精神科Q&A

【1997】擬態うつ病と気分障害の関係


Q: 32歳、男性です。先生の著書を拝読しました。それでも擬態うつ病(気分障害)と大うつ病の区別がよくつかなかったため、メールさせて頂きました。 先生は著書それは、「うつ病」ではありません! で擬態うつ病を気分障害と名付けようと提唱しておられますが、これはDSM-IV-TRでいう大分類の気分障害とは異なるという理解で大丈夫でしょうか。 その場合、では擬態うつ病とは結局なんなのでしょうか。
マスコミでは例えば適応障害や気分変調性障害を新型うつ病(従来型ではないうつ病)として取り上げる傾向がありますが、医学的にはこれらは従来から知られている、大うつ病とは違うけど似ているだけの別の病気ですよね。
擬態うつ病とは、例えば、回避性パーソナリティ障害の軽い状態だとしたら、納得がいきます。「社会生活に困難をきたす」、がパーソナリティ障害の定義なので、かつては頑張ることで克服してきたものが、21世紀になり気軽に精神科に来てしまった。回避性パーソナリティ障害といえるほど重くはないが、本人が来院してしまった以上、病名をつけねばならない、なら、(林先生なら)気分障害と付ける。 こういう理解でよろしいのでしょうか。
それとも、擬態うつ病(気分障害)は、DSM-IV-TRでまだ定義されてない、本当の「新型」うつ病なのでしょうか。 または、そもそも精神科自体が「社会生活に困難をきたす」を大前提にしているところ、37度の熱で内科に来るような、受診の必要のない人間が来てしまっているのが擬態うつ病なのでしょうか。 しかし「うつ病ではない。でも助けが必要なのだから、病気じゃないといって切り捨てることはできない」と先生は著書でおっしゃっています。 ……などと思考が発散してしまい、どうにも理解が進まず、先生にメールした次第です。 お忙しい中恐縮ですが、先生の見解をうかがえれば幸いです。


林: 
擬態うつ病とは結局なんなのでしょうか。

擬態うつ病という言葉の指し示す範囲と、うつ病やその周辺の疾患との関係は、擬態うつ病 / 新型うつ病 実例からみる対応法 のp.156かp.157に、図とともに簡潔に記してありますのでご参照ください。

擬態うつ病とは、「うつ病ではないのに、うつ病とされているもの。または、うつ病と称しているもの」の総称です。これは、私の著書の中でも繰り返し説明していることです。残念ながら説明をよくお読みにならずに、擬態うつ病について語ったり、批判したりしている人々は大変に多いようです。けれども、この【1997】の質問者は、私の著書をよくお読みになったうえで、著書の中のわかりにくい部分について的確な疑問をお持ちになっていると感じられます。その疑問が生まれた主因は、それは、「うつ病」ではありません! のp.217からに、「気分障害」という用語を、公式の意味とは違った意味で使うことを私が提唱していることであると思われます。これについては今一度、同書のp.217からp.223をお読みになっていただきたいと思いますが、ここでは【1997】のご質問の一つ一つにお答えいたします。

先生は著書『それは「うつ病」ではありません !』で擬態うつ病を気分障害と名付けようと提唱しておられますが、これはDSM-IV-TRでいう大分類の気分障害とは異なるという理解で大丈夫でしょうか。

上記、p.217からp.223に記してありますが、同書で提唱しているのは、「DSM-IV-TRでいう大分類の気分障害」から、真のうつ病(それは、DSM-IV-TRでいう「大うつ病」とかなり重なりますが、完全に一致はしません)を除いたものを「気分障害」と呼ぶ、ということです。

マスコミでは例えば適応障害や気分変調性障害を新型うつ病(従来型ではないうつ病)として取り上げる傾向がありますが、医学的にはこれらは従来から知られている、大うつ病とは違うけど似ているだけの別の病気ですよね。

「大うつ病とは違うけど似ているだけ」という点については、その通りです。
但し、「適応障害」と「気分変調性障害」は互いに別のものですし、いわゆる「新型うつ病」が、これらを指すといえるかどうかは曖昧です。これについては擬態うつ病 / 新型うつ病 実例からみる対応法 4章 新型うつ病? に解説してあります。

擬態うつ病とは、例えば、回避性パーソナリティ障害の軽い状態だとしたら、納得がいきます。

回避性パーソナリティ障害であれ何であれ、またそれが軽い・重いにかかわらず、もしそれを「うつ病」と称するのであれば、それは擬態うつ病です。

「社会生活に困難をきたす」、がパーソナリティ障害の定義なので、かつては頑張ることで克服してきたものが、21世紀になり気軽に精神科に来てしまった。

そういうケースは多々あります。

回避性パーソナリティ障害といえるほど重くはないが、本人が来院してしまった以上、病名をつけねばならない、

その通りです。

なら、(林先生なら)気分障害と付ける。 こういう理解でよろしいのでしょうか。

それは「回避性パーソナリティ障害」(その軽い状態。質問文の前の部分では、「回避性パーソナリティ障害の軽い状態」と明記されておりますので、であればそれは「回避性パーソナリティ障害」です。)と付けるか、もし回避性パーソナリティ障害の基準を満たすに至らないのであれば、状態に応じた診断名をつけます。それは気分障害という診断名になるとは限りません。

それとも、擬態うつ病(気分障害)は、DSM-IV-TRでまだ定義されてない、本当の「新型」うつ病なのでしょうか。 

違います。擬態うつ病の定義はこの回答の冒頭近くに記した通りです。DSM-IV-TRでまだ定義されてないような全く新しいものを提唱しようなどという大それた考えは私には毛頭ありません。

または、そもそも精神科自体が「社会生活に困難をきたす」を大前提にしているところ、37度の熱で内科に来るような、受診の必要のない人間が来てしまっているのが擬態うつ病なのでしょうか。 

そういう人も、もしそれを「うつ病」と称するのであれば、擬態うつ病です。

しかし「うつ病ではない。でも助けが必要なのだから、病気じゃないといって切り捨てることはできない」と先生は著書でおっしゃっています。

その通りです。全く当然のことです。それと同じように、うつ病でないものをうつ病と呼ぶことはできないのも、全く当然のことです。

最後にもう一度だけ繰り返しますが、擬態うつ病とは、真のうつ病でないのに、うつ病とされている、または、うつ病と称しているものの、総称です。

(2011.5.5.)


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