精神科Q&A

【2319】15年前から不調が続いている母は統合失調症でしょうか 


Q: いつもサイトを拝見しております。20代男性です。60歳になる私の母についてです。私の母はおよそ15年ほど前から内科に通院しており「自律神経失調症」との診断をうけ、現在治療を続けております。しかし、先生のサイトを拝見し、母は統合失調症の疑いがあるのではないかと考え、今回質問するにいたりました。非常に恐ろしく、また、情けない限りですが、母はこの病をおよそ15年前から患っていた可能性があります。その根拠を過去から最近までの経過を辿りながら、なるべく客観的に述べていきますので、どうかご判断お願いします。また、母の置かれた立場や背景を少しでもご理解いただけるよう、少々個人的なお話をさせていただくこと、今回の質問の主旨から逸れてしまうことをお許しください。 

私は東京在住現在24歳の大学院生です。私には昔、9つ歳の離れた姉がおりました。姉は耳が先天的に耳が聴こえず、また、当時の医学では治すことのできない病であったらしく、私が3歳のときに12歳という若さでこの世を去りました。姉は私の両親にとって第一子であり、また、障害児であったことからその育児に非常に苦労したと聞いています。姉の病名は最終的に、現代医学ではまだ治療法がないある難病と診断されたのですが、亡くなるまで具体的な病名がはっきりせず、入退院を繰り返す、夜中に救急車で運ばれる程の発作を起こす、病院をたらいまわしにされる(不適切な表現であるかもしれませんが、市民病院から大学付属病院までまわったそうです。大きな病院を紹介された可能性もあります。不合理ではありますが、この経験から大きな病院、特に大学病院に不信感があるようです。)といったことがあり、闘病の末、両親の努力むなしく先述の通り他界しました。病名、病気の原因が不明であったことから、母は、姉の行動、または両親が姉にした行為について後悔していることがあり(両親が目を離した隙に頭をぶつけたこと、予防接種を1ヶ月以内にいくつもうけたこと等、医学的な根拠はなく、神経質になっていた可能性が高いです。)私は非常に大事に育てられました。母は、努力の甲斐なくひとり娘を亡くしてしまったという、”非常に理不尽な出来事”に対して、何かしらその理由を探している様子でした。(または何か結論づけていたのかもしれません。)母は40歳で娘を亡くし、45歳頃から体調を崩すことが多くなり、私の住む町の小さな内科医院に通院を始めました。病名は自律神経失調症と診断されていました。当時の母は、食後に体調を崩すことがあり(または本人がそう感じている)食べ物の中に何か入っているのではと疑問を持ったり、ある場所、物について「刺激臭がする」といって避けたり(私には感じられないことの方が多かったように思います)、そのせいで血圧が上がる(感じがする)と主張していました。また、私に対して「今日は○色の服は着ていくべきではない」と言うこともしばしばありました。(理由を尋ねてもあやふやな回答しか得られず、本人がそう感じているといった様子)また、55歳頃になると、電話中に入るノイズに対し、「盗聴されているのではないか」と指摘したり、家の中のものが無くなると、「誰かが盗っていったのでは」と言うことが多くなりました。この頃、動悸がするなどの症状を訴えており、医者に「狭心症の疑いがある」と診断されています。そして、ここ数年、私が上京してしまってからは家に鍵をかけて一日閉じこもるようになり(私の家は1つの土地に祖父祖母の家と父母の家の2つがあり、祖父祖母が他界してからは父と母で別れて生活しています。)、猫を何匹も飼っては世話をしている様子です。2年ほど前、半年程で母の体重が激減し(63kgから-14kg。現在は60手前まで戻る。)身を案じて、実家に戻った折、「体に知らないうちにあざができる」、「身体に神経痛のような痛みが走る、針で誰かに刺される、針がどこからか飛んでくる」といった主張をし、厚い本を身体と衣服の間に挟んで生活している様子をみて、これはおかしいと感じたのがきっかけで、母は何か別の病なのではないかと思うようになりました。父が主治医の先生に尋ねたところ、「精神疾患の可能性がある」との指摘をうけたそうです。 林先生がおっしゃるように、インターネットから得られた偏った情報を、主治医の先生の診断・処方よりも優先するのは大きな間違いであり、非常に危険な行為であると認識しています。しかし、これまでの経過をみるに、母の病状はあまり改善されているとはいえず、むしろ一部悪化しているとさえ感じます。そこで、林先生にお尋ねしたいのですが、母は統合失調症なのでしょうか?私を含めた家族は、母が過去に娘をなくしているという理由で、「(母にとって)理不尽な事象」について何かしら理由をつけたがる「性格」なのだと勘違いしていたと感じています。というのも、上に挙げた言動を除けば、いたって普通の(様にみえる)生活を送っていたのです。 母は、総合病院での検査を望んでいませんが、やはり無理やりにでも連れて行くべきでしょうか? 統合失調症という病名、症状を告げて説得すべきか悩んでおります。また、仮に統合失調症であった場合に家族の立場でサポートできることはなんでしょうか。 


林: お母様は統合失調症だと思います。
娘さんを難病でなくされたことは、お母様にとってとても耐え難い悲しい出来事であったのは誰が見ても確実ですが、そのことと、このような症状が出てくるということは、因果関係でつなぐことはできません。娘さんのことは、現在のお母様の症状、すなわち幻覚や妄想の、きっかけであったかもしれませんが、原因とは言えません。現在のお母様は、統合失調症です。精神科での治療が必要です。けれども、

統合失調症という病名、症状を告げて説得すべきか悩んでおります。

その方法はまずうまくいかないでしょう。そこには統合失調症という病気に独特の事情があります。【1822】統合失調症の兄に病識を持ってもらいたい などをご参照ください。

仮に統合失調症であった場合に家族の立場でサポートできることはなんでしょうか。

精神科で治療を受けさせてあげることです。すべてはそこが出発点です。そしてその出発点に連れていくことは、ご家族以外にはできません。


(2012.11.5.)


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