精神科Q&A
【0283】入院中に転倒して骨折した場合、病院に責任はないのでしょうか
Q: 60歳の母は躁うつの傾向があって病院に通いをしていまして、年に何度か入院又は、寝込むこの何年かです。今回チョット母の看病に限界を感じ、薬の副作用でフラツキが有り骨折や転倒で頭を打つなどの心配で、私も睡眠が取れず入院させてもらったのですが、病棟で転倒し一番恐れていた骨折をしてしまい本日病院に迎えに行き整形外科に連れて行きました。こうした場合、病院側には過失はまったくないのでしょうか? また、その際に発生した費用はこちらで負担するのが義務なのでしょうか。私の通う病院では、看護士の資格のない方が、点滴をしていたりかなり対応が曖昧すぎます。もし何か、病院側の過失が認められる場合、どのような手段で対応すれば良いのでしょうか?
林: 転倒を防止する目的で入院させたのに、結果として転倒して骨折までしてしまい、病院の責任を追及したくなるお気持ちはよくわかります。しかし「病院側に過失はまったくないのか」というのは、状況によって異なりますので、私がお答えするのは不可能な質問です。過失がある場合もあれば、ない場合もあるでしょう。一般論としてお答えすることはできません。
過失があれば、骨折の治療費は病院が負担すべきでしょう。しかしもしあなたが病院側にその質問をしたことを想定しますと、過失がない場合(または、過失がないと病院側が考えている場合)には言いがかりをつけられたと判断されますので、その後の関係は気まずくなるでしょう。過失があった場合にはどういう対応になるかは微妙です。治療費を病院が負担すれば、それは過失をはっきり認めたことになりますので、さらなる要求を避けるため、意地でも治療費の支払いは拒否されるかもしれません。もちろん支払うことで誠意を示されるかもしれません。いずれにせよ気まずさは残るでしょう。
人によっては訴訟を起こして白黒をつけるべきだとアドバイスされるかもしれません。それはこの一件だけを見れば正しい方法ということになるでしょう。それはあなたが判断して決めることです。無資格者が点滴をするというのは違法ですから、それだけを見てもこの病院には問題があると言わざるを得ません。
しかし、本当に白黒をつけるのがいいかどうかは、大局的に考えるべきです。あなたがどこにお住まいなのか不明ですが、医療者が非常に少ない地方では、四角四面に法律に従っていたら、事実上医療はできません。また、入院中の転倒を防止するためには、病院の職員を増やして歩行に付き添うというのがおそらく最善ですが、人的にこれが不可能で、しかももし転倒したら病院が責任を追及されるということになれば、本人が歩かないように拘束するか、家族の費用負担で付き添いをつけるか、または転倒する可能性のある患者ははじめから入院を拒否されるという事態が当然予想されます。法的にはそれでおさまってしまうと思いますが、これは医療が改善されたと言えないでしょう。
やや話はそれますが、ほぼ何年かに一度、「悪徳」あるいは「ずさんな医療」の精神病院が糾弾されています。そういう病院を擁護するつもりはありませんが、そういう病院では他の病院では入院を拒否された難しい患者さんを受入れていることも非常に多いものです。本に書いてある医療や、きれい事で固めた医療を求めれば求めるほど、扱いの難しい患者さんを受入れる病院は少なくなり、吹き溜まり的な状況が出現するものです。完全に納得のいくものだけを求めていった先には、最も苦しみの大きい人が救われないという逆説が生まれています。