精神科Q&A

【2299】精神科受診の一週間後に自殺した義母


Q: 私は30歳代の主婦です。主人の母(義母)が3ヶ月前に自殺しました。 亡くなった義母には2人の息子がいます。主人は下の息子で義兄は結婚しています。 実は私が結婚する前になるのですが義母は7〜8年ぐらい前に自殺未遂をしています。理由はマルチ商法に引っかかってしまいそれを家族中から責められたことを苦にして畑で灯油をかぶり自らに火を放ちました。本気で死ぬ気だったのだと思います。 死んでもおかしくないぐらいの重度のやけどだったのですが、医師の懸命な処置のおかげで命を永らえました。この時の検査でガンが発見されその手術も受けています。(自殺の後遺症により身体障害者の1級を認定されています。) そして退院後1年ほどは施設で暮らしていたのですが、自らの希望で退所。家族(義父・義兄夫婦)は体が不自由になった義母の面倒はとても見切れないので施設へ留まることを説得しましたが、頑なに受け入れず退所してしまいました。 そういった経緯もあり義母の実家へ身を寄せることになったそうです。そしてまもなく義父と義母は離婚したそうです。離婚せず別居でよいのではないかと義兄や主人が止めたのですが、一切聞き入れなかったそうです。
その後私は主人と結婚。自殺の経緯は知っていたものの最初は普通に義母と付き合っていたのですがだんだん今まで見えなかった義母の一面が見え始めました。 まず、こちらの都合もお構い無しにいつでも電話してくるのです。そして自分の事ばかり延々にしゃべってくるのです。愚痴なども多かったのですが解決策を提示しても聞き入れません。とにかく一方的で こちらが何を言っても否定します。 かと思えば次の日には、私は死んだほうがいい生きている意味が無いと言い出します。 義母の姉が重度のうつ病でずっと入院しています。もしかしたら遺伝?のうつ病みたいなものかと思い総合病院の精神科を受診してもらったのですが(ガンとやけどがあるので定期的に総合病院へ通っていたのです)医師の前では義母は普通にしゃべっていたので『症状が出ている時に来て下さい。今は判断できません。』と言われてしまいました。特に薬の処方などはありませんでした。 この後も義母はこういった感じが続き相手にしている主人も私も精神的に疲れてしまいました。私も主人も義母に耐えられなくなり義母に対して病院で見てもらうよう主人が何度か伝えてみたのですがうんと言ってくれない状態がずっと続きました。 私は義母を避けるようになり主人は義母の電話にイライラして怒鳴り散らすようになりました。主人は、そんなに死にたいなら死ねといった酷い言葉も浴びせました。今考えると非常に心が痛いです。どうして優しく出来なかったのか悔やむばかりです。 そして今から3ヶ月前になりますが、義母はやっと病院へ行く気になってくれました。病院は総合病院ではなく個人のクリニックを予約しました。私と主人と義母の3人で受診し、カウンセリングを受けました。義母は医師の前ではすごくテンションが上がって聞かれてもいないことまでどんどんしゃべっていました。しかし死にたいといった言葉は全く出ませんでした。 過去に自殺未遂をした旨(詳細も含め)も医師に伝えたのですが医師からは様子を見ましょう。ただちに入院が必要ではない状態だと思いますが様子を見て入院も考えましょう。はじめは軽い薬からはじめて見ましょう。次は二週間後にいらしてくださいと言う事で終りました。 そしてその1週間後に義母は自ら命を絶ってしまいました。医師の言葉に安心していたのに一番あってはならない結果となってしまいました。 病院にさえ連れて行かなければ自殺しなかったのではと悔やんでしまいます。 義母の自殺を防ぐためには どうしたらよかったのでしょうか?


林: お義母様は、おそらく気分障害の一型であったのだと思います。診断について言えるのはそこまでで、それ以上はわかりません。

義母の自殺を防ぐためには どうしたらよかったのでしょうか?

これが最大のポイントですが、これだけ長い経過で、過去においては、外見上は最近よりもむしろかなり悪い時期があったと思われる中、

今から3ヶ月前になりますが、義母はやっと病院へ行く気になってくれました。

とのこと、どういう経緯で今回受診することになったがひとつの大きなポイントですが、ご本人の中では、これまでとは違う何らかの重症感があり、救いを求める気持ちが特別に強い状態であったという解釈も可能です。

義母は医師の前ではすごくテンションが上がって聞かれてもいないことまでどんどんしゃべっていました。

気分障害(今回はあえて「躁うつ病」という言葉を避けていますが、躁うつ病の傾向があることを含んだ意味でこの言葉を使っています)では、このように急にテンションが高くなった場合(しかし、躁状態とも言い難い場合)、自殺のサインであることがあるものです。(一種の躁うつ混合状態と考えてもいいかもしれません)

しかし上記の解釈は、自殺という結果を見たから言えることであって、この初診の段階では、仮にそのような可能性が考慮されたとしても、

ただちに入院が必要ではない状態だと思いますが様子を見て入院も考えましょう。

という対応になるのはやむを得なかったと思います。

病院にさえ連れて行かなければ自殺しなかったのではと悔やんでしまいます。

とのことですが、「病院に連れて行ったことが自殺につながった」という解釈はおそらく誤りで、「本人が今回に限って病院に行くことに同意したのは、自殺のサインだった」とみるべきでしょう。また、この考え方をさらに発展させれば、激しい自殺企図を含むこれまでの経過、意外なタイミングでの受診への同意、診察時の所見などを総合的にみて、もし抗うつ薬が処方されていたとしたら(「軽い薬」としか記載されていませんので、そもそも抗うつ薬が処方されたかどうかが不明ですが)、それは適切であっかか否かという問題も発生するところかもしれません。抗うつ薬は、稀に自殺を誘発することがあり得るからです。
けれども、繰り返しますが、それもこれも結果論と言わざるを得ません。お義母様のご冥福をお祈り申し上げます。

(2012.9.5.)


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