精神科Q&A

【1889】「殺せ、殺せ」という言葉が頭に浮かびます


Q: 40代女性です。最近、頭の中が、まともな時と、おかしいときがあり、症状に、波がありすぎなのです。よろしくお願いします。
いま三歳の子育てをほぼ99.9%一人でしています。 おかしいときは、頭の中に、同じ言葉だけが自分の意思と関係なく、浮かんでくるんです。殺せ、殺せという言葉だけが。 でも今通っている病院にはその言葉が浮かんできているのを、怖くていえません。子供は今が一番大切なときなのに、自生思考とはこのことでしょうか。その言葉が頭に浮かんでくると、手足はうまく動かなくなり、痺れたような感覚?になり、他の事を考えようとしてもその言葉が浮かんできて、悪寒がします。集中できなくなり、頭が霧の中にいるみたいな感覚になります。女友達家族とともに、遊び、楽しいときは忘れているのですが、その場を離れたとたんまたでてきます。子供の漫画番組の戦闘番組キャラクターやこわそうな絵画を見ただけで、その言葉、「殺せ」が頭のなかに浮かび、ふるえています。

というのも、夫が不貞行為をしていて、去年から、私が離婚要求されています。そこから精神安定剤ソラナックスと、漢方薬2種類をのんでいます。三歳の子がいて、私は出来るなら印鑑を押すつもりは無いと伝えていますが、今、主人に会話しようとしても、話が飛躍し、逆切れされたりする状態です。 
私は夫の自営の仕事を何十年と手伝ってきていましたが、会社に来させないようにされて、〔私の親にあることないこと言って〕会社を追い出されてしまいました。なので私が突然行かなくなった形です。 そこからすごいストレスがたまりつづけ、目や顔がこわばるようになり、耳鳴りキーーーンというのが絶えず、頭が重石をのせているかんじや、下痢が10日も続き、脱水症にもなったほどです。たとえば知り合いに対しても顔が引きつり、子供に対しても笑顔で接しようとしても、顔が引きつり、ママ顔怖い なんていわれてしまったこともあるほどです。
実家は両親が不仲で、たまに行っても落ち着かないほどで、頼れないんです。産後もそれで里帰りせず、帝王切開後、一人で産後15日目から動いて働いていたら、軽い産褥うつになって、デパスとリスパダールなどを飲み続け、その当時は一日4時間だけ役所のサポートセンター子育てグループの力を1歳になるまで借りて、どうにか育ててきました。なのに主人はその当時から子育て一つもせず、いままた裏切り行為をし続けている状態です。念のためですが主人の浮気は、妄想ではありません。証拠もあります。 どうか子供を守るために、よろしくご回答お願いします。 今は症状が落ち着いていて、これをかけましたが、ひどいときは、料理しながらキャベツの千切りをしているときも、その言葉が頭にうかんでくるのです。子供にそのうち、自覚がなくなり危害に及ぶのではと心配です。どうかお願いします。


林: 二つの可能性が考えられます。

第一は、ご主人の不貞などのストレスに対する反応としての症状です。頼れる人がいないためそのストレスにお一人で対処しなければならないという状況が、心身に強い反応を生み出した結果が、このような症状になっているという可能性です。
症状はひとことで言えば幻聴ですが、幻聴といっても色々な内容があり、このように「殺せ、殺せ」といった短く単純な言葉が聞こえることは、ストレスに対する反応としてもあり得ることです。
メールの文章の内容をそのまま読めば、この第一の可能性のほうが高いと思います。

第二の可能性は、統合失調症です。
いま私は「短く単純な言葉が聞こえることは、ストレスに対する反応としてもあり得る」と言いましたが、統合失調症でもこのような幻聴はあり得ます。また、【1889】の幻聴の体験のされ方が自生思考に近いことは、統合失調症の可能性にむしろ傾くともいえます。
とは言うものの、
もし、幻聴のほかには、メールに書かれている症状以外には症状がないのであれば、症状は幻聴だけということになり、統合失調症と診断することはできません。
が、本当にないのでしょうか。

軽い産褥うつになって、デパスとリスパダールなどを飲み続け、

この「軽い産褥うつ」とはどのようなものであったかが問題です。
「デパスとリスパダール」は産褥うつに対して、あり得る処方ですが、抗精神病薬のリスパダールが処方されていたということは、何らかの精神病症状 (統合失調症圏内の症状) があったのかもしれません。
 すると、メールに書かれているご主人の不貞は、妄想であったという可能性が浮上します。質問者は、

念のためですが主人の浮気は、妄想ではありません。証拠もあります。

と言っておられますが、もし質問者が妄想を持っていた場合、本人の「妄想ではありません」という言葉は、妄想の存在を否定する根拠には全くなりません。また、妄想を持っている人はしばしば、「妄想でなく事実だ。証拠もある」と主張するものです。

でも今通っている病院にはその言葉が浮かんできているのを、怖くていえません。

するとこのメールに書かれている他の症状だけを話しておられるということでしょうか。それでは適切な治療はできません。回復のためには、この幻聴のことを主治医にお伝えすることが必須です。

どうか子供を守るために、よろしくご回答お願いします。

念のためくり返しますが、この【1889】の質問者が統合失調症かもしれないというのは一つの可能性にすぎません。メールの内容だけからみれば、統合失調症はむしろ否定的です。しかしながら、統合失調症などのために妄想を持っている母親は、たとえば【1647】のように、夫を非難し、ご本人は子どもを守るために必死に努力していると確信していることも稀ではありません。すると、本人の書かれたメールからは真実は判断しにくいということになります。

この【1889】には、メールに書かれていない重要な情報がたくさんあるように思われます。その隠された情報の内容次第では、統合失調症の可能性がクローズアップされることになります。
いずれにせよ、いま診療を受けている先生に、「殺せ」という声が聞こえることを詳しくお伝えすることが、状態を良い方向に向かわせる第一歩だと思います。

(2010.12.5.)


精神科Q&Aに戻る

ホームページに戻る