精神科Q&A

【2229】自殺した姉は覚醒剤精神病だったのか、統合失調症だったのか‏


Q: こちらの質疑応答を読み進めていくうちに、統合失調症という病気の詳細が理解できるようになりました。そうしていくうちに、「あの中学時代の友人や高校時代の友人、幼稚園のママ友も統合失調症だったのに違いない」と、当時は不思議に感じていたことが氷解しました。そして一番私の身近にいた人物の奇行と精神的症状も、そうだったのではないかと思い至りました。その人物とは2年前に自殺した、私の一卵性双生児の姉です。 先生にお尋ねしたいのは、姉の精神症状が覚醒剤の後遺症なのか、元々統合失調症を発症していたのか、どちらなのか知りたいということです。私が判断に苦慮しているのは、姉が10代の終わりから10数年間に渡って、覚醒剤を乱用していたことがこのことを判りづらくしている事です。姉の元々の性格は、双子なので似ているところもありますが、私とは違っていました。アルバムを開いて子供の頃の写真を見てまず思う事は、私は大抵ニコニコと笑っているのに対して、横に写っている姉は気難しい顔をして一切笑顔の写真がないことです。(思春期になると笑った写真が出始めます)そして、私は7歳の頃2階から転落して重傷を負うのですが、その時私の真横にいたのがこの姉ひとりだけでした。私の長年の疑問は姉がふざけていて私が転落したのか、姉がわざと私を押したかしたのではないかと思っている事です。何故そう思うのかというのは、私は転落事故の少し前に交通事故で姉の目の前で、軽トラに撥ねられた事があるのですが、後年姉はこの交通事故の話はよくするのですが、それよりも重傷だった、同じくこの姉の目の前で起こった転落事故に関しては一切話題にしないばかりか、私がこの話題をすると黙り込んでいました。それから数年後、高い鉄棒に足をかけてぶら下がっていた私に近寄ってきた姉が、私の脇の下をくすぐったので私が転落してしまい、このときも顔に怪我を負いました。 私は姉のことが大好きだったのですが、姉はそうではなかったのではないかと考えることがあります。10代後半の姉の気になる発言があるのですが、それは「誰も私のことをわかってくれない」「私は家族のなかで自分だけ違うと思う」ということを聞かされて、ビックリしたことがあります。姉は当時はそれ以上のおかしなところはなく、友人も多く楽しんで生活をしていました。(どちらかというと私のほうがおとなしかった位です)ただ私たちの家庭は複雑で父と母の夫婦仲が悪く、父の家族への暴力がありました。そのことが原因でふたりで何度か家出を繰り返しました。それから私は中学時代から趣味を持って生活していましたが、姉は早熟というか髪を染めたり、タバコを吸ったり、男の子と付き合ったりと派手になっていきました。そして暴走族や暴力団などの男と付き合いだし、シンナー、覚醒剤やアルコールに依存していきました。不思議なのはそのような行為には積極的なのですが、女の子らしい趣味やアルバイトや仕事には意欲が全くないのです。学生の頃は、私がバイト先を見つけてきて一緒にやるというパターンでした。私もそういう身近な姉に影響を受けて、姉と同様な事(シンナー、覚醒剤)をしましたが、私は数回で依存することなくきっぱりと止め、現在は妊娠をきっかけにタバコも止め、若い頃からアルコールは苦手で飲みません。(覚醒剤による幻覚、幻聴は経験しています)双子ですがこれだけ違いがあります。 姉は覚醒剤の影響で20代前半に何度か幻聴、幻覚を起こしており、包丁を持って庭で暴れたこともあります。その後執行猶予判決を受け、新たな生活を家族で支えて自営業でスナック喫茶を始めたことが裏目にでて、姉は再度覚醒剤に手を出していたのですが、私たち家族は気付きませんでした。それから時々精神症状に悩まされますが、父の死(癌)の後しばらくして、父の幽霊を見たと言ってから、薬を断ってくれました。 その後30歳で好きでもない人(昔の知り合い)と、現実から逃げるように結婚し子供をふたり出産しましたが、産後2度とも精神不安定(合法ドラッグを夫から飲まされたからお乳を子供に飲ませられない、夫が私と子供を殺そうとして車に細工をしたから前部から煙が出たけど必死に運転してきた、盗聴器を仕掛けられている、ヤクザが来る、夫には若い女がいて浮気をしている、誰も信用出来ない、喋ると聞かれるので筆談、寝るとき包丁を隠し持っている)になり、私が飛行機に乗せ実家の母のもとに避難させました。悪いことに当時私は愛する姉の言葉をおかしいなと思いながらも信じていました。なので姉に同情的になり、姉の夫(私には義兄)に激しい不信感を持ってしまっていましたが、今考えると統合失調症の妄想だったのではないかと気付きました。義兄には悪かったと思っていますが、この人にも癖があるので私もつい判断を間違えてしまったのと、やはり姉の言葉(義兄を信用してなく、悪口ばかり聞かされていたこともあり)を信じて助けてあげたかったのです。 姉は一度父に「精神病院に入りたい」と話したのですが、父は考えるような顔をしただけで、姉を精神病院には入院させませんでした。父の弟が精神病院の閉鎖病棟に入院していたこともあるのでしょう。(ヒロポン中毒?アルコール中毒?精神病?原因はっきりせず、、、)また姉が執行猶予中の再度の覚醒剤だったので、警察に捕まることを懸念して家族で解決しようとしてしまいました。この判断も悪かったと今では反省しています。 そして最終的に姉と遠方に離れてしまい、傍で姉を支えることが出来なくなり、突如4年前の春に精神錯乱状態になり普通でないと連絡を義兄から受け、上京し弟と相談した結果、K大学病院の精神科に入院させました。そのときは姉の仕事が多忙でストレスがあり、家庭的にも悩みがあり(夫に多額の借金があり離婚したがっていた)アルコールを良く飲んでいたそうです。その後色々あり、姉は2年前の春自殺してしまいました。(主治医が代わったばかりでした)

