精神科Q&A

【1909】幼児期のトラウマとパニック障害は関係ありますか


Q: 16歳の女子です。今現在は高校へ通っています。 このたびネットサーフィンをする中、貴ホームページを知り、ご質問させていただくしだいであります。私が未熟なため冗長になってしまっています。いくつかある質問を、できるだけ整理してまとめてみました。それでも目を通していただければ幸いです。

■病名を医師から聞きたい■
 私は幼い頃よりとある症状を持っていて、それを自分でも考えてゆくうちにパニック障害なのではないかと思い当たっていました。それに関しては貴ページやその他の資料など己なりに考えたものでした。しかし、今までは医者にかかることも、他にこのことを打ち明けることもなかったのですが、旅行が近づいてきているこの機会に、つい先日、精神科へ行って参りました。 
 のですが、そのときはパニック障害だろうかということを直接聞くことや、そうではないかと思っていることなどは医師に言えずじまいで、症状を説明したのみで、ソラナックス0.4を処方されて帰ってくることになってしまいました。
 聞けなかった病名や医師の所見が今になって気になっているのですが、通院しましょう、というわけでもなく、今後軽い気持ちで病院にまた行くことは容易ではない気がし、どうしたらよいものかと悩んでおります。精神科へ伺うことは自分のことなのですが正直慣れませんし、抵抗もある。ただ単に病名を聞くために伺うことなどは少々ためらいがあります。もしかしたら医師は思春期だから病気ではないとお考えかもしれません。(よく思春期×2と言っていらしたので)。どうすればよいでしょう。

■幼児期のトラウマは関係があるのだろうか■
 同じ題材なのですが、パニック障害そのものに関する質問です。私は幼い頃からドメスティックバイオレンス及び家庭内の環境が、今考えてもとても酷い、正気ではないと思える環境におりました。残念ながら今もしかりです。そのようなことから私自身こちら方面の悩みも抱えておりまして、幼児期は悪夢、夜中に寝てる間もしくは急に目が覚め発狂(パニック障害?)、昼間に衝動的なキレ衝動などを抱え今に至っています。悪夢では殺される夢、殺す夢、パニック状態になるときの状態が三次元で映像化されるような(後から整理したものです。ありえないことが己の中で起こっている、そんな感じの)夢、圧倒的な恐怖だけの夢、無音の夢・・・それらの中に恐ろしい父の意識が働いているのではないかという経験を、多感な時期はしてきました。このようなこともパニック障害への影響を与えているのでしょうか? ただし、自分で言うのも何なのですが、私がパニック状態に陥るときの状態は決してこれらのトラウマの爆発だとかだけではありません。正気に戻らない≠アとが毎回なのです。
かかった医師には、その日連れて行ってもらった何も知らない母がカーテン越しにいたのでこれらの深い部分が言えずじまいでした。(正直言える自身がありませんが、泣笑)私はパニック発作の起きる感覚がとても開いていて、今では三ヶ月おきぐらいなのでまだ薬は使用していません。

□精神的な話からずれてしまう相談ですが・・□
ちなみにもともと自殺願望などもあり、リストカットも繰り返しています。(自傷といったほうがよいかもしれません)今まで書いたものはいろいろ感情を交えてしまい、わかりにくくなってしまっています。医師にかかったときも、己の中のものをうまく伝達できず、ほとんど何も核心部は相談できませんでした。これだけを書くにも悪戦苦闘しているものを何か医師に伝えやすくする方法はないでしょうか。
 正直、こんなんで生きていける自信なんてありませんし、価値・・価値がなければ死ぬしかないとほぼ毎日考えている状態です。これは少し前まで、どんな人間(ギャル、その他の人でも)でも同じことを思っているのだと思っていたのですがどうやら違うようなので、私はどうしたらよいか途方にくれています。自分は果たして誰かを愛することができる人間なのだろうかと、それができなければ生きてゆく価値もないような気がして、息が止まります。
正直、自分が病気でも、気違いでも、私は何でもいいのだと思います。死が魅力的になったときに終わっていた、そう思えるのです。それでも。
質問させていただいてこんなこと書き散らして申し訳ありません。そろそろ、締めさせていただきます。
それでは。

