精神科Q&A

【2052】11 歳の娘が頭の中に別の人物がいると言います。


Q: ご相談したいのは小学校5年(11歳)の娘です。自分の頭の中に、別の人?がいると言います。 最初にこれを言い始めたのは小学校2年(8歳)の時で、「ねえ、ママもだれかに『言い聞かされる』事ってある?」と聞かれたのが最初でした。その「誰か」を、彼女は「もうひとり君」と呼んでいました。その時の発言ははっきり覚えているのですが、以下のような内容でした。 A.階段を上っていて「なんだか落ちそうだな」と思うと、「もう1人君」が「体重を前にかけた方がいいよ」と教えてくれた。B.水泳の授業に水着を忘れて行ったので「どうしよう」と迷うと「見学にしたら?」と教えてくれた。C.弟とケンカしていたら「押せ!」と言われた。D.算数の答えを間違いそうになった時、教えてくれる。自分は4×8=30と言いたくなるクセがあるのだけど「32だよ」と教えてくれた事もある。 本人が言うには、この声は頭の中からする。外からは聞こえない。困った時に助けてくれるので、いてくれないと困る。もう1人君は自分かとも思うのだけど、大事な友達なので、そう思いたくない。 この時は「幻聴?もしや統合失調症?」と思い、少々恐くなり、学校の担任の先生に様子など伺ったのですが、先生には「明るく元気で、心配に感じられるところは見あたらない」と言われ、しばらく様子をみる事にしました。 それからしばしば「あ、『もう1人君』が○○と言った」などと言う時もありましたが、次第に言わなくなり、私からは何も聞かずに数年が過ぎました。もう『もう1人君』はいなくなったのだと思っていました。 それが先日いきなり、一人っ子の友達が寂しがっているという話から「私みたいにもう1人君がいればいいのにねえ!」とにこやかに言われ、びっくりしました。「もう1人君はまだいるんだ。その話を聞いたのは随分前だけど。」と私が聞くと、「うん。ずーーーーっといるよ。相談相手だもん。最近はもう二人増えたよ。」と、ベラベラと話し始めました。「『もう1人君』は針金人間。顔が丸くて、手足が棒。もう1人は、同じ感じだけど、あたまのてっぺんから髪が一本ひょろっと生えてるの(笑)。あと1人は、水色の水玉のリボンをつけているんだ。」 『もう1人君』はいなくなったのかと思っていたら、数が増えていて、形も具体化しているので驚きました。その時は本人がよくしゃべったので色々聞いてみると、A.3人とも困った時に自分から呼び出して相談する。相談するけれど、最終的に決めるのは自分。B.その3人と自分が交代しちゃうことはない。自分は自分。C.お店で食べ物を迷っている時とかは『もう1人君』が決めてくれる。D.何かを考えていて「あっ」とひらめく時とかは、その誰かのおかげ。 その状態で困ったり、つらかったりする?と聞くと、「それはない」そういう状態が自分でおかしいとは思ったりする?と聞くと「それはない。絶対、他のみんなそうだと思うよ。」ちなみにママはない、と言ったら「ママは何か閃いたり、いい案を思いついたりしないの?」と言われました。 この話をしている時は、いつもより少々興奮状態なように見えました。そして、最近読んだ本で「ドッペルゲンガー」というのがあり、もう1人君はそれだとハッキリしたよ、と、言っていました。(彼女の言うドッペルゲンガーは、自分自身であり、自分が向いているのと逆にいるので自分には決して見えなくて、時々助言を与えてくれるものだそうです。こっくりさんのことなどが書いてある子供向けの本に、そう書いてあったのだそうです。) こんな話を突っ込んでしているうちに、「ママ、なんでそんなにしつこく聞くの・・・?」と、いやーな表情になってしまい、あまり話さなくなってしまいました。
普段は元気で明るく、学校ではリーダータイプです。成績もまあまあ良く、小学校では一度も休んだことがないのが本人の自慢でもあります。友達とのトラブルなど、聞いた事もありませんし、いわゆる優等生だと思います。 ただその反面、親から見るとかなり神経質なところもあり、例えば自分の病気などは大変に恐がったり、心配したりします。その為、この件で精神科に連れて行ってみようかと思っても、余程のストーリーでも考えなければ、自分がとんでもない病気だと落ち込んでしまいそうで怖いのです。 このような場合、どう対処すればよいのか困っております。やはり、どうにかして精神科へ連れて行ったほうがいいのでしょうか?それとも社会的な問題行為を起こしたり、本人がつらいと言わなければ、連れて行かなくてもいいのでしょうか。 家族は核家族で、3歳下に弟がいます。弟は5、6歳の頃、チックで小児神経科に通っておりました(8歳の今はチックはほとんど出ていません)。母である私も、心療内科に通っています。体調不良が主な症状ですが、診断は不安感が強い+疲れ(フルタイム共働きです)+軽いウツ、との事で、メイラックス1mg+デプロメール50mgを一日一回。あとリーゼ5mgを一日1〜3回(適宜)服用しています。私が心療内科に通い出したのは、娘が4歳の時からです。 ご回答を頂ければ幸いです。


