精神科Q&A
【0368】 うつ状態と、乳首からの半透明の液体
Q: 22歳、専門学生の女です。去年の今頃、生理が3ヶ月とまり、身体に異常が現れました。
症状としては、食欲がなくなる、または食べても吐き気がするようになり痩せた、貧血のような、足が地につかないような、目の前が白くなり、頭から血の気がひく時があった、乳首から、白い半透明の液体が出るようになった、そして、うつ状態になりました。具体的には、満員電車に乗って人に囲まれると恐怖心で泣いてしまう、何事にも興味が持てなくなり、家族や友人などが心配してくれることさえもうっとうしくなった、ちょっとした事でもイライラして、動悸が激しくなる、この世から消えてしまいたいと思う、などです。
そしてある日、突然の下腹部痛に襲われ、産婦人科に行ったところ、卵巣が腫れて茎捻転を起こしたとのことでした。卵巣嚢腫が疑われましたが、そこまでひどい腫れではないので、生理をおこす注射をして、生理もきて、全体的に回復しました。その時、特に服用した薬はありません。
ですが、それをきっかけに、時々うつ状態になるようになったのですが、身体的症状で顕著なものはなく、乳首から出る液体(これは関係ないと思われますが)と、時々下腹部が痛むことと、前述したような精神的症状ばかりで、2週間くらい過ぎると元気になったり、不安定なので、病気ではないと思っています。ですが、本やインターネットの自己診断のようなものを試すと必ず「うつの可能性」といった結果がでます。月経前症候群も疑ったのですが、関係のないときにも症状は現れます。うつ病、月経前症候群、どちらにしても病院へ行くほどのものではないと思ってはいますし、普段の生活もがんばって過ごせています。ですが自分ではかなり辛く、周りの人も感情で振りまわしてしまうので、自分が存在することを申し訳なく思います。
気持ちをコントロールしようと思ってできるものではないので悩んでいます。どうしたらいいでしょうか。
林: 脳腫瘍が疑われます。なるべく早く脳のMRIまたはCT、それからホルモンの検査を受けてください。脳の下方、下垂体という部位の腫瘍(下垂体腫瘍)の可能性がもっとも高いです。下垂体腫瘍は大部分が良性ですので、診断さえつけば手術により完治させることができます。
下垂体腫瘍を疑う第一の理由は、「生理が止まり、乳首から半透明の液体が出てきた」という事実です。これは、プロラクチンprolactinというホルモンが過剰に分布された時に出る症状です。乳首からの液体は乳汁です。
さらに、ここにうつ状態が加わったということから、脳下垂体に、プロラクチンを分泌する腫瘍が発生したという可能性が最も強く考えられます。下垂体にプロラクチン分泌腫瘍ができると、うつ状態も前後して発症するのはとてもよくあることです。
その後、卵巣が腫れた、というのも、何かこの腫瘍に関係があるかもしれませんが、これについてはよくわかりません。産婦人科の専門医の意見を聞くべきところだと思います。
ところで、卵巣が腫れて受診した時に、「そこまでひどい腫れではないので、生理をおこす注射をして、生理もきて、全体的に回復しました。」とのことですが、この時に行ったホルモン検査の結果を知りたいところです。「生理を起こす注射」は、ホルモン剤だと思います。無月経に対してホルモン剤の注射をすれば、とりあえず生理は回復し、その他これに伴う症状も回復するのは自然ですが、根本的な原因が何かを本来は突き止める必要があります。あなたの場合、まず生理が止まり、次に乳汁分泌が起き、さらにうつ状態になった、とのことですので、下垂体腫瘍が最も疑われるということになります。
ですから、病気ではないと思う、というあなたの判断は誤りです。なるべく早く検査を受けてください。
なお、プロラクチンが高くなる原因としては、下垂体腫瘍の他に、甲状腺機能低下症や肝硬変などもあります。これらについても、検査を受ける必要があると思います。その他には、何か薬を飲んでいる場合にもこういう症状は出やすいのですが(たとえばドグマチール。副作用としてこのような症状が出た場合の多くは心配ありません。【0117】のケースがこれにあたります)、あなたは何の薬も飲んでおられないようですので、逆に大いに心配する必要があります。
それから、物の見え方には変化がないでしょうか。下垂体は、視神経に非常に接近した位置にありますので(視交叉という、左右の視神経が交叉する部位の近くです)、ここにある程度の大きさの腫瘍が出来ると、視野狭窄が起きます。具体的には、視野の外側が見えにくくなります。もしこの症状があれば、下垂体腫瘍の診断はほぼ確実です。(ただし、この症状が出るのは腫瘍がかなり大きくなってからですので、視野に問題がないからといって、下垂体腫瘍でないとは言えません)
繰り返します。脳腫瘍が強く疑われます。脳のMRIとホルモン系の精密検査を一日でも早く受けてください。