精神科Q&A

【2228】統合失調症の友人からカウンセリングを求められている


Q: 私はカウンセラーを目指して勉強している大学生です。今現在、統合失調症と思われる友人(20歳男性)への対応に悩んでいます。 友人はひと月ほど前から、「家族に盗聴されている」「眠ろうとすると家族が騒音を起こして妨害する」「出かけると家族が尾行してくる」と連続して訴えるようになりました。私は素人考えですが、友人は統合失調症を発症していると思い、どうやって精神科を受診させるかを考えました。(以下の文章は友人が統合失調症であることを前提にしています。これは的外れかもしれませんが、どちらにせよ精神科の受診が必要なことは間違いないと思うので、細かい病名はあまり問題ではないと思い、このように断定したような書き方をしています。お許しください) まずは親御さんの連絡先を聞き出そうとしましたが、「家族と関係を持ったら、お前も嫌がらせを受けるかもしれない」と教えてくれません。そこで私は大学のカウンセラーに相談してみたのですが、「本人がいないと相談には乗れない。本人を連れてきてくれ」と一蹴されました。自分のとるべき対応を聞いたのですが、それも本人と会わなければ何も言えないと言われました。そのため、友人に大学のカウンセリングルームに行ったらと言ったのですが、「他人は信用できない」といいます。教授に相談しても相手にされず…。 そうこうしているうちに友人は「お前なら信用できる。カウンセリングをしてくれ」と訴えてくるようになりました。(友人は私がカウンセラーを目指していることを知っています) 私はカウンセラーではなく、素人がカウンセリングをするなど馬鹿げていると思います。ましてや統合失調症という、プロのカウンセラーが対応しても悪化させる恐れが付きまとうような疾患に、素人が対処するなど言語道断だと思います。 なので私は「カウンセリングはできない。だが話だけは聞かせてほしい」と伝えました。しかし友人はかたくなに「カウンセリングでなければだめだ」と言い張ります。
カウンセリングをするといって会話の場を作り、精神科の受診の方向に持っていければいいのですが、相手がカウンセリングを望んでいる以上、心の深い部分の話に発展する恐れがあり、そうなったら悪化させる危険があるのではないかと思います。実際、会話の場を持ち、心の深い部分の話はせず、精神科の受診を勧めようとしましたが、「もっと深い話をさせてくれ。俺の心の奥底の苦しみを聞いてくれ」とばかり言われ、精神科の受診の話のできる雰囲気ではなくなってしまいました。(雰囲気とかいう次元の話ではないことは承知しています。しかし、脈絡なく精神科の受診を勧めても信頼を失うだけだと思いこのような対応をとりました)
彼には私しか頼れる人がいないらしく、もしこのままうわべだけの話でお茶を濁していたら、私も信頼を失い、彼を助けられる人間はいなくなってしまいます。しかし彼の要望にこたえて深い話をして、その中で精神科の受診への道を探るのは危険な気がして躊躇しています。 ある程度深い話をしても、統合失調症は悪化しないものでしょうか。私は勉強した知識に縛られて、実効ある対応ができなくなっています。現実問題彼に精神科を受診させるには、どんな方法をとるにせよどこかで私が働きかけなければいけないと思いますが、半端に知識があるせいで身動きがとれません。 どうにかして精神科を受診させたいのですが…、このような場合、どうやって精神科の受診を説得したらいいのでしょうか。私がしくじったら後がないということで、大きなプレッシャーを感じています。


林: 友人として統合失調症の人のために何ができるか。これをテーマとするご質問はこれまでも多数いただいており(たとえば最近では【2201】【2198】など)、いずれも回答の基調は、残念ながら友人といっても他人である以上、できることにはかなりの限界があり、その限界の中でどうするのが望ましいか、というものになっています。それが現実です。

この【2228】は、そんな中である意味特殊なケースであるといえます。統合失調症の友人から信頼され、しかもカウンセリングという治療を求められている。このような場合、ぜひ信頼に応えたいところではあっても、

ましてや統合失調症という、プロのカウンセラーが対応しても悪化させる恐れが付きまとうような疾患に、素人が対処するなど言語道断だと思います。 

というようにお考えになるのは実に正当です。
このお考えに基づき質問者が

実際、会話の場を持ち、心の深い部分の話はせず、精神科の受診を勧めようとしましたが、

という対応をされたのは100%適切なことでしたが、

「もっと深い話をさせてくれ。俺の心の奥底の苦しみを聞いてくれ」とばかり言われ、精神科の受診の話のできる雰囲気ではなくなってしまいました。

という事態になり、苦悩されているのはよく理解できるところです。
しかし、

彼には私しか頼れる人がいないらしく、

である以上、また、統合失調症の人を救うには精神科の受診以外に方法はない以上、質問者がどこまでも最善を尽くすことで、この友人の方を救うことができ、また、それ以外にはこの友人の方を救う方法はないといってもいいかもしれません。
そうしますと、

しかし彼の要望にこたえて深い話をして、その中で精神科の受診への道を探るのは危険な気がして躊躇しています。

という危惧があっても、やはり話を進める中で、タイミングを慎重にみはからって精神科の受診にもっていくことを目指すのが最善でしょう。

このメールの文章から、質問者のきわめて慎重な姿勢と、統合失調症についての造詣、そして、自らが身につけようとしているカウンセリングに過剰な期待を持たない洞察力が読み取れます。この質問者であれば、最善の対処法ができると私は信じます。

(2012.4.5.)


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