精神科Q&A

【2109】離婚したのは私が境界性パーソナリティ障害だったからなのでしょうか


Q: 私は現在無職の32歳女性です。「擬態うつ病/新型うつ病 実例からみる対応法」を拝読し、初めて境界性パーソナリティ障害という病名を知り、その内容と自分の過去の言動があまりにも似ていた事に衝撃を受け、ご質問したいと思いメール致しました。
 私は30歳の時、自動車部品製造会社の事務として働いていた同僚と結婚し、仕事を辞めました。本当は辞めたくなかったのですが、ある年配女性社員の言動に悩まされ、結婚式後にうつ状態という診断書を提出し休職をお願いしたところ退職を促されました。すると、その約一週間後、彼が呼び出され「会社の社風に合わないから君(彼)も辞めてほしい」と言われ二人して無職となりました。リーマンショック後、半年を過ぎた頃でした。とても理不尽に感じ、悩みましたが、前向きに行くべきと、彼は半年職業訓練に通い、資格などを取り、厳しい環境下、中堅会社の技術職として正社員採用を決め、心配をかけていた両家家族共に喜びの中にありました。結婚前から、私には境界性パーソナリティ障害に似た症状があったと思います。些細な事で怒りをあらわにし、二言目には「別れる」「私なんかいなくてもいい」というような事を口にしていました。暴言をメールで何通も送ったりしました。でも彼は「絶対に別れない」と言ってくれました。ケンカというよりも、私の一方的なイライラがいつも原因でした。一ヶ月に一回、生理前になるとそれが収まらなくなり、段々とその頻度が増していきました。彼を罵倒したり、物を投げたり、カッターで腕を切ったり、髪の毛をハサミで切ったりしました。彼が出かける前に、朝食のお皿を投げて困らせた事もありました。最後は私が家を飛び出し、実家に帰って頭を冷やす、という繰り返しでした。彼は、本当に訳がわからず、自分がイライラの原因なのかと思うようになっていったと思います。ついには、彼が自分のコントロールを失ってしまうような状態になっていました。そのような中で、再就職が決まり同県内の他の市へ引越すことになったのですが、引越し準備中に私が壊れました。彼は彼の実家から、1時間かけて新たな職場へ通い始めたばかりで、心身共に疲れきっていました。私からの攻撃的なメールや電話の着信に、恐怖で出られなくなり、実家でも物を壊すなどしたそうです。私達は感情的なまま互いを非難した結果、離婚する事になりました。結婚後1年が経った頃でした。あれだけ別れないと言っていたのにと、私はますます怒りを募らせ、彼と彼の両親に、ありったけの不満と怒りをぶつけた手紙を書きました。結婚式の費用を私が多く払ったままである事、新居の家電は全て私の家族や私が用意した事、彼の両親から「結婚祝いをあげなくてはね」という言葉だけを聞いて祝いは何ももらっていない事、そして、私の実家についてよく思っていないのではないかという事など書き連ね、とても攻撃的で恐ろしい内容だったのではないかと思います。私は疑心暗鬼の塊であり、言って良い事と悪い事の区別もなかったように思います。彼や彼の家族は、私のような人間ともう関わりたくないと、1年分の生活費を払うから今すぐ別れてほしい、今後一切関係を断つという合意書を交わしたいと言われました。私は合意書なんか交わさないと、拒否しました。互いの両親も、互いの子をかばう事に必死になり、ケンカ腰になっていました。彼からは、失った信頼関係は二度と戻らないといった内容の手紙が来ました。最後に彼に会った時、私は「うつ病のせいかもわからないけど、今は別れる判断ができない」と言い、彼からは「(うつ)病気のせいにするなと(彼の)家族は言っている」「うちの家族は疲れ果てている」というような事を言われました。
 ケンカをしていない時は、彼が大好きで、彼のためにできることは何でもしてあげたい、2人で頑張って幸せな家庭を築いていきたいという思いでいっぱいでした。そして、私も何かで認められるようなやりがいのある仕事に就きたい、彼が就職を決めた次は、私の番なんだと思っていました。互いの両親にも、良く思われたくて、自分の実家でやっている事、例えば家事の手伝いや、両親への誕生日祝いなどは、彼の実家にも同じようにしてあげたいと思い、喜んでくれる姿を見るととても嬉しく感じていました。彼の家の家族になりたいと、心から思っていたつもりだったのですが、私を切り離そうとしている彼らを見た時、ショックと共に裏切られたという思いがこみ上げ、負の感情が止まらなくなった気がしました。私は、今までの生活を無くしたくない思いでしがみつこうとしました。そして、離婚後も、彼に電話したりメールをしたり手紙を書いたり、お金を返したりと、しつこくしてしまいました。彼は、着信拒否をした後、携帯を解約し、お金も返してきました。私は、自分が犯罪者のようではないか、と思うようになりました。罪のない人を振り回して攻撃し、傷付けたあげく、罪悪感に駆られ、そんな自分を許してほしいなどと思っているのです。けれども、相手は決して私を許しはしないし、私に消えて欲しいと思っているかもしれない。してはいけない事をしてしまった私なんか、この先誰が許し、存在を認めてくれるのか、とても不安に思います。

