精神科Q&A

【1877】弟が統合失調症だということを両親が認めず、心の風邪だなどと言って治療を阻んでいます


Q:  30代の女性です。29歳の弟が統合失調症の治療中です。その弟に対しての、家人の対応についての、ご相談です。
高校卒業後、定職にもつかずにいた弟に症状らしきものがあらわれて数年がたち、家人も危険を感じるほどの手がつけられない状態になってからようやく家人を納得させ、私が手配をして精神病院に緊急搬送しました。 弟の症状ですが、極度の妄想がありました。同じマンション内の何号室の誰それに集団で嫌がらせを受けている、インターネットに陰口を書き込まれている、盗聴盗撮されている。自分の部屋やリビングに目張りをしてまわり、機械が仕掛けられているといっては天井をはがしたりしていました。母親にお金をせびり、探偵を呼んだこともありました。(嫌がらせをしている人間は見受けられない、という調査結果に、弟は『やつらもグルだった」と結論づけたようです) 当時私は一人暮らしをしており、仕事先まで訪ねてくる弟の相談にのったりしていましたが、弟の言い分や行動が常軌を逸し出してしばらくして、賃貸の住まいは別に持ったまま、実家に戻りました。 弟はマスクをしてサングラスをかけ帽子を被り、家に引きこもっていました。風呂に数ヶ月入らず着替えないため、悪臭が漂っていました。また、摂食に異常な執着を見せ、極度に食事を制限しているようで痩せていました。用意された食事はとらず、隠れ食いを繰り返し、食後は大抵暴れます。 「おれはおとなしくしているだろう」「無理に食べさせやがって」「おまえらが食えっていったんだろ」「ふざけるな、死ね!」 宙をむいて独言や罵りを繰り返し、騒ぎ出したらとまりませんでした。大抵は食後の暴れは、妄想の中の敵への暴言に転化していきます。しかし、家人が独言に反応するため、弟は敵意を向ける対象を今度は家人に転化し、大声でわめきちらし、暴れます。これを弟と家人は、飽きることなく繰り返していました。

弟は明らかに病気でしたが、私から見れば、両親もおおいに問題がありました。治療を受けさせようにも、姉にはできないが、親にはできる手段がほとんどでした。ですが、その親がまるで動いてはくれませんでした。危ないこととはわかっていますが、統合失調症が疑われる人の回りの人間に、法的に報告義務を定めてほしい、何度つよく思ったかわかりません。 父親はまるで見ないふりというか、悪気は感じないが本当に自分以外のことに関心がないのです。(葬儀だろうが親戚の集まりだろうが、文脈的に不適切なところで笑ったりしますので、何かしらの精神的な問題を持っていると思います。子どものような人間です)母親は精神疾患に偏見と抵抗があるようで、「うちの子はキチガイじゃない」の一点張り。通常ならここで両親も問題を感じ、様々に調べると思うのですが、一見まともそうな母親でさえも、どこで聞いてきたのか「うつ病に違いない、心の風邪だから」「○○さんのところも、うつ病だったけど治ったって」と言い張り、病気を助長していたように思います。
仕方ないので、私が医者や保健所や警察に相談し、本人が納得して医者にかかるのが一番いいが、おそらく難しい、医療保護入院が一番現実的だろうということで、何度も両親を説得しました。が、叶わず、母親も父親も殴りかかられる、夜中から夜明けまで大声で喚いている、急に暴れだす、というふうになってから、ようやく何かしなければならないと認めました。 緊急搬送先を確保し、父親をとにかく打ち合わせに同席させ、(弟の緊急搬送の打ち合わせをしているのに、笑顔で延々自分の話をしようとするのです。本当に、この人が社会的に問題をおこさず生きていることだけが、奇跡です)搬送先の病院を確保し、緊急搬送することになりました。この頃には母親も弟に怯えており、なんとか同意を得ることができました。緊急搬送にかかった費用は、私が負担しました。ここまでが半年ほど前の話です。
弟は現在閉鎖病棟で治療中です。ようやく、食事をとり、入浴も行うようになり、薬も飲むようになってきたとのこと。特に服薬には、非常に抵抗があるそうで、薬を鼻の穴に隠したりしていたようですが、病院の方たちが無理強いせず上手に対応してくださり、いまは飲んでいるようです。 2週間ほど前に親戚に不幸があった関係で母親が一時外出をさせたところ、治療の甲斐あって大分好転していました。色々と私を質問攻めにし、言葉の端々に大変理屈っぽく四角四面な印象も受けましたが、統合失調症自体にそういう傾向があるとも伺いましたので、後々の躓きになってはよろしくない、となるべく明確な返答をさけました。注意してみていますと、時折独言(「ふざけるなよおまえら死ね」のような言葉を宙にむかって呟く)が出たりしますし、一度興奮して自分がいかに被害を受けているかを訴え暴れかけたりもしましたが、全体的にみれば明らかに好転していましたので、うれしく思いました。同時に、通常の生活はまだまだ難しいのではないか、とも思いました。
その後、経過と今後の対応等を相談しに医師を訪ねました。発症後治療開始まで時間が経過した場合は特に継続した投薬治療が必須であること、本人にも服薬をやめればまたつらい状態に陥る、ということを言い聞かせているそうでした。

