精神科Q&A

【0181】 夫が脳手術後、記憶障害を訴えています


Q: 34歳の主人は、3ヶ月前に、脳内出血で、開頭手術を受けました。退院後、自分は、癌ではないかと悩み自殺を考えるまでどん底に落ちたのですが、2ヵ月後ぐらいには、そのような心配もしなくなり少し元気を取り戻してきました。今は運転免許を取りに行っています。手術の時には、「記憶障害が少し残るかもしれない」と言われてしました。その後、普段の生活では、気にもならなかったのですが、講習中、教官の言っていることを後からメモしようとしても、もう思い出せないというのです。また、簡単なことだと解っていても出来なかったり、集中が出来ないというのです。これも、やはり手術の影響なのでしょうか?
 主人は、元気だった頃は、人よりも飲み込みが早い方でしたので、講習中、他の人が簡単にこなしているのに自分は何度やっても出来ないということで落ち込み、前の様に鬱状態になるのではないかと心配です。気持ちが落ち込んでいるところにこんな事に直面をして、主人は、カウセリングを受けた方がいいんでしょうか?また、脳を活発化させるトレーニング法とかありましたら、教えてください。
 自分に全く自信を無くしてしまっている主人を見るのはとても辛いです。なにか、私にも出来る事があれば教えてください。

: 脳出血の手術後の記憶障害の原因としては、大きく分けて三種類考えられます。
(1) 脳に何らかのダメージを受けた後には、一時的にうつ状態になることがあります。そして、うつ状態になると、集中力が低下して、一見記憶にも障害があるように見えるようになることがあります。
 この場合は、本当の意味では記憶障害はありませんので、うつ状態が改善すれば、すべて改善します。うつ状態の改善のためには、抗うつ薬を使うことも考慮していいでしょう。うつ病とは違いますので、抗うつ薬が鮮やかに効くとは限りませんが、ある程度の効果は十分期待できます。また、ご本人は自分に起きていることの正体がわからないために余計に落ち込んでいるということもよくありますので、「脳に何らかのダメージを受けた後には、一時的にうつ状態になることがある」ということを伝えることだけでもある程度改善することもあり得ます。

(2) 脳に何らかのダメージを受けた後に起こることとしては、うつ状態の他に、全体的に脳機能が低下することがあります。
 この場合、集中困難、記憶障害などは、全体的な脳機能低下の症状と考えられます。手術後3ヶ月ということですので、こうした脳機能低下はまだまだ自然回復の可能性が十分あります。希望を持って(これは気休めで言っているのではありません)、日常生活を前向きに送ることが回復の助けになるでしょう。
 なお、脳機能を賦活する薬もあることはありますが、それほど目に見える効果があるとまでは言えないのが現状です。

(3) 脳出血の部位によっては、記憶に持続的な障害をきたすことがあります。
 メールには部位の記載がありませんので何とも言えませんが、記憶障害をきたしやすい部位がありますので、その場合には特殊なリハビリが必要になります。

以上のような可能性が考えられます。(3)は特殊な場合ですが、多くは(1)か(2)で、実際には(1)と(2)がからみあっていることが多いと思います。少なくとも現時点(手術後3ヶ月)では、自然回復がまだまだ期待できる時期です。また、今を逃すと出来ない治療というのはないと考えられますので、あせって結果を急がないことも大切でしょう。


精神科Q&Aに戻る

ホームページに戻る