精神科Q&A

【1922】夫の激しい怒りや人間不信は幼少の頃の体験の影響でしょうか


Q: 30代女性です。わざわざ精神科Q&Aに投稿するほどの状態かと繰り返し自問しておりましたが、私の側の参り方はやはり、それに類するものかと思い切ってメールを差し上げております。
 夫は非常に外聞を気にする性質で、一見すると大変真面目な優等生、少しの友人の中ではユニークな一面も見せるという人ですが、家庭の中に入った時だけ見せる極端で激しい信じがたいような性格の持ち主でもあります。彼の中にはドロドロとした激しい怒り、人間不信、敵対心、恐怖心がいっぱいで、それはほんのちょっとしたきっかけで、爆発的に現れてくるのです。あまりに唐突で周りを平気で巻き込むので、特に子供が生まれてからの約10年間、私は彼にどう対処して良いものか、それに振り回されてへとへとになってしまいました。ある時急に、怒りの暗雲が晴れる時もあり、そんな時には彼は涙ぐむ子供のような率直な言葉で、苦労を掛けてすまない、君のおかげで人生が報われた、家族を大切に思っている、と言います。また機嫌の良いときは楽しい夫、父親でもあり、私もそんな彼を信じてここまでやってきました。しかし状態の悪い時の彼は手が付けられず、もともとあまり口が良くない(彼の父親もその傾向があるようです)こともあり、例えば未就学児の子供がちょっと駄々をこねただけでも怒りが爆発して「この野郎、ブッ殺されたいのか」「ふざけんな殺すぞ」「とにかく言うことを聞けっ!聞けっ!バカ野郎」「うるさい、邪魔だ」などと叫びだし、私が止めようとすると目を剥いてギリギリと歯ぎしりしたり威嚇したり、奇声を上げることもあり、激しく物に当たったりします。金属製のなべや蓋、フライパンが歪み、家具や床がキズで凹む程です。一方で物が倒れる、こぼれるなどを極端に嫌い、箸も使えない子供がちょっとコップをひっかけたりするだけで「ギャーッ!」と叫んで「気をつけろ!」などとたくさん怒鳴ります。私が小さい子供の失敗で、わざとしたことではないからと「失敗しちゃったね」と言っても、「失敗は絶対に許されん!」と切り捨てる始末です。
また、静電気をひどく恐れて、夏でも金属類にはチョイチョイと試して触れることを繰り返したり、鍵の閉め忘れや電気の消し忘れがないか、くどいほど確認したり、眠りが浅いなど神経質な面も顕著です。気分のむらが激しく、歯ぎしりや舌打ちはほぼ毎日で、自分がダメと思うものは絶対にダメ、と聞く耳を持たず「ちゃんと脳みそを使え」「人としてありえん」「白痴かよ」などと平気で人を貶めるような言葉を使います。
最初に書いたように、このような態度は絶対外では見せないので、ちゃんと分かっている筈なのに、家の中では暴言を吐きます。激しい怒りとは別に、眉間にしわを寄せて無言になり、家中の空気をピリピリさせるような時もあります。特に子供が(ただのねんねの赤ちゃんでなく)自己主張を始めた頃からひどくなり、私としても一番の心配は子供への影響です。一度、学校カウンセリングの配布プリントに「肯定的ストローク、否定的ストローク」という話があり、参考になったから読んでみて、と夫に渡してみたところ、自分はこういう大事なことをすぐ忘れてしまうから、と壁に貼ってくれていました。自分でも、三つくらいの異なる性格がある気がする、とも言っていました。

実は夫の母親は子供への関心が薄く、彼が小学生の頃に彼を置いて出て行ってしまったそうです。ずっと夫婦仲が悪く、怒鳴りあう両親の喧嘩を布団をかぶってやり過ごしたとか、死ぬの殺すのと包丁が出てきて泣いて止めたとも聞きました。時々、私への暴言で「女は」と罵ることがあり、私自身は彼の幼少の体験と今の彼の問題には関連があるのではと感じています。彼自身も苦しんでいるようなので、心療内科への相談を持ちかけたこともありますが、「どこの馬の骨か分からない奴が商売でやってるのに、そんな話が出来るものか」と取り付く島もありませんでした。大変長文になり申し訳ありません。読んで頂きありがとうございました。少しでも解決の糸口、改善のヒントが頂ければ幸いです。どうぞ宜しくお願い致します。


林: この方の幼少時の体験と、現在の状態、すなわち、爆発的に出てくる怒り・人間不信・・敵対心・恐怖心は、関連する可能性があります。
しかし、ここまで(【1901】から【1921】まで)繰り返しお話してきたとおり、幼少時の体験が事実かどうかはわかりませんので、関連性についての判断は慎重を要します。


◇ ◇ ◇

【1901】から【1948】までの回答は一連の流れになっています。【1901】、【1902】・・・【1948】という順にお読みください。

お気づきかと思いますが、【1901】からのここまで、男性のケースは【1914】とこの【1922】だけで、その他はすべて女性でした。この後も【1948】まですべて女性のケースが続きます。
 境界性パーソナリティ障害や摂食障害は女性のほうが男性よりずっと多い。その理由は明らかになっていませんが、ひとつ考えられることとして、境界性パーソナリティ障害や摂食障害の原因として虐待、それも性的虐待が関与しているとすれば、性的虐待を受けやすいのは女性であるため、結果として境界性パーソナリティ障害や摂食障害は女性が多くなっているという説があります。これはそれなりに納得しやすい説ではあります。
 しかし反論として、境界性パーソナリティ障害に関しては、実は男女ともに同じくらい存在していて、ただ医療機関を受診するのは女性のほうが多いというだけであるという説もあります。では男性はどこに行ったのか。その答えとして一部で言われているのは、男性は特に受診せずに社会にいる。または、刑務所にいるというものです。たとえば境界性パーソナリティ障害の症状として、キレる、すなわち、急な怒りの爆発があります。女性ならそれはある程度許されても、男性だと暴力事件や傷害事件になる。あるいは性的逸脱行動という症状もある。これも、女性なら逸脱行動として、許されるとはいわないまでも犯罪にはなかなかならないが、男性だと強制わいせつ罪や強姦罪になる。という説です。
これはそれなりに興味深い説ですが、私の個人的見解としては、誤った説だと思います。


(2011.1.5.)


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