長くなりましたが、ここからが、今回ご相談したい内容です。家人の今後の対応についてです。この後に及んで、両親とも病気や治療について認識していないのです。母親は、医者から話をきいたこともありません。統合失調症について少しは勉強したらどうか、と常々言っていますが、まるで興味がないようです。父親は、一時外出時に質問攻めにする弟に対して、うれしそうに的外れな教訓を話して聞かせていました。また、奇妙な雑学の本を差し入れており、そちらも大変心配です。「世界のウラ事情」とか「裏社会の秘密」であるとか、被害妄想をまだ捨て切れていない患者にはおよそまともな神経があれば与えないような類の本を、与えていました。眩暈がしました。 女親の常なのでしょうか、母親は舞い上がっており、隙あらば外出をさせたがります。とはいえ、自宅の弟の部屋は未だゴミ屋敷のような荒れ放題の状態ですので、(一度私が大量にたまっていたゴミを捨てましたが、部屋をふさいで見えないようにしているだけで、片付ける様子がありません)そちらにはさすがに戻していません。法事だ、お盆だ、とただひたすら、つれまわしていることが至上の喜びのようです。外泊時の様子についても、「良好である」だけ強調し、きちんと報告していなかったため、自分が医師に報告したところ、外泊許可がおりづらくなると思ったのか、糾弾されました。 患者本人はもうすぐ30代。両親は、二人とも60を過ぎています。母親は会社に勤めており、65までは働くといっています。フルタイムでの就業後はパチンコ店で過ごすため、帰宅は23:00ごろです。父親は会社を数年前にクビになってからは、毎日テレビを見たり本を読んだり買い物したりして過ごしています。父親はなんとなく過ごしているようですが、母親はとにかく弟を病院から出したいようです。 何の考えもなく弟を家に戻して、いったいどうするつもりなのか。当人の今後の生活を親身に考えるのであれば、少しでも自活できるよう、サポートすべきであると思います。自分の感情を満足させ、先のことを考えないのはおろかです。 母親を何度説得しても、聞きたくない内容だからか、耳を貸してくれません。
「未だに妄想があるようだが、そのきっかけであるマンションの弟の部屋に戻すのか」 →「引っ越せばいい」「家に戻ってきたあとに、前のように何もせず家に篭るより、 軽作業なりなんなり無理のない働き口はあったほうがいい。 
「事前に話し合って自立支援施設をさがしてみたらどうか」 →「冗談じゃない、一緒に住む、それでいい」 ちなみに引っ越すときの資金のあては、私の貯金のようです。ここまで何も考えていないと、私自身彼らに付き合うのがいやになってきました。考えない人間が悪いのです。自分で責任をとってほしい。これ以上時間をつぶされたくない。正直、両親とも縁を切りたい気持ちでいっぱいです。 治療がうやむやになり、病状が悪化したらどうするのか。元の木阿弥どころか、時間が経つ分、前よりひどくなると思います。年をとった両親、悪化した病状、万が一取り返しのつかないことになったらどうするのか。弟のことを真剣に考えるなら、ほかにやりようがあるのではないのか。困り果てています。 どうぞよろしくお願い申し上げます。



林:  質問者のご見解に異論はありません。弟さんは統合失調症であり、その回復の最大の障壁はご両親です。質問者は姉としてできる限りのことをしておられると思います。

母親は精神疾患に偏見と抵抗があるようで、「うちの子はキチガイじゃない」の一点張り。

自分の子どもが精神病であることを認めたがらないのは、親御さんとしてはむしろ普通です。そして、中には、いくら事実をつきつけられても絶対に認めない親御さんもいらっしゃいます。このようなことの結果、精神病(統合失調症)の存在は表面化しにくくなっています。実際には統合失調症は100人に1人近く存在するのですが、そんなに多いようには感じられないことの一つの理由がここにあります。隠されているからです。

通常ならここで両親も問題を感じ、様々に調べると思うのですが、一見まともそうな母親でさえも、どこで聞いてきたのか「うつ病に違いない、心の風邪だから」「○○さんのところも、うつ病だったけど治ったって」と言い張り、病気を助長していたように思います。

統合失調症とは逆に、うつ病には偏見が少なくなってきたため、心の病であれば何でもうつ病と考える、あるいは、うつ病と考えたがる、さらには、うつ病以外は一切考えない・認めない、というこのお母様のような方も少なからず存在します。うつ病患者がとても多いように感じられることの一つの理由がここにあります。

ご両親のこのような姿勢に対して、質問者の方は弟さんのためにこれまでとても根気良く努力を続けておられたことが読み取れます。しかしそれが全くと言っていいほどむくわれていない。ご両親の側に問題があるのは明らかに見えます。

ここまで何も考えていないと、私自身彼らに付き合うのがいやになってきました。

その気持ちは理解できます。

考えない人間が悪いのです。

そこまで言えるかどうかはわかりません。

自分で責任をとってほしい。

その気持ちも理解できます。

これ以上時間をつぶされたくない。

その気持ちも理解できます。

正直、両親とも縁を切りたい気持ちでいっぱいです。 

その気持ちも理解できます。

治療がうやむやになり、病状が悪化したらどうするのか。

ご両親と、質問者と、それから誰よりも、弟さんご本人がダメージを受けることになると思います。

元の木阿弥どころか、時間が経つ分、前よりひどくなると思います。

異論はありません。

年をとった両親、悪化した病状、万が一取り返しのつかないことになったらどうするのか。

どうしようもないでしょう。

弟のことを真剣に考えるなら、ほかにやりようがあるのではないのか。

それはもちろんです。ご両親が現実に目を向け、質問者のアドバイスに耳を傾けるのが最善でしょう。
しかし、質問者のこれまでの懸命のご努力にもかかわらず、ご両親に変わる様子がない現在、

困り果てています。

無理もないことです。

私が回答できる事実は以上です。

 

(2010.11.5.)


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