精神科Q&A

【2045】一時はテレビの人さえ私を監視していると感じ 着替えもできなかったし トイレでも見られていると感じていた。今は人と喋りたくない。


Q: 私は24歳の女性です。
高校生の時から毎年約半年間 激鬱になります。その間は必ずひきこもっています。
20歳くらいの時に初めて精神科へ行きました。その時は病気というよりも 朝まで眠れないという理由でしたが 後々考えると当時は鬱や幻聴幻覚などがありました。
黒い影の人が私を見張っていて 私が目をつむると近くにきて私を脅して‥もちろん怖くて誰にも言えませんでした。
そのことを今の主治医は それは解離だと言いました。
18歳の頃から時々脳が収縮する音が聞こえて 意識を失っていたのも 解離とした理由らし
いです。
鬱は毎回なる時(鬱の自覚なし)に自殺をはかっていました。今年は希死念慮だけでしたが消毒薬を大量に飲んだ時は 黒い人に脅されたからです。
また二年前は鬱の後繰状態が三ヶ月ほど続いた後 純粋に「死んだら愛は永遠」という理由で実行しました(今はそうは思っていません)。
ところで私は今までに診断されたことがありません。今の医師には無理矢理聞いてうつ病と教えてもらいましたが 何か先生が隠し事をしているようでなりません。私の考えすぎなのかもと毎日葛藤しています‥
ちなみに今一番困っていることは人と喋りたくないことです。
これは昔からなのですが→人の笑い声を聞くと私を笑っていると感じます。
人が私の悪口を言っているとか 目があっただけで 悪意を感じます。以前はにらんだり怒ったりしてました。
今は相手に悪意はないと気付いて 自分に言い聞かせていますが やっぱり人の目が私を馬鹿にしてるとしか思えなくなります。
また 20歳頃まではテレビの人さえ私を監視していると感じ 着替えもできなかったし トイレでも見られていると感じてました。
高校の時は親を殺そうと思い牛乳に毒を入れていました。
19くらいの時は隣人の騒音にむかついて ポストに殺虫剤などを入れたりしていましたが、今思うと騒音がひどかったのは私の方でした‥
また 鬱の時はすぐ否定されたと感じてキレて 暴力的になったり喧嘩した後は絶望的になって死にたくなっています。
自分の弱味を見せたメールに一度返事がないだけで 否定されたと怒りだして 全ての人に嫌われているのなら生きる意味がないと感じます。
自分が何を思えば正しくて間違っているのかが気になって 何を思っても間違っている
感じてしまいます。
自分の存在価値とか考えなくていいのに考えてしまいます。
小学生の時は鬱や強迫観念や空想や対人恐怖?(家以外では一日中一言も喋らず周りに無口と言われていました)自分は醜すぎると思っていました(後で写真をみたら普通でした)。

正直言って 自分はうつ病ではなくて境界性パーソナリティ障害か何かではとも感じているし もしかしたら考えすぎなだけの対人恐怖症なだけかもという気持ちもあります。
擬態うつ病は違うみたいでした。
どちらにしろ真実を知りたいと思っています。
ちなみに私の記憶に間違いがない限り全て真実です。

やはりメールでは分かりにくいため 次回主治医にも相談してみるつもりではあります。
長々と失礼しました。


林: 
これは昔からなのですが→人の笑い声を聞くと私を笑っていると感じます。
人が私の悪口を言っているとか 目があっただけで 悪意を感じます。以前はにらんだり怒ったりしてました。
今は相手に悪意はないと気付いて 自分に言い聞かせていますが やっぱり人の目が私を馬鹿にしてるとしか思えなくなります。
また 20歳頃まではテレビの人さえ私を監視していると感じ 着替えもできなかったし トイレでも見られていると感じてました。


これらは被害妄想的な過敏さといえます。統合失調症にかなり特徴的な症状です。(メールに具体的に描写されているので、その内容から、そのように言うことができます)

19くらいの時は隣人の騒音にむかついて ポストに殺虫剤などを入れたりしていましたが、今思うと騒音がひどかったのは私の方でした

これも被害妄想的な過敏さか、あるいは、幻聴の可能性もあるといえます。それに対してこのように攻撃的な行動に出たことからみると、症状は軽かったとはいえないレベルです。したがって統合失調症の可能性は濃厚です。

けれどもこの【2045】のケースは、全体像からみると、統合失調症の疑いありということには躊躇されます。
その理由の一つはこの幻覚です:

黒い影の人が私を見張っていて 私が目をつむると近くにきて私を脅して

これはむしろ解離性障害に特徴的な幻視です。
そして、

消毒薬を大量に飲んだ時は 黒い人に脅されたからです。

これも解離性障害の症状として矛盾はありません。
が、自分以外の意思作用によって自殺企図したということだけに着目すれば、統合失調症としても矛盾はないともいえます。

したがいまして、診断名を判定するのはかなり困難ですが、

今の医師には無理矢理聞いてうつ病と教えてもらいましたが

それはおそらく違うでしょう。うつ病ではないと思います。
第一に考えられるのは解離性障害。第二として統合失調症です。しかし第二の可能性は第一に比べて小さいといえます。

なお、解離性障害と境界性パーソナリティ障害は、かなり近縁の病態であることもあり、また、この【2045】の方の全体像からみて、境界性パーソナリティ障害という診断名も考えられます。


◇ ◇ ◇

統合失調症と解離性障害は、病態も治療も全く違うといっていいものですが、幻覚(幻聴や幻視)が出るなど、似ている点もあり、時には鑑別困難な場合があります。
統合失調症のごく初期や前駆症状と見られるものの中にも、解離性障害と似たものがあり、このことが偽陽性(統合失調症のごく初期や前駆症状と思われたが、実際はそうではなかった)の率が高くなる一因となっています。
【2007】でご紹介した、統合失調症の前駆症状疑い項目も、文言だけを単純にあてはめて用いると、非常にたくさんの解離性障害が「統合失調症の前駆症状疑い」とみなされ、膨大な偽陽性が発生することになります。

なお、解離性障害についてさらに知識を得たい方には、次の本を強くお勧めします:

柴山雅俊 『解離性障害』 ちくま新書 2007年

著者の柴山先生は、解離性障害についてきわめて豊富な臨床経験をお持ちで、また、解離性障害についての医学論文も多数書かれています。
その柴山先生が一般の読者向けにお書きになったのがこの『解離性障害』です。
これは2007年に出版された本ですが、実は私はお恥ずかしいことに、ごく最近までこの本のことを知らず、解離性障害については、論文は多数あっても、一般向けの良い本は存在しないと思っていたのですが、この本を読んで、大袈裟でなく、驚愕しました。
その理由は、こういう言い方はある意味僭越ではありますが、私が臨床で実感し疑問を持っていた点が、見事に描写され、いかも説得力ある説明がなされていたからです。
著者の臨床体験と学識が融合された、名著といっていい本だと思います。
今回の【2000】から【2078】の中には、解離性障害のケースも多数ふくまれています。それらをお読みになって、解離に興味をお持ちになられましたら、是非この本をお読みください。




【2000】から【2078】までの回答は一連の流れになっています。【2000】、【2001】、・・・【2078】の順にお読みください。


(2011.6.5.)


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