精神科Q&A

【1824】統合失調症の妄想を利用して薬物治療につなげるべきか‏


Q: 姉は30代前半で、2年ほど前から聴覚が敏感になる、被害妄想などの症状が出始め、現在は自分の思考が外に漏れる、「神のお告げがある」といった妄想など典型的な統合失調症の状態です。1ヶ月ほどまえに精神科を受診し、統合失調症との診断を受けました。今回は姉の妄想を利用して薬物治療につなげることの是非についてご相談したく、メールをさせていただきました。 
 姉は自分の妄想を「スピリチュアル」と呼んで超能力のようなものと考えているようで、病気ではないと主張しています。このため、かたくなに薬を飲もうとしません。初診時に入院までこぎつけることができたのですが、本人の希望で10日間ほどですぐに退院してきてしまいました。 
 家族として困っているのは、どうやって本人に薬を飲ませるかということです。強制入院という選択肢もありえるとは思いますが、主治医の判断では、いきなり荒療治をするよりも、通院でできる限り穏便にことを進めたほうが今後の家族との関係を考えても良いのではということでした。ただ、本人は「年金をもらうために通院しているだけで、薬は絶対に飲まない」と言っています。家族としても薬を飲んでもらおうと説得を試みたのですが、まったく聞き入れられませんでした。
現在考えているのは、本人がこだわっている「スピリチュアル」ということを利用することです。本人は「西洋医学に不信があるから薬は飲まない。スピリチュアルの判断もできる精神科の医師の判断なら聞く」と言っています。インターネットなどで調べてみると、「薬物治療の必要性は認めつつも、霊的治療を行う」としている団体もあるようです。家族としてはこうした団体はあまり信用しておらず、本人の妄想に拍車をかけるような危険のあることはしたくないのですが、とりあえず本人が治療を受ける可能性のあるところに連れて行き、そこで薬物治療を勧めてもらう選択肢もあるのかとも考えています。 
先生としては、こうした行動は本人の意向に家族が引きずられすぎで、結果的に妄想を助長してしまうとお考えでしょうか。それとも、薬物治療の糸口としてはありだと思われますでしょうか。長くなってしまいましたが、ご回答頂ければ幸いです。


林: 
こうした行動は本人の意向に家族が引きずられすぎで、結果的に妄想を助長してしまうとお考えでしょうか。それとも、薬物治療の糸口としてはありだと思われますでしょうか。

それはケースバイケースです。妄想を逆に利用して治療につなげること自体は、治療の導入として例外的な方法ではありません。【0427】は、きわどい例ではありますが、その好例といえるでしょう。けれども【0427】はきわどいと言っても妄想が病気で医学的な治療が必要ということは認識した上で対応されているのに対し、この【1824】のような団体はその点が曖昧ですので、このような団体の力を借りることで、妄想が助長されるおそれは大いにあります。また、

スピリチュアルの判断もできる精神科の医師の判断なら聞く

そういう医師がいたして、その医師が、その患者の医学的治療を実現するための便法として「スピリチュアルの判断もできる」と表明しているのであれば信頼できますが、そうでない場合は信頼できません。

とはいえ、どうしても治療を始められない場合は、リスクがあってもそうした手段を取らざるを得ないこともあるでしょう。しかしそれはいわば最後の手段です。

 

今回の更新(2010.10.5.)について

(2010.10.5.)


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