精神科Q&A

【1970】統合失調症の妹に、どうしたら薬が効いて、自分が病気だとわかるのでしょうか‏


Q: 24歳の妹は、一人暮らしをしながら一年半前から仕事を始めました。妹は元々うつ病で、落ち着くために少し薬を飲んでいました。ただ、仕事が始まってからは、病院に行く時間がないと、薬も飲んでなかったようです。
仕事を始めて3ヵ月くらいから、上司と合わないということで私に相談の電話が増えました。妹が言うには、上司が悪口をみんなに言いふらすということでした。そして転職しようと思い、派遣に登録したところ、すぐ上司にバレ、余計に悪口を言われるようになったとのことでした。
そしてそれから約半年後、無断で仕事を休んだことで、実家に連絡がありました。母が至急かけつけたところ、妹は真っ暗の家の中にいました。 ストーカーがいる、盗聴されている、盗撮されて、ネットに流れてるからお風呂にも入れない。と1週間もお風呂に入っていませんでした。 この時点では、うつ病かと思っていました。
とにかくゆっくり休ませようと、実家につれて帰ってきましたが、実家でも、テレビもつけない、ずっと泣いている状態が2ヶ月ほど続きました。病院へ行っても、うまく話せず(言いたい事がまとまらない状態)、時間だけが過ぎ、両親が少し説明をし、薬をもらって帰ってくるのですが、その薬も一切飲みませんでした。 「飲まなかったら入院になる」と説得しても、一切飲みません。 家の雰囲気が悪くなっていたので、父が「疫病神・親子の縁を切る」など言うようになりました。 それくらいから、突然「○○結婚して」と言い出しました。それから口を開けばずっとこの言葉ばかり。 そして、間もなく勝手に一人暮らしの家に戻ってしまいました。その夜、タクシーの運転手から夜中出歩いて危ないと実家に電話がありました。(結婚したい相手を探してたみたいです) 次の日、嫌がるのを無理やりつれて帰りました。 ですが、その日の夜、また家を出ようとして、引き止めていたら暴れだしました。どうしようもないので、救急車を呼んで、病院へ連れて行き、すぐ入院という形になりました。 そこで統合失調症だと言われました。
それからいろいろな薬を試したものの、効く薬がなく、とりあえず効果のありそうな薬を飲み続け、2ヶ月後に退院になりました。 退院の際に、統合失調症と言われているはずなのですが、いまだ自分は病気と思っていません。 薬を飲む時も、「本当は飲まなくてもいいんやけど」と言いながら飲みます。 それから薬のせいでどんどん太ってしまったのですが、それはストーカーをしてた人のせいだ、と言ってききません。死ねと叫び散らすことも多々あります。訴えられないなら、自殺する、と言い、最近夜の海に入ってしまいました。 結局自殺できずに、帰って来ましたが、もうどうしていいかわかりません。担当の先生に相談したところ、「こんなに薬が効かない人はみたことない」と言われました。どうしたら薬が効いて、自分が病気だとわかるのでしょうか? 今、昼間は母が一人で妹を見ていて、かなり負担になっています。母の方がおかしくなってしまうんじゃないかと心配しています。 私たちはどのように接すればいいでしょうか。 長々書いてしまい、申し訳ありませんが、アドバイスなどいただければ幸いです。


林: 妹さんは統合失調症です。

妹は元々うつ病で、落ち着くために少し薬を飲んでいました。

とのことですが、このころすでに統合失調症が発症していたのでしょう。統合失調症の初期にはうつ状態となることはよくあります。その時期にはうつ病と誤診されることもあれば、診断がまだつかないので医師としてはさしあたっては「うつ状態」などの仮の病名をつけておいて慎重に経過を見ることもあれば、統合失調症と確定診断できていても本人や家族にはショックを与えないためなどの理由で病名を告げないまま治療を続けることもあります。
 この【1970】のケースがどれにあたるかは、このメールに書かれている一行だけの情報ではわかりかねますが、「元々うつ病で」、「落ち着くために少し薬を飲んでいました」という文章からは、質問者はうつ病について(また、統合失調症についても)、正確な知識を持っておられないことが窺われます。妹さんが「うつ病」とされていた時期にどのような症状があり、医師がどのように判断していたかを確認したいところです。飲んでいた薬はどのようなものだったのでしょうか。統合失調症の薬である抗精神病薬を飲んでいて、それによって症状が落ち着いていたことも考えられます。なぜなら、