最近ようやく悲しみから開放されてきましたが、結局私は、精神が錯乱しても私だけを信頼してなんでも話してくれた姉の力にはなれませんでした。無力感を感じています。先生、姉は昔から精神を病んでいたのでしょうか?それともやはり覚醒剤の影響でしょうか? 私自身子供を妊娠中と出産後しばらくしてから(育児疲れから?)、神経が過敏になり、買い物中レジで店員に緊張したり、人の視線が気になり帽子で顔を隠したり、対人恐怖症とプリックのような症状が出ました。(現在は特に人間嫌いなだけで、症状はありません)自分でどうする事も出来ず苦痛で仕方ありませんでしたが、これも多少なりとも使用したことのある覚醒剤の影響でしょうか?それとも病気が隠れていて、私も姉のようになるのでしょうか?今娘が姉のような症状で引き篭もっており、精神科受診待ちです。今度はしっかりと私自身勉強して、姉の二の舞だけは絶対に避けたいと思っています。しかしこれも遺伝なのでしょうか?(主人のほうは、主人以外の兄弟は結婚しておらず、会わせてもくれません。主人の方は、実家が掃除を全くしていない状態からADHDではないかと考えています。娘は凄い不器用です)姉に続き娘までもがと考えると辛いのですが、私は娘のためにも健康で、長生きしなければと心に強く思いました。昔から心理学や虐待から発症する多重人格障害などに興味があり、本を読んできましたが、統合失調症のことは身近に存在していたにも関わらず全然知らずにいました。先生まともな人間はこの世にどれだけいるのでしょうか?まともとはどういうことを指すのでしょうか?私には基準がわかりません。私も実際、通常の生活は出来ているけれど、自分自身はまともではないのかもしれないと思っています。長文になってしまいました、ごめんなさい。最後まで、読んで頂いてありがとうございます。先生のわかる範囲で事実を教えて頂きたいと願っております。どうぞよろしくお願いします。


