精神科Q&A
【0236】金縛りについて
Q: 友人が金縛りによく合い、得体の知れないその道の専門家に聞くとその土地には因縁とかがあり、すぐには良くならないといわれ、供養したり、拝んだりしているようです。この頃考えすぎているようで少し様子が変です。その専門家にはかなりのお金を払ってたびたび拝んでもらっているようですが、気分の落ち込みが激しいようで心配です。私は、精神科に行った方が良いと思うのですが。
林: 金縛りは、大部分の場合、何の治療も必要ありません。自然によくなります。
金縛りは、医学的には睡眠麻痺と呼ばれる症状を指します。寝入りばなに全身の脱力が起こり、この状態を自覚的には金縛りにあったような感じとか、体が注に浮くような感じと体験されるものです。当然ながら不安を伴います。それから幻覚(入眠時幻覚といいます)が体験されることもあります。この幻覚は、誰かが横に立っているとか、自分におおいかぶさってくるというようなものが多いので、霊など超自然的な力が原因と考えてしまう人がいるのもうなづけます。しかしこれは睡眠の一種のリズムの異常(正確にはレム睡眠の異常)であることがわかっています。多くは自然によくなりますが、繰り返す人も確かに多いので、「得体のしれない専門家が、すぐには良くならないと言って、供養をすすめ、金を取る」ことが多いというのもよくわかります。そうしているうちに治ってしまうので、供養の効果だと言われればそうかなと思って、感謝してしまったりするのでしょう。実際には供養もまじないも医学的治療も不要です。
ただ例外として、ナルコレプシーという病気の症状として、この睡眠麻痺が現われることがあります。ナルコレプシーの症状は、睡眠麻痺の他に、日中の強い眠気や、突然の脱力(情動脱力発作といいます)があります。もしこうした症状もあるようでしたら、精神科か神経内科を受診すべきでしょう。睡眠麻痺だけでしたら、様子を見るだけでいいと思います。
なお、ご質問の友人の方は落ち込みが激しいということですが、これ普通は金縛りとは関係ありません。(金縛りについて、根拠のない恐ろしい話を聞かされたために落ち込んでいるのなら別ですが)
落ち込みの具体的な内容が不明ですが、あまりひどければこれについては精神科に行くべきでしょう。
【参考】
● Sleep paralysis (by Dahlitz M and Parkes JD)
Lancet 341: 406-407, 1993
睡眠麻痺はナルコレプシーとは別に起こり得ることが明言されています。
また、睡眠麻痺は症状の性質上、超自然的な原因だと信じられていることが多く、いろいろな国でどういった名前で呼ばれているかの一覧もあります。JapanではKanashibariと呼ばれているということも記されています。
● High prevalence of isolated sleep paralysis: Kanashibari phenomenon in Japan
(by Fukuda K, Miyasita A, Inugami M, Ishihara K)
Sleep 10: 279-286, 1987.
日本での睡眠麻痺の頻度についての論文です。635人の大学生のうち、40%が睡眠麻痺の経験があることとか、その中で、男の46%、女の70%が超自然的な原因によると信じているという興味深いデータも出ています。