ただ、仕事が始まってからは、病院に行く時間がないと、薬も飲んでなかったようです。


とのこと、それから間もなく被害妄想が出てきているという経過を見ると、統合失調症が、服薬中断により再燃したということが強く疑われるからです。但し、仕事のストレスがきっかけとなって統合失調症が発症したとも考えられますが、経過全体からみると、やはり当初の「うつ病」は、統合失調症の症状だったと見るべきでしょう。

その後、一人暮らしをしているうちに精神状態がどんどん悪化し、お母様が訪れた時には統合失調症がかなり進行していた。この様子は それは「うつ病」ではありません! のケース7にそっくりです。この【1970】では、この状態に至る前に妹さんから何度もかかってきた電話の内容から、統合失調症を発症していることは明らかですから、もっと前に何とかしてあげることが出来たケースだといえるでしょう。

それからご家族が大変な苦労をされてようやく入院が実現しましたが、2ヶ月の入院治療でもあまり改善は見られず、ご家族の失望はよく理解できます。しかし、

担当の先生に相談したところ、「こんなに薬が効かない人はみたことない」と言われました。どうしたら薬が効いて、自分が病気だとわかるのでしょうか?

この質問にはお答えしようがありません。処方されている薬の具体的内容が全く不明だからです。すなわち、処方が不適切(量が不十分など)なために効果が出ていないのか、適切な薬が処方されていてもなお効果が出ていないのか。それによって答えは全く異なります。(それから、適切な薬が処方されていたとしても、それをきちんと飲んでいるかどうか、これがかなり重要です。薬を飲んでいるとご家族が信じていても、実はほとんど飲んでいなかったということが、統合失調症ではしばしばあるからです)。

但しひとついえるのは、この状態で退院という判断が出たのはやや不可解だということです。かなり激しい妄想が残存し、まもなく自殺企図も見られているわけですから、まだまだ入院治療の適応だと思います。さらにいえば、2ヶ月の入院で、「薬があまり効かない」と判断するのはいかにも時期尚早といえます。まだまだ試みるべき薬物療法はあるはずです。
かつて日本の精神科病院では、入院があまりに長期に渡ることが多かったため、現在では、入院期間が短いのが良い入院治療とされています。入院期間が短いほうがいいことはもちろん確かですが、長期の入院治療が必要なケースが一定数存在することも確かですので、この【1970】のようなケースをあまり早く退院させるのはどうかと私は思います。現在の保険制度では、入院してから一定以上の期間がたつと、保険により病院に支払われる費用が下がることも、もしかすると関係しているかもしれません。この制度は、統合失調症の早期退院を促すためには優れているといえますが、逆に時期尚早の退院を促しているという裏の側面もあります。

ところでこの【1970】は、もっと前に何とかしてあげるチャンスが何回もあったケースといえます。

妹は元々うつ病で、落ち着くために少し薬を飲んでいました。

この時期に、統合失調症としっかり認識されていれば、薬を中断することなく、したがって被害妄想などが再燃することもなかったでしょう。
また、

仕事を始めて3ヵ月くらいから、上司と合わないということで私に相談の電話が増えました。妹が言うには、上司が悪口をみんなに言いふらすということでした。

この時期に、統合失調症の症状である可能性を質問者が認識し、精神科の治療を再開すれば、ここまで悪化することはなかったでしょう。

(2011.3.5.)


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