林: 統合失調症と思われる症状が出た人が、過去に覚醒剤の使用歴がある場合、その症状を覚醒剤の後遺症とみるか、それとも覚醒剤とは全く別に統合失調症が発症したとみるかは、とても難しい問題です。国際的な考え方では、覚醒剤使用後、一定の年月がたてば、覚醒剤の影響は消滅し、したがってその後に出てきた症状は統合失調症の発症とするのが優勢です。しかし日本では、覚醒剤の後遺症としての精神病症状は、覚醒剤をやめてから何年も過ぎてからでも現れるとする考え方のほうが優勢です。
 この問題には正解はあり得ません。論理的にはどうやっても区別は不可能だからです。医学において、この二つの疾患の区別は、たとえば「胃癌と胃炎の区別」や「結核と風邪の区別」とは根本的に異なっています。
すなわち、胃癌の診断であれば
胃の症状 → 検査の結果、癌細胞あり → 胃癌と確定診断
という手順であり、結核であれば、
呼吸器の症状 → 検査の結果、結核菌あり → 結核と確定診断
という手順になります。両者に共通するのは、症状とは別に客観的な診断根拠が存するという点です。
けれども統合失調症の診断手順は、
精神症状 → 統合失調症と確定診断
であり、そこには客観的な診断根拠がありません。症状が唯一の診断根拠になっています。
 すると、ある精神状態を統合失調症と呼ぶか呼ばないかは、極論すれば慣習ないし約束事にすぎないとも言えます。診断する医師がいかに経験豊富であっても、これは決して変わることはありません。
 胃癌や結核であれば事情は異なります。経験豊富な医師であれば、検査所見を待たずとも、症状の特徴だけから、胃癌や結核の確定診断ができることもあり得ます。それは、これらの疾患においては、「豊富な経験」とは、「症状に基づく自分の診断の正否を、検査所見という客観所見と照合するということを繰り返したことにより獲得した診断技術」だからです。
 これに対し統合失調症の診断においては、いかにその医師の経験が豊富であっても、「客観所見と照合する」ことが本来不可能な診断ですから、これもまた極論になりますが、いくら経験を積んでも、真の意味で診断技術が向上することはあり得ません。
 つまり、経験豊富な医師が、「この患者は統合失調症である」と自信を持って述べるとき、それは、「この患者の症状は、これまで自分が統合失調症と呼んできた患者の症状に一致する」ということ以上を意味しないということになります。

したがって、覚せい剤精神病と統合失調症は、本来、いかなる医師にも区別することはできません。
ある人物に覚せい剤使用の既往があるとします。その人物が、後年になって幻覚妄想を呈したとします。このとき、それを覚せい剤の後遺症とみるか、覚せい剤とは無関係に統合失調症が発症したとみるかは、専ら慣習上のことにすぎません。

それでも、精神科医によっては、統合失調症と覚醒剤精神病(後遺症を含みます)は、症状を精密にみれば区別できるという考えの人もいます。その区別方法は単純にはいえないのですが、そこをあえて単純化すれば、「統合失調症の症状は全人格を侵すが、覚醒剤精神病の症状はそこまでは至らない」というものです。
 私はこの考えには賛同できません。そもそも、上に説明したように、理論的には統合失調症と覚醒剤精神病は絶対に区別できない以上、どの症状が統合失調症の特徴だと主張しても、それには科学的根拠はなく、いわば「私はこう信ずる」という信仰告白に近いものであるといえるからです。
ある医師が、「そうはいってもこの患者のこの症状は、覚せい剤精神病としてはあり得ないので、統合失調症であると診断できる」と述べたとしても、その「統合失調症」とは、「その医師がそれまで統合失調症と呼んできた患者」であるにすぎないのです。

一般論が長くなってしまいました。この【2229】に戻ります。
ご質問の、

姉は覚醒剤精神病だったのか、統合失調症だったのか

に対しては、上の説明の通り、一般論的には回答不能です。
けれどもこの【2229】に関していえば、家系内に統合失調症と思われる方が複数いらっしゃることから(その方々の中にも、統合失調症か薬物による精神病か不詳のケースがありますが、少なくとも質問者の娘さんに関しては、「統合失調症、またはその前駆期の疑い」ということができるでしょう。それもまた、家系内の状況が判断根拠の一つになっていますが)、統合失調症の遺伝歴が一定以上にある家系であると考えるべきでしょう。であれば、お姉さまの診断名も、覚醒剤精神病よりは統合失調症に傾くということになります。しかしこれも「傾く」というレベルの判断を出ることはできません。

(2012.4.5.)


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