精神科Q&A

【1903】兄からの性的虐待と、ひきこもり・過食嘔吐・OD


Q: 23歳女性です。現在無職で実家で一人暮らしをしています。両親は共働きで家にいない事が多く現在もそれは続いています。私は幼い頃から兄からの性的虐待を受けてきました。性的な事から普通の暴力に変わっていき、長い間続きましたが4年前にやっと兄が実家から出て行き現在兄との交流はないに等しいです。

私は普段から半ひきこもりの状態で一人でいる事が多く仕事もまともにしていない状態です。もっとがんばりたいと思うのに頑張れない。自分の人生がまるで他人事のように思えます。自分が女である事の恐怖、過食嘔吐、拒食、市販薬のODなど、まともじゃない事はわかっています。
でもどうしても病院にいく気になれないのです。私は一度も精神科に通院した事がありません。自分がまともじゃないのはわかっているけれどどんな病気かもわからないのです。不安でどうしようもないときはただ黙って泣いてうずくまって耐えるだけです。最近はだんだんそれが増えていきました。誰にも相談する事は出来ません。何年もかけてどんどん自分が壊れていく。そんな感覚が増えていきます。悩んでいるフリはやめてもっと強くなれ。そう言い聞かせて生きています。やりたい事があったはずなのに今ではそれが何なのかもわからなくなってきています。
身近に精神科に通院している友人がいますが、その人も安易に病院に行くのは勧めないと言っています。私自身、病院に行くとしてもお医者様になんて言ったらいいのかわかりません。それでも私は精神科に行った方がいいのでしょうか。ちゃんとお薬を処方してもらえれば少しは楽になるのでしょうか。それほど大切な事なのでしょうか。くだらない質問で申し訳ありません。よろしくお願いします。


林: 幼い頃から19歳まで、長年続いた実兄からの性的虐待と暴力。質問者の現在の過食嘔吐、拒食、市販薬のOD (過量服薬)は、虐待を受けていたという過去と関連があると思います。

自分が女である事の恐怖

摂食障害では、自らの女性性の拒否、成熟することへの拒否などが深層にあるとする学説もあります。この説は現在ではむしろ否定される傾向がありますが、しっくりとはまるケースも時にはあることも事実で、この【1903】はそれにあたるかもしれません。すなわち、過去の性的虐待経験が、自らの女性性の拒否につながっているという説明が可能です。ただしこれはそういう説明が可能ということにすぎません。
それから、

自分の人生がまるで他人事のように思えます。

これは離人と思われる症状で、やはりこれも虐待との関連ありと推定できます。

【1902】の回答で、「虐待と関連ありと思われる【1901】、【1902】のケースは、パーソナリティ障害の範疇と思われる」、と説明しました。パーソナリティ障害、特に境界性パーソナリティ障害とその近縁のもの(DSMという診断基準では、B群に含まれるパーソナリティ障害です)は、幼少時の虐待と関連があるという有力な説と、その裏づけとなり得る研究データが多数あります。【1902】の説明でも少し触れましたが、今回、【1901】から【1948】の中で、もう少し詳しく説明していくこととします。この【1903】も、虐待と現在の状態の関連が推定されるケースです。

不安でどうしようもないときはただ黙って泣いてうずくまって耐えるだけです。最近はだんだんそれが増えていきました。

これは、うつ病というより、境界性パーソナリティ障害に伴うムードスイングの色彩があると考えられます。

身近に精神科に通院している友人がいますが、その人も安易に病院に行くのは勧めないと言っています。

「安易に病院に行くのは勧めない」という点では、私も同意見です。
けれども、【1903】の状態は、精神科での治療が必要なレベルだと思います。

それでも私は精神科に行った方がいいのでしょうか。ちゃんとお薬を処方してもらえれば少しは楽になるのでしょうか。

【1903】の質問者に対して、薬の治療は補助的な手段としては考えられますが、中心的な治療法にはならないでしょう。精神療法が必要です。「安易に病院に行くのは勧めない」とさきほど言ったのは、このようなケースに対しては、どの精神科医でも適切な精神療法ができるとはいえないからです。慎重に医者を選び、いったん決めたら、その先生の治療を一定期間は受ける続けることが大切です。

◇ ◇ ◇

【1901】から【1948】までの回答は一連の流れになっています。【1901】、【1902】・・・【1948】という順にお読みください。

(2011.1.5.)


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