空気が漏れる程度の声しか出せないのです。
 専門の先生に診てもらったようで、病気ではないようです。
 原因はどうやら勤め先での人間関係のようで、きっかけは仲の良かった方の所属が変わって離れてしまったこと、そして上司からきつい態度をとられていることらしいです。
もともと彼女は人との付き合いが苦手な方で、積極的なほうではありません。性格は自己中心的で、悲観的な考えをしています。
 何回か「自殺する」と言って、実際に洗剤を飲んだりしていますが両親にそのことを言っていないようです。
 同居しているご両親は、彼女の精神状態にあまり関心がないらしく、彼女の今の状態も「辛抱が足りない」とか「根性がない」と言っています。
それでも精神科に通っています。
 しかし治療内容は、(彼女に聞く限りでは)カウンセリングのみで薬の処方はまったくおこなってないとのことです。
 実は声の出ない状態は数年前にも1回ありました(そのときは数ヶ月で収まったのですが…)
 今は仕事も休職しており、このままでいくと退職は間違いないようなのですが、どの本を見ても「失語症」に関しての詳しい記述が載っておらず、彼女の将来が不安です。
 ぜひとも回答の方をよろしくお願いいたします。 

: これは失語症ではありません。失声(しっせい)です。ですから何かでお調べになる場合は、「失声」をキーワードにしてください。「失語症」についてお調べになっても、この方の症状理解の助けにはなりません。
 失声の大部分は、この方のように、空気が漏れる程度の発語になります。ささやくような感じです。全く声が出なくなることもあります。
「専門の先生に診てもらったようで、病気ではないようです。」
というのは、器質的な病気ではないということでしょう。つまり、発声器官には異常がなかったということだと思います。失声の大部分は器質的な異常なしで起こります。
失声の起こる原因はいくつかありますが、この方の場合はおそらくあなたが書いておられるように、ストレスだと思います。ストレスによって起こる失声は、転換性障害(転換ヒステリーともいいます)の一症状です。
 ここでいう「転換」とは、心理的な原因による症状が身体に出る、というような意味です。よく間違えられるのですが、脳波異常があってけいれん発作を起こす「てんかん(癲癇)」とは全く別の病気です。
 この方の性格が自己中心的で、自殺のそぶりをしたりしたこともある、という情報からも、転換性障害の診断が強く推定できます。
 治療は、カウンセリングが中心です。薬は通常必要ありません。軽い抗不安薬や抗うつ薬を使うこともありますが。
 また、治療しなくてもほとんどが治ります。ある日突然治ることもあれば、徐々に声が出てくるということもあります。
 ただ、治るというのは失声の症状自体が治るという意味で、この方の場合、また大部分の転換性障害の場合もそうですが、ご本人の性格的なことから環境(人間関係)までの調整などが必要になります。おそらく今受けておられるカウンセリングではそうしたことにターゲットがしぼられているのでしょう。いずれにせよ、今の治療でいいのだと思います。
 なお、失語症はたとえば【0435】の方のような症状です。脳の言語領域(左の前頭葉、側頭葉)の損傷によって起こる病態です。原因は脳血管障害が最も多く、その他にはアルツハイマー病のような痴呆や脳腫瘍があります。この【0436】の方が失語症である可能性はゼロです。


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