対人恐怖症

 

対人恐怖症に似て非なるケース


 

   

田中さん(仮名、20歳女性)は、人の視線が怖い。人がいつも自分を見ているような気がして怖いのだ。見ているだけでなく、自分のことを皆がひそひそ噂しているように思う。なぜ皆が自分のことを知っているのか、はじめは不思議に思っていたが、どうも家に盗聴器が仕掛けられているらしいとわかってきた。盗聴した内容を皆が噂している。人の目つきでそれらしいとわかる。言葉の端々にもそれを感じる。自分のことがインターネットで流されているに違いないと思うこともある。時には自分に対する悪口がはっきり聞こえる。友だちにこのことを話すと、気にしすぎだ、と言われるが、自分としては誰が何と言おうと間違いないと思う。

そういうわけで、人がみんな信用できないし、怖い。外に出るのが苦痛。特に人ごみの中はとても苦痛になってしまった。

 

 

 

解説

田中さんの場合、視線が怖いということの背景として、皆が自分のことを知っていて噂しているらしいという意識があります。しかも、盗聴器が仕掛けられているとか、それがインターネットで流されているとか、普通はありえないことを思い込んでいます。しかも誰が何と言ってもそう信じきっている。こういう確信を妄想といいます。田中さんの場合、かなりはっきりした妄想があります。「自分に対する悪口がはっきり聞こえる」という形の幻聴もあるようです。

田中さん自身は、確かに「人の視線が怖い」ということを中心に訴えていますが、実際にはその背景に妄想や幻聴があるというのがポイントです。これは一見視線恐怖に似ていますが、似て非なるものです。一番考えられるのは精神分裂病です。そうだとすれば、なるべく早く薬物治療を始めることが必要です。田中さんと、実際の症例の鈴木さんを比べれば、違いは明らかだと思います。ただ現実には区別がつきにくいことも多いものです。

実際の症例のところでは、開き直ることで自然に治ることが多いと説明しました。それは本当ではありますが、問題は対人恐怖はほかの病気の症状と区別がつくにくいことがあるという点です。ですから、精神科を一度は受診することが必要と言えます。

 

戻る

対人恐怖症のトップページに戻る

ホームページに戻る