精神科Q&A

【2135】私の中の人格たちは突然消え、うつ状態がやってきました(【1936】のその後)


Q【1936】昔の記憶が曖昧で、最近では幻聴もあります で相談させていただいた者です。質問を送って随分経ってからの掲載で驚きましたが、回答いただけて嬉しく思っています。当時と現在とでは状況がかなり異なっておりますので、経過をお知らせしたくメールしました。また、新たにお尋ねしたいこともありますので、よろしくお願いします。

 何ヵ所かの病院を受診した後、解離性障害に理解のある今の主治医と出会うことができました。診察とカウンセリングと投薬による本格的な治療を開始しましたが、一時的に症状は悪化しました。声たちが表に現れて診察を受けるようになり、私一人でいるときは自分たちの感情をノートに書いたり、それぞれに名前を有して内部の相関図を書いたりするようになったのです。しかし、別の人格になっていても常に共通意識のようなものはあり、完全な健忘はありませんでした。主治医は、違う人格も含めて一人の私に過ぎないという一貫したスタンスで、人格たちを受け入れてくれましたが、掘り下げることはなく、「あなたは自分の解離状況をわかっているから解離性同一性障害ではない」という見解でした。それでも、あまりに他の人格たちの影響が大きくなったので、投薬はSSRIからジプレキサに変更になりました。
 そしてある日突然、人格たちは消えてしまいました。統合を果たしたという感覚ではなく、ただ消えてしまったのです。私はうつ状態に陥りました。気力が全くなくなり、不安で涙が溢れました。現実が差し迫ってくるようで生きているのが辛く、できることなら私も消え去りたいと願いながらも、主治医の「今は回復する過程。必ず良くなる」という言葉を支えに治療を続けました。

 その後、うつは徐々に改善し、安定した状態を保って現在に至っています。目立った解離症状もありません。けれども、記憶が曖昧なのは変わらないままで、最近の出来事も忘れやすいです。この症状について治る見込みはあるのかどうか悩んでいます。追及すれば、また解離が再燃するのではないかと心配です。(カウンセリングは、過去ではなく現在に焦点を当てるという方針です)しかし、記憶が曖昧な自分は希薄な感じがして不安だし、自信が持てません。自分という人間がわからない為、将来の展望が開けず、生きる意欲があまり湧いてきません。これらは自然な時の流れに委ねるしかないのでしょうか。また、もう一つの疑問は、人格たちは確かに存在したのに、どこへ行ってしまったのかということです。この先、強いストレスが加われば、再び現れることもあり得るのでしょうか。何か注意すべき点などありましたらそれも含め、回答いただけると幸いです。


林: 経過のご報告をいただきありがとうございました。読者の方々にとって、とても貴重な内容だと思います。

このメールのご報告を読んで感じられるのは、質問者の主治医が、きわめて適切な治療をなさっているということです。ですから、

何か注意すべき点などありましたらそれも含め、回答いただけると幸いです。

こういったことを含め、すべて主治医の先生にお聞きになるのが最善だと思います。
というのは、これらのご質問に対して、私には私なりの見解はありますが、この【2135】のようなケースについては、「これが正しい」という絶対的な(「絶対的」とは言わないまでも、定説として明示できるような)回答や方策はないといえますので、これまで、そしてこれからも治療をしてくださる先生の方針に従うのが最善であり、外野からの意見を聴くのは混乱のもとになるだけでお勧めできないからです。

以上を大前提として、メールの内容のごく一部について、ごく簡単にコメントいたします。

「あなたは自分の解離状況をわかっているから解離性同一性障害ではない」

主治医の先生のこの見解は、必ずしも一般的とはいえません。解離状況をある程度までは自覚している解離性同一性障害の人は存在します。ただ、言葉の定義として、それは解離性同一性障害とは呼ばないという立場も一理あるとはいえます。
 しかし言葉の定義よりはるかに重要なことは、

主治医は、違う人格も含めて一人の私に過ぎないという一貫したスタンスで、人格たちを受け入れてくれましたが、掘り下げることはなく、「あなたは自分の解離状況をわかっているから解離性同一性障害ではない」という見解でした。

上記の主治医の先生のスタンスで、「あなたは自分の解離状況をわかっているから解離性同一性障害ではない」という説明自体が、この先生の精神療法の一部である(すなわち、このような説明をすること自体が治療の一環)という見方もできます。

また、

そしてある日突然、人格たちは消えてしまいました。統合を果たしたという感覚ではなく、ただ消えてしまったのです。私はうつ状態に陥りました。気力が全くなくなり、不安で涙が溢れました。

このように、解離状態が解消すると、うつ状態などの精神症状が出現する(言い換えれば、解離が他の精神症状に置き換わる)ことは、臨床的にはしばしばあることです。

(2011.10.5.)


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