離婚後約1年が経ち、その間、自分が一体どんな性格なのかやこれからの生き方を悩む日々が続きました。あんなに攻撃的になったのは、彼に対してだけですが、今後また大切な誰かを攻撃してしまうのではないか、また大切なものを失うのではないかと怖いのです。私は、一見、人当たりや受け答えが良いらしく、頭の良い人、優しい人と言われることがあります。でも、自分の能力についてのコンプレックスがあり、マイナスな事をよく覚えている傾向があります。就職や賃貸契約時にいろいろ言われた事、前職の年配女性社員に、入籍の事を話すと「キレイになってからお嫁に行った方がいいからね」と言われ愕然とした事を覚えています。義母から「あなたならできるわよね」と言われる事もプレッシャーでした。結婚後仕事を辞めた後、コンビニでバイトをしようと思っている事を実母に話したら「コンビニでバイトさせるために大学に行かせた訳じゃない」と言われ、泣いた事もあります。何でもない事に傷付き、引っ掛かってきたのです。 時間が経つにつれ、段々と、そつのない以前の自分に戻りつつあると思います。ただ、彼と一緒だった時に、うつ状態と言われてそう思い込んでいた自分が取った行動ではなく、境界性パーソナリティ障害に近いのではないか、もっとそれに沿った行動を取っていたら、彼を傷つけたり失わずにすんだのではないかと思うと、本当に後悔してもしきれない思いでいっぱいです。過去を悔やんでも戻ることはないですし、前向きに考えてはいるつもりです。長々と本当に申し訳ありませんが、私は境界性パーソナリティ障害と診断されたわけではありませんが、それに近かったと思ってよいのでしょうか。それとも、ただの甘えた性格の持ち主なだけなのでしょうか。終わってしまった事ではありますが、ご回答いただけると、大変嬉しく思います。


林: 確かに境界性パーソナリティ障害の傾向は見られると思います。しかし、「パーソナリティ障害という診断」と「パーソナリティ障害の傾向」の区別は微妙ですので、このメールから、そのどちらにあたるかの判断は困難です。しかし少なくともうつ病でないとはいえます。(うつ病の薬を飲み続けて治るといった性質のものではありません)

もっとも、この【2109】の質問者にとって重要なことは、診断名そのものではなく、ご自分にその傾向があると認識されることだと思います。攻撃性が発露されたのは配偶者とその関係者に限られていたとのことですので、今後も、ご自分にとって大切な方に対して同様な事態が発生する可能性があるといえます。その際、ご自分が境界性パーソナリティ障害かもしれない、少なくともその傾向があるという認識に基づいて行動することで、決定的な破綻を回避できることは期待できるでしょう。

なお、

一ヶ月に一回、生理前になるとそれが収まらなくなり、段々とその頻度が増していきました。

と書かれていますが、このメールからは、激しい攻撃性が出るのが生理前に限っているのかそうでないかが不明です。この回答は「生理前に限らない」ことを前提として行ったものです。もし生理前に限るのであれば、話は別になります。

(2011.9.5.)


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