精神科Q&A

【2189】うつ病と診断された部下を使いこなせない私は上司として失格でしょうか‏


Q: 私は40代男性です。先月部下がうつ病と診断され一週間休業しました。理由の一つは、上司(私)が怖くて体調が悪くなるので出社できないとのことでした。このため、私は会社から上司失格の烙印をおされており、私自身、退職も考えています。これまでの経緯をご説明いたします。 
彼とは5年前より一緒に仕事(支店、サービス業、休日不定、シフト勤務)をしておりました。彼は30歳独身で実家で暮らしています、実家は職場から歩いて5分です。入社当初より遅刻が目立ち、母親が入退院を繰返しており世話をしているとの話でした。それはやむを得ない理由ですので、同僚と勤務シフトを変更することも大目にみておりました。しかしながらたまに、友人との遊びも入っているなとうすうす感じていました。性格は温和で口数は少なく、まぁ素直な方だと思いました。体格はややメタボです。 仕事ぶりはミスも多く、誰も見ていないと寝ているか間食をしている時がある、しかし得意な技術もあり、そういう作業は一生懸命やるので私としては相殺していました。 とはいえ、社会人としていつまでもこのような姿勢では困るので、年毎に厳しくしていきました。たとえば、遅刻してもタイムカードに修正液を使って無かったことにしていたので、修正液の禁止(それまで修正液がまかり通っていた会社も変?)、勤務シフト変更も届出用紙で私とその上司の印をもらうなどです。 
しかし4年経てもあまり改善無く、母に続いて兄がアル中になって世話が必要だとか、年に1度くらいのペースで友人が急に亡くなっていきなり早退や葬儀で休みとかが出るようになりました。ちなみに有給休暇は毎年100%消化しています(理由のほとんどが家族の世話と葬式) 。4年目にしても遅刻、早退、タイムカードを削って偽造などの行為の頻発が続いていたため、本人に自分から退職を考えるように言いました。 その後、私の上司が面談した翌日に無断欠勤。本社の課長が面談しても改善無し。ここに至ってやっと配置転換の話が進んできました。そんな状態のある日、もはや常態化したともいえる無届欠勤に対して、具合が悪いのならとにかく病院に行くよう指示したところ、1時間以上経過した後、飲酒による酩酊状態でしかも車を運転して出社。その日の夜、うつ病の診断書を持ってきました。

今は違う部署で会社の雑用をしています。 直近の1年くらいは彼に対し、「おまえいい加減にしろ」といった論調で接していました。これはうつ病患者には間違った対応であるという知識は私にもあったのですが、「うつ病はまじめな人や過労の人がなる病気」と思いこんでいたため、彼がうつ病とは思いあたりませんでした。けれども最近は若い人にそれとは違う新型うつ病があると知りました。彼はうつ病だったのか・・・と思ったときにはすでに遅かったのです。会社にもメンタルヘルスの管理者教育もありません。もっと早い時点で彼がうつ病と分かっていれば違う対応をしたと反省しています。 本社の上層部より「うつ病と診断された部下を使いこなせないのは上司の責任」と言われ、代わりの人員補充などしないと宣告されました。うつ病の診断書が出てからは、私の上司や本社の課長も手のひらを返したように「おまえ(私)が良くない」と責められています。部下がうつ病であることに気づかず、休業に追い込んだのは上司である私の責任であると・・・。やはりそうなのでしょうか? 精神の専門家からも同意見であれば私が退職して事を納めることになりますが、そうすべきなのでしょうか?


林: この部下の方がうつ病である可能性はきわめて低く、擬態うつ病であると考えるべきです。上司である質問者に落度があるとは思えません。この【2189】のようなケースがうつ病であると誤認されることで、うつ病についての人々の認識が歪み、それだけでなく、職場の方々がお困りになり、さらには質問者のような上司の方がいわれのない非難を受け苦悩されるという事態は、現代の日本ではしばしば発生しており、大変憂うべきことであると私は考えています。しかも、質問文にも書かれている「新型うつ病」という病名が出てきたことで、この事態はさらに悪化し、収拾がつかなくなりつつあります。擬態うつ病についての私の近著のタイトルに「新型うつ病」という名前を入れて、 擬態うつ病 / 新型うつ病 実例からみる対応法 とした理由の一つはそこにあります。
 この【2189】の質問者の方にはぜひ上記の本をお読みいただきたいと思います。質問者が現在陥っておられる苦境は、うつ病についての人々の混乱・誤った知識、さらには医師の安易な診断(これについては【2188】もご参照ください)に原因があり、上記の本は典型的な実例を紹介しつつ、こうした状況を解説したものです。この【2189】との対応としては (以下、case とあるのは、上記の本のケースです) 、

入社当初より遅刻が目立ち、母親が入退院を繰返しており世話をしているとの話でした。それはやむを得ない理由ですので、同僚と勤務シフトを変更することも大目にみておりました。しかしながらたまに、友人との遊びも入っているなとうすうす感じていました。

このあたり、まだうつ病を理由にはしていないものの、case 10 嘘つき (仮病としての擬態うつ病) につながる行為であるといえるでしょう。さらにこの【2189】ではこの後、様々な嘘や不正を繰り返しているわけですから、質問者が上司として厳しく注意するのは当然のことで、質問者がそれについて非難されるいわれはありません。

直近の1年くらいは彼に対し、「おまえいい加減にしろ」といった論調で接していました。

それまでの経過を見れば、当然です。

これはうつ病患者には間違った対応であるという知識は私にもあったのですが、「うつ病はまじめな人や過労の人がなる病気」と思いこんでいたため、彼がうつ病とは思いあたりませんでした。

質問者のその認識は概ね正しいです。

けれども最近は若い人にそれとは違う新型うつ病があると知りました。

「新型うつ病」と呼ばれているものは、うつ病ではありません。case 11 うつ病だという彼の態度が皆のストレス をご参照ください。そこに解説したように、「新型うつ病」とは、適応障害か、または、甘えの擬態うつ病です。この【2189】のケースは甘えの擬態うつ病に間違いないでしょう。

彼はうつ病だったのか・・・と思ったときにはすでに遅かったのです。

いいえ、彼はうつ病ではありません。

もっと早い時点で彼がうつ病と分かっていれば違う対応をしたと反省しています。 

彼はうつ病ではありません。質問者に落ち度はありません。

本社の上層部より「うつ病と診断された部下を使いこなせないのは上司の責任」と言われ、代わりの人員補充などしないと宣告されました。

上層部の方々に、うつ病についての正しい知識を持っていただきたいと思います。とはいえ、この【2189】のケースをめぐる状況のように、医師から安易にうつ病の診断書が出されたことによって、周囲の方(この【2189】では質問者)が責められたり自責的になられることは多いというのが実情です。医師の責任を痛感せざるを得ないところです。

うつ病の診断書が出てからは、私の上司や本社の課長も手のひらを返したように「おまえ(私)が良くない」と責められています。

彼らの態度は誤りです。

部下がうつ病であることに気づかず、休業に追い込んだのは上司である私の責任であると・・・。やはりそうなのでしょうか? 

違います。

精神の専門家からも同意見であれば私が退職して事を納めることになりますが、そうすべきなのでしょうか?

いいえ。彼はうつ病ではなく、質問者が退職するなどもってのほかです。上司として正しい行いをしてきたのですから、自信をお持ちになり、毅然とした態度をお取りください。

(2012.1.5.)


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