精神科Q&A

【0022】こころの病は遺伝しますか


・・・もう少し解説します

 「遺伝するか・しないか」という質問を受けることはよくあるのですが、実はこれは質問自体に間違いがあります。

質問自体に間違いがある、というのは、変な言い方ですが、そう言わざるを得ないのです。病気の遺伝というものは、どんな病気でも、「する」「しない」のどちらかに分けられるものではないからです。

たとえば高血圧を考えてみましょう。親が高血圧の場合、子どもが将来高血圧になる可能性は確かに高いです。けれども、食事などの習慣に気をつけることによって、高血圧になることを防ぐことができます。この場合、高血圧は遺伝すると言うべきでしょうか。遺伝しないと言うべきでしょうか。

どちらの言い方もできるでしょう。この子どもが高血圧にならなかったのは、食事に気をつけたため結果的にならなかったにすぎず、実際には高血圧の遺伝子は親から受け継いでいたのだ、というのが「高血圧は遺伝する」という考え方です。

一方、遺伝性の病気というものは、必ず発病するもののことだから、食事に気をつけたくらいで防げるということは、「高血圧は遺伝しない」ということだ、という考える人もいるでしょう。

どちらも半分は正しく、半分は間違っています。

この子どもが、高血圧になりやすい遺伝子を受け継いでいた、というのは正しいかもしれません。しかし事実発病しなかったのですから、ふつうの意味では、高血圧は遺伝しなかった、と言うべきでしょう。結局、高血圧になるまでのプロセスとしては、

第1段階として、高血圧になりやすい遺伝子を受け継いでいる、という先天的な要素があり、

第2段階として、高血圧になりやすい生活を送る、という後天的な要素があります。

この両方の段階があって、はじめて高血圧という病気になるわけです。重要な点は、どちらが欠けても、病気は発症しないということです。ただし、どちらかがとても強い場合は話が違ってきます。あまり極端な食習慣を続けた場合は、遺伝子に関係なく高血圧になるでしょう。また、いわばとても強い高血圧の遺伝子を受け継ぐと、それだけで高血圧になることもあります。ただしこれはとても珍しいことです。

高血圧以外の病気も、これと同じことです。先天的な要素と後天的な要素の両方があって、はじめて病気というものは発症します。ここでいう病気というのは、すべての病気という意味です。ウイルスや細菌の感染は別と思われるかもしれませんが、そういう病気も、感染しやすい体質・しにくい体質というものがあり、この体質にはやはり遺伝が関係しますので、感染症も100%後天的なものとは言えないのです。

結局、文字通りどんな病気でも、遺伝が関係しないということはありません。ただ、遺伝の色合いの強さは病気によって様々です。

ですから、あるひとつの病気について、遺伝するか・しないか、という質問は、間違っていると言わざるを得ないのです。

 

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