精神科Q&A

【2050】隣に腐乱死体があるようで怖くて目を閉じられず一晩中起きています‏


Q: 20代女性です。大したことではないのですが、私はとても辛いので、治りたいと思っています。 私は、何も考えてない時がありません 常に何か考えてます。頭の中でしゃべり続けている感じです 十代のころは、もう一人の自分が常にネガティブな事を言い続けていましたが、今はそういうことはありません でも、2ヶ月に数日くらいの頻度で、今までの人生で、恥ずかしかったり、つらかった場面が、延々と脳内に垂れ流されるときがあります耐え難い苦痛です それが終わっても、脳内は嫌な物で溢れかえったままです 人生で見たミイラなどの死体の映像やホラー映画の惨殺シーン、拷問、虐殺、各種処刑の様子が、まるで自分に襲いかかるかのように思われ、想像とはわかっていながら、想像を止められません 目をつぶると、隣に腐乱死体があるように想像してしまい、怖くて目を閉じられず、今夜もこうして起きています 寝るときは一晩中明かりをつけています こういったことは幼少の頃からです 
さらに、ここ数年なのですが、ペットのハムスターの首をへし折らなければならないと思ったり、大好きなはずの夫をいずれ自分が殺さなければならないと思ったりして、自分が怖くなりましたさらに、いずれ生まれるだろう我が子も、竹槍で腹を突いて、内臓を生きたまま引きずり出す義務があると思いつき、心底自分が怖くなりました カーテンのむこうや、部屋の外、光の届かないところに、幽鬼たちがこちらを窺っていると想像してしまい、想像と分かっていても怖いものです 断続的ではあるものの、もうずっと想像に悩んでいて、辛いです これは、治るものなのでしょうか。この程度のことは、いずれ自然になくなるのでしょうか? 


林: 全体像からは、解離性障害が最も考えられます。

十代のころは、もう一人の自分が常にネガティブな事を言い続けていましたが、今はそういうことはありません 

幻聴と判断できる症状で、幻聴といえば統合失調症が代表的な疾患ですが、この【2050】のケースでは、幻聴といっても自然に消失したこと、幻聴があったのが十代という時期に限られていたこと、「もう一人の自分が」という表現がとられていることなどから、解離性障害の幻聴とみるほうが妥当でしょう。

でも、2ヶ月に数日くらいの頻度で、今までの人生で、恥ずかしかったり、つらかった場面が、延々と脳内に垂れ流されるときがあります耐え難い苦痛です それが終わっても、脳内は嫌な物で溢れかえったままです 人生で見たミイラなどの死体の映像やホラー映画の惨殺シーン、拷問、虐殺、各種処刑の様子が、まるで自分に襲いかかるかのように思われ、想像とはわかっていながら、想像を止められません 目をつぶると、隣に腐乱死体があるように想像してしまい、怖くて目を閉じられず、今夜もこうして起きています 寝るときは一晩中明かりをつけています 

死を主題としたグロテスクともいえるイメージは、統合失調症でも見られるものですが、このケースのようにかなり具体的に生々しい視覚的イメージは、統合失調症ではむしろ稀なので、解離性障害の可能性のほうが高いといえます。
また、解離性障害の方がこのようなイメージを体験するのは夜に多い傾向があります。この【2050】では、夜に多いのかどうかはっきりとは書かれていませんが、「怖くて目を閉じられず、今夜もこうして起きています 寝るときは一晩中明かりをつけています」という記述からは、夜に体験されていることが読み取れます。
このことは昔から知られており、20世紀初頭に出版されたクレペリンの本には、ヒステリー患者に特徴的な症状の一つとして、(当時は解離性障害はヒステリーと呼ばれていました)

夜間一種の半覚醒状態で生じる迷妄知覚は稀ではない

と記載されています。
(クレペリン『心因性疾患とヒステリー』遠藤みどり訳 みすず書房p.136)
また、この本には、ヒステリー患者が体験したイメージの実例として、以下の記載もあります:

患者たちは死んだ身内のものの姿や、経帷子を着て棺の中にいる母親や、髑髏や、長い刀を持った黒服の男たちや、燃える目をした暗い影や、と殺者や、髑髏をのせた皿や、野獣や、もののけや、半獣半人などを見る。・・・

これを読むと、時代による違いはあっても、死をテーマとしたイメージという点では、【2050】のケースの方の体験と共通点があることが読み取れます。

さらに、ここ数年なのですが、ペットのハムスターの首をへし折らなければならないと思ったり、大好きなはずの夫をいずれ自分が殺さなければならないと思ったりして、自分が怖くなりましたさらに、いずれ生まれるだろう我が子も、竹槍で腹を突いて、内臓を生きたまま引きずり出す義務があると思いつき、心底自分が怖くなりました カーテンのむこうや、部屋の外、光の届かないところに、幽鬼たちがこちらを窺っていると想像してしまい、想像と分かっていても怖いものです 断続的ではあるものの、もうずっと想像に悩んでいて、辛いです

これらも同様で、解離性障害の可能性が最も高いといえます。

この程度のことは、いずれ自然になくなるのでしょうか?

自然になくなることはないとはいえませんが、すでにかなりの期間に渡り続いており、相当に苦しんでおられますから、精神科を受診されたほうがいいと思います。

◇ ◇ ◇

この【2050】のケースには解離性障害らしい点がもう一つあります。それは、これだけの苦しい体験が長年続いているのにもかかわらず、生活に大きな破綻はなく、また、病院などに助けを求めた形跡もないことです。結婚もしておられるようですので、少なくとも表面的には、破綻どころかかなり安定していると思われます。それは、このメールに描写されている奇怪な体験をしている人物の像としては違和感があります。これは解離性障害の大きな特徴です。統合失調症ではこのようなことはまずありません。


【2000】から【2078】までの回答は一連の流れになっています。【2000】、【2001】、・・・【2078】の順にお読みください。


(2011.6.5.)


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