林:
A.階段を上っていて「なんだか落ちそうだな」と思うと、「もう1人君」が「体重を前にかけた方がいいよ」と教えてくれた。

AからDとして書かれているような、自分の行動に指示を出すという形の幻聴は、統合失調症に特徴的なものです。けれどもこの【2052】のケースでは、解離の症状であると判断できます。
そう判断できる一つの根拠は、11歳という年齢と、幻聴の対象を「もう1人君」というように呼んでいることです。
 統合失調症の幻聴で、その対象がある特定の人物(特に、実在しない人物)であるとされることはそう多いことではありません。(あるとすれば、長年経過して慢性化したケースですが、その場合でも多いとはいえません)
それに対して解離の幻聴では、特にそれが幼少から若い年齢のケースでは、特定の人物の声であると本人は認識していて、しかもその人物に名前をつけていることもよくあります。この【2052】のケースはまさにそれにあたります。
 そして、幼少の頃にこのような体験があっても、

それからしばしば「あ、『もう1人君』が○○と言った」などと言う時もありましたが、次第に言わなくなり、私からは何も聞かずに数年が過ぎました。

というように、成長にしたがって自然に消失することが多いものです。この場合は、病的なものとはいえません。【2044】で少しご紹介した、「想像上の友人 imaginary companion」の一種とみていいでしょう。

けれどもこの【2052】のケースでは

それが先日いきなり、一人っ子の友達が寂しがっているという話から「私みたいにもう1人君がいればいいのにねえ!」とにこやかに言われ、びっくりしました。

というように、最初に母親が気づいてから3年後に、それまでの3年間にわたってこの体験が続いていたことが明らかになっています。(このように、特にそのことを聞かれるなど何かのきっかけがないと本人の口から語られないのも、解離の幻聴の特徴です。精神科の臨床でも、まさかこの人に幻聴はないだろうと思っていた人に、何かの時に幻聴について触れると、全く自然のことのように自分にはずっと幻聴があったという話が出てきて驚くことが、稀ですがあります)
そしてこの【2052】のケースでは、

「『もう1人君』は針金人間。顔が丸くて、手足が棒。もう1人は、同じ感じだけど、あたまのてっぺんから髪が一本ひょろっと生えてるの(笑)。あと1人は、水色の水玉のリボンをつけているんだ。」 『もう1人君』はいなくなったのかと思っていたら、数が増えていて、形も具体化しているので驚きました。

というように、「想像上の友人」の像が、より具体化し、しかも人数が増えています。こうなりますと、健康な子どもにも見られる「想像上の友人」の範囲を超えていると言わざるを得ません。

どうにかして精神科へ連れて行ったほうがいいのでしょうか?

という不安が出てくるのは当然でしょう。
けれども他方で、

この件で精神科に連れて行ってみようかと思っても、余程のストーリーでも考えなければ、自分がとんでもない病気だと落ち込んでしまいそうで怖いのです。

というご心配も十分に理解できます。

ではどうするのが最善か。
そこには明確な「正解」はないと言わざるを得ません。
「想像上の友人」について、触れずにそっとしておいたほうがいいのか、それとも逆に話題にしたほうがいいのか、それも何ともいえません。
おそらく一つだけ言えることは、たとえ成人になっても、「想像上の友人」が「いる」ということだけなら、必ずしも病的とはいえないということです。(但し、ここには議論があり、病的だとする見解もありますが)
であるとすれば、他の病気への発展に注意しながら見守るというのが、現時点では最善の対処法であるといえるでしょう。そして、他の病気の兆しが認められたら、速やかに受診することが望まれます。


◇ ◇ ◇

「幻聴 = 統合失調症」と考えると、統合失調症の偽陽性診断が増えることになります。
この【2052】のケースの「想像上の友人」は、子どもにはしばしばあり、時には成人期まで続いていることがあります。そのどこまでを病的と見るかどうかについては、今のところ基準はありません。
ただ、「想像上の友人」が、その後、本人とは別人格となり、多重人格(解離性同一性障害)に発展した症例があることが知られています。


【2000】から【2078】までの回答は一連の流れになっています。【2000】、【2001】、・・・【2078】の順にお読みください。


(2011.6.5.)


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