精神科Q&A
【0057】「心の病が完全に治る」と聞いて大金を払ったのですが、治りません。だまされたのでしょうか
Q: 27歳の男、会社員です。約3年前からパニック障害にかかりました。インターネットで心の病が完全に治るという「××療法」というのを見つけ、治療を受けました。その先生は「完全に治ります」「薬もやめられます」とはっきりと言いました。とても高額な治療費がかかりました。しかし治るどころか、薬もやめられていません。私はだまされたと思い食い下がったら、「治らないケースははじめてです」と言われました。私はだまされたのでしょうか。××療法というのは実在するのでしょうか。
(××の部分は元のメールでは具体名が入っていましたが、林の判断でここでは削除しました)
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林: まず第一に、インターネットの情報をそのまま信じるのは常に誤りです。自分でサイトを開設していてこういうことは言いにくいのですが、どこの誰が発信しているかわからない情報を信用するというのは全く不合理なことです。医療に関していえば、ネットの情報と、実際にかかっている医師の言うことが食い違った場合は、迷わず医師の言うことを信用するべきです。これはネットでも新聞でもテレビでも同じことです。
あなたの場合、高額な治療費をとられて結局は良くならなかったとのこと、同情は申し上げますが、「だまされた」とは言えないと思います。20歳をすぎた成人が自分で情報を見て判断したのですから、「だまされた」というのは矛盾だと思います。責任の大半はあなたにあると言うべきでしょう。
それとは別に、パニック障害そのものについてお答えすると、現代医学の観点からは、「薬も飲まずに完全に治る」というのは常識を外れています。多くの人は薬を飲みながら徐々に良くなっていくものです。薬が最初から全く必要ない人もいることはいますが、それは例外です。ですからその××療法が、すべての人に薬を飲まないことをすすめているのであれば、それは常識を外れていると言わざるを得ません。
だからといってその治療が誤りと言い切ることは誰にもできないので、その治療を受けるか受けないか、また高額な治療費を払うか払わないかは、自分で判断すべきことです。判断した結果が思わしくなければ、それはだまされたのではなく、自分の判断が誤っていたと認めるべきでしょう。
「必ず治る」と言われて治らなかったら、やはりだましたことになるのではないかと考えられるかもしれません。しかしそれもどうかと思います。厳密な意味で「必ず」ということは世の中にあり得ないわけですから、「必ず」という言葉を使ったとしても、常に例外はあるということは了解しておくべきでしょう。
なお、メールに具体名があった「××療法」は、少なくとも私は聞いたことはありません。もちろん医学書や医学の文献にもありません。