□最後に□
このメールを送れること、送るところが、人がいらっしゃるということは私にとってはとてもうれしいことです。一筋縄ではいかない悩みを抱えて昨日を終えても、それでも今日こうやって進もうとしている自分はこのような場所があるから、それだけなのかも知れません。こんなことをいうのはきっと私だけではないのでしょう。私的なことや、耳に悪いことなどを書きすぎました。あまり長くかいても意味はありません。この辺で。
質問のほうも答えてくださったらそれにまさる喜びはありません。


林:
私は幼い頃よりとある症状を持っていて、それを自分でも考えてゆくうちにパニック障害なのではないかと思い当たっていました。

とのことですが、【1909】の質問者はパニック障害ではないと思います。
その理由の第一は、

ちなみにもともと自殺願望などもあり、リスカも繰り返しています。(自傷といったほうがよいかもしれません)

こうした症状を持つ人で、ご自分で「パニック障害」と考える症状がある時、その多くは境界性パーソナリティ障害で、「パニック障害」「パニック発作」ではないかと考えている症状は、境界性パーソナリティ障害にしばしば伴う不安感の爆発(あるいは、時には解離)であることが大部分だからです。また、

昼間に衝動的なキレ衝動などを抱え

価値・・価値がなければ死ぬしかないとほぼ毎日考えている状態です。


これらも、しばしば境界性パーソナリティ障害に伴う症状です。

理由の第二は、

私は幼い頃からドメスティックバイオレンス及び家庭内の環境が、今考えてもとても酷い、正気ではないと思える環境におりました。

このような幼少時の体験がパーソナリティ障害と関連する可能性があること。【1907】までで説明してきた通りです。

そして、

幼児期は悪夢、夜中に寝てる間もしくは急に目が覚め発狂(パニック障害?)、昼間に衝動的なキレ衝動などを抱え今に至っています。悪夢では殺される夢、殺す夢、パニック状態になるときの状態が三次元で映像化されるような(後から整理したものです。ありえないことが己の中で起こっている、そんな感じの)夢、圧倒的な恐怖だけの夢、無音の夢・・・それらの中に恐ろしい父の意識が働いているのではないかという経験を、多感な時期はしてきました。

これは、PTSDの症状としてよく見られるものです。
PTSDという病名がいきなり出てきましたが、PTSDと境界性パーソナリティ障害には密接な関係ありとする有力な説もあります。【1907】までで説明してきたとおり、境界性パーソナリティ障害が幼少時の虐待と関連があるとすれば、それはトラウマによって引き起こされているということであり、PTSDと共通するメカニズムが背景にあると推定するのは合理的です。この説を支持する人々の中には、境界性パーソナリティ障害とその近縁の状態を複雑性PTSDと呼ぶ立場もあります。

それを境界性パーソナリティ障害と呼ぶにせよ、複雑性PTSDと呼ぶにせよ、あるいは単にPTSDと呼ぶにせよ、いずれにせよこの【1909】のケースの症状には、幼少時の虐待が関連している可能性があります。

ただし、自分で言うのも何なのですが、私がパニック状態に陥るときの状態は決してこれらのトラウマの爆発だとかだけではありません。正気に戻らない≠アとが毎回なのです。

おそらく上記を「パニック発作」と考えているのだと思われますが、「トラウマの爆発」だとすれば、それはPTSDに近い症状です。また、「正気に戻らない=vという表現は漠然としていて具体的な症状が不明なので何ともいえませんが、解離であるとも考えられます。

◇ ◇ ◇

【1901】から【1948】までの回答は一連の流れになっています。【1901】、【1902】・・・【1948】という順にお読みください。

境界性パーソナリティ障害とその近縁の状態を複雑性PTSDと呼ぶ立場の代表的な学者はHerman ハーマンで、心的外傷と回復 という著書が非常に有名で、PTSDの図書室にも紹介してあります。しかしこの本は有名であると同時に、賛否両論の激しい議論を呼んでいます。それについても順次ご紹介していきます。

(2011.1.5.)


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