#6 軽症うつ病 笠原嘉 著  講談社現代新書 1996年

タイトルこそ「軽症うつ病」ですが、内容は「うつ」全体についてのわかりやすい入門・解説書になっています。うつ病は実直な人がかかりやすい病気で、適切に治療すれば大部分が治ります。この本の前書きには、「実直な人が不幸になるのを座視したくない。それが本書を私に書かせる第一の動機です。」と述べられています。これがこの本全体を流れるポリシーになっています。薬をのんだ方がいい場合、のまなくてもいい場合の判断や、うつが少し長引いた場合はどうするかなど、実際に役立つことがやさしい言葉で説明されています。「軽症うつ病」というタイトルにとらわれず、うつについて知りたい人、うつでお悩みの人すべてにお薦めできる本です。

 また、著者の精神医療に対する深い洞察が随所に何気なく書かれていることもこの本の魅力のひとつです。たとえば、「心の深層に首を突っ込むのは、どうしても必要な場合だけでよい。心の治療家はそういう自戒をもたないと、街の催眠術師と変わらなくなります(p.151)」「(カウンセラーの国家資格がなかなかできない理由は)一つは、カウンセラーやケースワーカーのなかに医療の世界に参入し高慢な医師の監督下に入ることに抵抗感のある方がいらっしゃること、二つは、看護婦さんサイドに本来は自分たちのする仕事であって、医療を知らない人の参入を歓迎しないという雰囲気があることです(p.240)」などは、背景の深い複雑な事情を反映しています。
1996年に書かれた本で、うつ病の本が大量に出版されている現代においては、うつ病本の古典ともいえますが、時代を超えた名著です。たとえば治療について、現代の精神科医の間でも、本書に紹介されている「小精神療法」(181ページ)は広く支持されています。
 以下に章立てを示します。
第1章 現代の「うつ病」
第2章 三種類の「ゆううつ」
第3章 身体と心の「一定の症状」
第4章 どういう人におこりやすいか
第5章 急性期治療の七原則
第6章 うつ病が少し長引くとき
第7章 職場のメンタルヘルスのために


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