精神科Q&A

【1913】自己中心的で子育てがうまくいってない従妹。原因は幼少時の虐待でしょうか。


Q: 子育てがうまくいっていない義理の従妹がいます。 その従妹には、5歳女児と1歳男児がいるのですが、5歳女児のほうとしょっちゅう衝突してしまい、常に近くの旦那様のご実家で旦那様のお母様が子供達のお世話をしている形になっています。 少し前も、5歳女児と衝突し、その後、旦那様とも衝突し、離婚するかしないかの話になってしまったので、私も喧嘩の仲裁に入りました。 
しかし、従妹の話を聞いて驚愕しました。
一つ目は、その従妹は小さな頃にひどい虐待を受けて育ってきた事。いつ自分も同じ事をして、新聞沙汰になってしまわないかとても心配で、子供と衝突した時は、泣きじゃくる子供をよそに、部屋に鍵をかけ、一人閉じこもって耐えている・・・と。
二つ目は、その従妹の考え方自体が、あまりにも自己中心的であり、人の意見や話を聞く耳を一切もっていないこと。この時、私は聞くことに徹していましたが、旦那様やそのご両親などの近い家族はとても、頷いて聞けるような筋の通った内容ではありませんでした。普段はとても物静かで口数も少ないので、そのギャップにびっくりしました。 小さな頃の虐待の傷が今も深く残っており、愛情不足からか、性格がゆがんでしまっているという印象を受けました。 従妹が実家からこちらに来て6年。友達もいないようですし、話して発散する場もなく従妹は従妹でかわいそうな気もします。 また、このままでは5歳の子にまで同じ傷を負わせてしまうのではないかと心配です。 周りのご家族も、子育てできない従妹の代わりにいつも子供の面倒を見たり、夫婦喧嘩などの仲裁に入ったりで、振り回され限界を感じていると言っていました。 なにかアドバイスがありましたら、どうぞよろしくお願い致します。

林: 
小さな頃の虐待の傷が今も深く残っており、愛情不足からか、性格がゆがんでしまっているという印象を受けました。

そうかもしれませんし、そうでないかもしれません。
【1912】までの一連のケースを目の当たりにすると、この【1913】のように過去の虐待の告白をされたとき、現在の精神状態(性格を含む)は、虐待の影響と推定したくなるところです。
 けれども、この【1913】の従妹の方が本当に虐待を受けていたという証拠があるのでしょうか。このメールには

一つ目は、その従妹は小さな頃にひどい虐待を受けて育ってきた事。

としか書かれておらず、具体的な内容も不明ですし、そもそもこの従妹の言葉が本当かどうかもわからないのではないでしょうか。
さらに加えて、

二つ目は、その従妹の考え方自体が、あまりにも自己中心的であり、人の意見や話を聞く耳を一切もっていないこと。

という事実があることは、虐待についても、自分を正当化ないしは自分が被害者であるとして同情を買うための虚言や誇張という可能性も考えなければならないでしょう。

しかしもちろん逆も考えられます。すなわち、虐待が自己中心的な性格を作ったのかもしれない。つまりまとめるとこういうことです:

この【1913】のケースは、
・虐待が自己中心的な性格を作ったのか
それとも
・自己中心的な性格だから、虐待を受けたという虚言をしているのか
がわかりません。
これは、虐待をめぐる事例では常に問題となる点です。この【1913】のメールのような抽象的な内容からは、どちらが真実か、到底判断できません。


◇ ◇ ◇

【1901】から【1948】までの回答は一連の流れになっています。【1901】、【1902】・・・【1948】という順にお読みください。

【1913】で指摘したのは、虐待のケースの多くに共通する問題です。虐待と関連する可能性があるとされているのは境界性パーソナリティ障害とその近縁の状態ですが、それらの一つの特徴として、虚言が少なくないということです。この虚言とは、必ずしも意識的な嘘とは限らず、自分でも真実と信じ込んでしまっていると思われることも少なくありません。すると、

・虐待があったから境界性パーソナリティ障害になったのか
それとも
・境界性パーソナリティ障害だから、虐待を受けたと虚言しているのか
がわからないという問題がつきまとうのです。
【1912】まではこの問題にはあえて触れませんでしたが、実際には【1901】から【1912】のすべてについて、本人のいう虐待が本当にあったことなのかという重大な問題があるのです。
 虐待と境界性パーソナリティ障害(とその近縁の状態)との因果関係の有無が、「可能性あり」と言われていてもなかなか証明できない原因の一つはここにもあります。


(2011.1.5.)


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